63:1stナイトメアヒート-3
本日二話目です
「ふむふむ」
木に登った私は周囲の確認をした。
事前の告知通り、予選マップは様々な地形がモザイク状に組み合わさっている。
その証拠に私が居る場所は丈の長い草が生え揃った草原だが、どの方角も300メートルも進めば別の地形に変わっている。
北は砂漠、東は荒地、南は森林、西は湖と言う感じにだ。
そして、その先には湿地帯もあれば、鉄塔のような物が立っている場所も見えるし、丈の短い草原も存在、崖のような物もあるようだ。
砂漠の隣に湿地帯がある場合もあって、規則性も何もあったものではない。
「さて、どこをどう目指した物かしらね……」
私は木から降りると、少しだけ考える。
今の予選マップは呪詛濃度5で、そのために呪詛濃度10の霧を纏っている私の姿は一部プレイヤーからとてもよく見えてしまう。
これが開始から2時間経過して予選マップの呪詛濃度が6になれば、状況は一気に改善される。
と言うのも、今、私の周囲の霧を遠くから見れてしまう異形度5のプレイヤーは、アバター作成時に誓約書が必要ないので、それなりに存在するが、異形度6のプレイヤーはアバター作成時に誓約書が必要になるので一気に少なくなるのである。
この差は大きい。
「そうね。鉄塔らしきものを目指しましょうか」
『チュッ』
現在の残り人数は500人を割っている。
どうやら、予選マップ全体で散発的に戦いが起きているようだ。
が、恐らくは100人を切るくらいのところで、停滞が始まる事だろう。
今、積極的に減っているのは、プレイヤーのやる気が漲っているのと、時間をかけると不利になるのが分かっているプレイヤーが居るからだが、何処かでマップの広さ、人数、索敵の難易度が釣り合って、進みが遅くなるはずだ。
「出来るだけ有利な場所を確保しておかないと」
私はそれまでに自分にとって有利な場所を確保しておかなければいけない。
私の邪眼術は相手の周囲の呪詛濃度に影響を受ける。
先程は相手に組み付いて、呪詛纏いの包帯服の効果範囲に相手を入れる事で無理やり呪詛濃度を上げて強化した『
理想は予選マップ全体の呪詛濃度がある程度上昇するまでは隠れ潜み続け、その後に生き残った連中に超遠距離から毒を与えて始末するスナイパーのようなスタイルか。
ドロップアイテムの回収は難しくなるが、これが一番安全で確実だろう。
「敵影無し。戦闘音も無し。ザリチュ」
『チュー』
「匂いの類も無し」
では、私にとって有利な場所とは?
まあ、定石どおりに行くならば、周囲の遮蔽物が少な目であるのが一つ。
これは必要に応じて私が隠れられると共に、私の潜伏場所に接近する敵や狙撃する相手をいち早く見つけられるからだ。
次に高所である事が一つ。
これは高い場所の方が単純に視界が広がるからだが、遠距離攻撃手段が限られている現状では私の安全を確保する事にも繋がる。
これらを合わせて考えると……やはり遠くに見えている鉄塔らしきものか。
高さ40から50メートルぐらいはありそうだし。
「湖の中は流石に見えないわね……」
情報を改めてきちんと整理したところで、私の現在の状況。
湖と森林の境界を移動中。
森の中も湖の中も平和だが、何処に敵が潜んでいるか分かった物ではないので、慎重に進んでいく。
鉄塔が立っている場所までは……どうやらもう2エリア、火山地帯と凹凸の激しい岩場地帯を移動しなければいけないようだ。
「ふむふむ……時々、人工物っぽい物も見えるわね」
空中浮遊と虫の翅の組み合わせによって音を出さずに慎重に進んでいるのと引き換えに、私の移動スピードは非常に遅い。
周囲には時折、崩れたビルや建物の残骸のような物が見えている。
戦闘音は時折遠くから聞こえている。
残り人数も開始当初ほどではないが、順調に減っていっている。
鉄塔まで精々1キロメートルほどのはずだが、この分だと一回目の縮小が起きた後になりそうか。
「ま、溶岩地帯も崖も飛んで飛び越えて行けるから、楽でいいわね」
気が付けば残り人数は400人を切っている。
そして鉄塔があるエリアは……普通の人でも飛び越えられるような細い清流が何本も走り、間は丈の長い草と剥き出しの岩が敷き詰められていた。
人影は見えない。
よし、取れそうだ。
『チュッ!』
「!?」
そう思った時だった。
ザリチュが警告の声を上げる。
どうやら何かがあったようだ。
私は前進を止めて、周囲を警戒する。
「イエスならチュウ、ノーならチュー。分かった?」
『チュウ』
「匂いがある?」
『チュウ』
「今?」
『チュー』
「場所は近い?」
『チュウ』
一回目の縮小が起きた。
遠くの方で黒い非生存エリアを示す黒い領域が生じて迫る。
同時に赤いオーロラの位置が変わって、次回の境界の位置が示される。
鉄塔は……まだまだ問題なさそうだ。
「魚?」
『チュー』
「逃げてる?」
『チュー』
「そう、だいたい分かったわ」
さて問題の敵だが……。
どうやらこちらに近づいてきているようだ。
そして、私が隙を晒すのを待っているか、背後に回り込む事を考えているようだ。
水場を移動できる魚系でなく、草が擦れる音もしないので、相応の手練れでもあるだろう。
私は油断なく周囲を見ると共に、杖にしか見えない状態のフレイルを構える。
「そこっ!」
そうして草が揺れた瞬間、私はそちらに向かって杖を振りながら飛んだ。