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64:1stナイトメアヒート-4

本日一話目です

「ーーー……」

 直後。

 音がした方向とは別の岩陰から、槍を持った男が飛び出してくる。

 分かっていた。

 此処まで物音一つ立てずに移動できたプレイヤーが最後の最後で詰めを誤る可能性は低いと。


「ふんっ!」

「っ!?」

 だから私は即座に空中で反転すると、勢いそのままにフレイルを振り上げて、槍の穂先を弾く。

 同時に分離させたフレイルの打撃部は襲ってきた男に向かって飛んでいく。


「ーーー」

「ちっ」

 が、素早く後方に跳ぶ事によって男は私の攻撃を回避して見せる。

 どうやら向こうも私が引っ掛からない可能性についてはしっかりと考えていたようだ。


「「……」」

『チュウ』

 後ろの草むらの中で少し音がしている中、岩の上に着地した男を私はしっかりと見る。

 武器は槍で穂先は金属製だが、持ち手は木製。

 身に付けているのは革と植物の葉を組み合わせる事で作られた迷彩服のような衣服で、頭も口元もしっかりと隠しており、外から窺えるのは目元と……魚のヒレのようにも見える耳ぐらいか。

 たぶん、水中適性に近いものは持っている。

 だが、この男をザリチュは魚ではないと判じた。

 つまり、他にも何かあるのだろう。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「ー!?」

 いずれにせよ、姿を晒している限り、私の邪眼からは逃れられない。

 とりあえず毒(78)は叩き込んだので、これでもうよほどの量のHP回復アイテムか、毒回復アイテムがない限りは詰みだろう。


「ーーー!」

 せめて道連れにと言わんばかりに男が突っ込んで来る。

 こうなれば、多少の被弾では止まってくれないだろう。


「お断りよ」

「っ!?」

 私は大きく跳び、更には背中の翅も使って、草の上を飛び越えていく形で一気に数本分の清流を超えていく。

 よく見れば、草むらの中に足を引っかけたり、絡めたりする程度の罠が幾つも隠れているのが見えた。

 どうやら此処は男の狩場として整えられていたようだ。

 ありがたい、彼が死んだ後は私が有効活用するとしよう。


「さて……」

 私は錆が目立ち、一部が壊れている鉄塔へと近づいていく。

 地形を無視できる私と、自分の罠を避けないといけない男では機動力に違いがありすぎるためだろう、私と男の距離はどんどん離れていく。

 この状況で男が一矢報いるとすれば、その方法とは?

 遠距離攻撃一択だ。


「ーーーーー!」

 一度屈んでいた男が声にならない叫び声を上げつつ、手に持った槍を投擲する動作に入る。

 私はそれを見て、素早く直ぐ下の岩場に着地して、フレイルを構える。


「ーーー!」

 槍が投擲される。

 私に向かって真っすぐに飛んでくる。

 末尾に道具袋のような物をくっつけながら。


『チュウッ!!』

「げっ!?」

 それを見た私は素早く横に跳んでいた。

 直後、槍が私が居た場所に落ちて岩に弾かれ、その衝撃で道具袋の中身……赤い木の実のような物がばら撒かれる。

 その木の実は私の周囲にも幾つか飛んできていて、岩や地面に触れた木の実は一度大きくバウンドしてから空中で真っ赤に染まり……


「っつう!?」

 炸裂し、爆竹のような音と火花を散らす。

 恐らく効果としては精々が目晦まし程度なのだろうが、私の火炎耐性は装備の影響でかなり下がっている。

 そのため、一気にHPが30%近く削り取られる。


「最後の最後で……『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「っつ!?」

 男はサブ武器と思しき短剣を持って、私の方へとゆっくり近寄ってきていた。

 これ以上動かれて、本当に相打ちになったらやっていられない。

 私は『毒の邪眼・1』を5つの目だけで発動。

 男の受けている毒が100を超えるようにし、重症化させることでその場から動けなくする。


「ーーー!?」

「あら」

 そして男が倒れると同時に、さっきの赤い木の実が男の懐から漏れ出したのか、爆竹音が周囲に鳴り響く。

 なんにせよ、これであの男はもう大丈夫だろう。

 問題は今の音を聞きつけて誰かが寄ってくるかもしれないと言う点だが……少なくとも今すぐに駆けてくるようなのは居ないか。


「よし、今のうちに鉄塔の上へ行くわよ」

『チュウ』

 私は目を一つ、男の方に向けておき、完全に死ぬまで警戒は怠らないようにしておく。

 だが足を止める理由もないので、私は鉄塔の下に移動。

 階段を上り始める。


「だいぶ錆が浸食してはいるわね……」

 鉄塔はだいぶ脆くなっているようで、階段の幾つかは板が落ちてしまっている。

 また、筋交いの鉄骨も幾つか朽ちている。

 ここまで錆が浸食していると、根元で爆発やそれに類するような強力な攻撃が行われたら、あっさり鉄塔そのものが倒壊する事もあるかもしれない。

 まあ、倒壊したところで私は空を飛んで逃げるだけなので、そこまで問題にはならないが。


「あ、死んだ」

『チュッチュ』

 と、ここで先程の男が死んで消え去った。

 そう言えば彼は戦闘開始から今に至るまで一言も声を発していなかったが、あれはRPなのかそうせざるを得ない呪いだったのか……まあ、今となってはどうでもいい事か。


「到着っと」

 私は途中から階段から梯子に変わった鉄塔を上り続け、頂上に着く。

 この鉄塔の元々の用途はよく分からない。

 送電用の物とも、電波用の物とも微妙に違う感じがあるからだ。

 まあ、ここは聖女様の悪夢の中。

 モザイク状の地形と同じで、深く考えても仕方が無いかもしれない。


「さて、暫くは休憩ね」

『チュー』

 私の残りHPは600と少しぐらい。

 想像以上にあの木の実に削られた。

 予選マップの呪詛濃度はまだまだ低い。

 此処は暫く待つのが良さそうだ。

 と言う訳で、私は柱の一本に背中を預けると、周囲の風景を眺めつつ時が経つのを待つ事にした。

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