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62:1stナイトメアヒート-2

本日一話目です

「ふっ!」

 周囲の光景が一変すると、私は周りの状況を認識しつつも素早くその場で身を伏せる。

 で、周りに今すぐ動くものがないことを確かめた上で、改めて状況を確かめていく。


「初期位置は草丈が長めの草原か。まあ、悪い方ではないわね」

 私の周囲にあるのは、丈が1メートルほどある細い葉が根元から生えている草。

 イネ科の雑草か何かだろう、たぶん。

 地面は私は触れられないが、僅かに湿り気を帯びているが、沼地や湿地帯と言うほどではないようだ。

 つまり、草を掻き分けて進むのが問題ないならば、戦闘も移動も潜伏もしやすいエリアと言える。


「ふむ、木々や茂みの類も全く無いわけではない、と」

 私は草より上の高さに翅の先端を出すと、そこに付いている目で周囲の様子を窺う。

 分かり易い敵影は無し。

 アフリカの草原にありそうな木や、人一人が隠れられそうな岩、イネ科ではない植物の塊などはあるが、こちらも誰かが隠れていたり、動いていたりする様子は無し。


『チュー?』

「分かっていると思うけど、不審な臭いや音がしたら教えて。ザリチュ」

『チュッ』

 まあ、予選に参加する人数(1,132人)と予選マップの広さ(10km×10km)を考えれば、初期スタート地点は案外ばらける。

 加えて現在の予選マップの呪詛濃度は5で、異形度4のプレイヤーでは500メートルまでしか見えない。

 この状況で速攻を仕掛けてくるプレイヤーが居るとするなら……。


『チュッ』

「来たか」

 草が風以外で揺れる音がした。

 実を言えば、今の私を一番見つける可能性が高いのは異形度5のプレイヤーだ。

 私は呪詛濃度不足対策として呪詛纏いの包帯服を身に着ける他ない。

 すると私の周囲だけ呪詛濃度が上昇し、呪詛濃度が10になる。

 で、この状態を呪詛濃度5から9のプレイヤーが遠くから見ると……他の場所は見通しが良いのに、私が居る場所の周囲だけ呪詛の霧が濃いという極めて目立つ状況になってしまうのである。

 一応垂れ肉華シダの葉と蔓を毒噛みネズミの毛皮に縫い付けて作ったギリースーツもどきを被ってはいるが、今の状況では無意味だろう。


「どう動く?」

 私は何時でも動けるようにしつつ、ゆっくりと、出来るだけ音を立てないように注意しつつ、移動を始める。

 これで気付かれていると察して離れる可能性もあれば、一気に詰め寄ってくる可能性もあるが……後者か。

 姿を隠すことを諦めて、一気に駆け寄り始める。


「ウオオオォォォ!」

 他を呼び寄せるから叫ばないで欲しい。

 という私の意見はさておき、詰め寄ってきているのはそれなりにプレイしている方のプレイヤーのようだ。

 手には金属製の刃を持った斧が握られ、鎧も革だけでなく金属も使われているし、草を掻き分けながらの移動がスムーズだ。

 異形は……緑色の皮膚、口から伸びた二本の牙、額から伸びた二本の角、あと一つ何かあるはずだが、外見からは分からないもののようだ。

 そんなゴブリンかオークのような男に対して、私は背を向けて逃走するように動き出す。


「逃がすかよ!」

 当然、既に全速力で駆けている相手とほぼ停止状態だった私では速力に大きな差があるため、直ぐに男は追いついて斧を大きく振り上げる。


「逃げるつもりなんて無いわ」

「っ!?」

 そして私の背中に向けて振り下ろされた斧をしっかりと見て、ギリギリのタイミングで横に跳んで回避。

 続けてフレイルを手放しつつ、相手の体に飛びついて、身体を絡みつける。


「なっ……」

「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

 驚く男に向けて『毒の邪眼・1』をゼロ距離で発動。

 一瞬深緑色の光が周囲に漏れる。

 そして男に表示されたのは……毒(143)という状態異常。


「馬鹿な……」

 重症化した毒によって男は立っていることも出来ず、その場で倒れる。

 さて、このまま放置していても確実に倒せるはずだが、時間をかけない方がいい状況なのでサクッと倒してしまおう。


「せいっ」

「ありがとうございますっ!」

 と言う訳で、倒れた男の背中に跨り伏せて、首をトゥースナイフで切り裂いてトドメを刺す。

 何故か恍惚とした表情で礼を言われてしまったが……マゾヒストか何かだったのだろうか、いや、それよりは重症化でひたすらに苦しい毒状態をさっさと終わらせてくれた事への感謝の方がありそうか。


「さて、追加の敵は……居なさそうね」

 私は改めて周囲の状況を確認。

 動くものはない。

 どうやら、この辺りに居たり、開始と共にこちらに向かって来たりしていたのはさっきの男だけのようだ。

 と言う訳で、フレイルを回収すると共に、男の死体が変化して生じた大きさ5センチメートルほどの緑色の八面体を手に取る。


「鑑定っと」

 今回の予選では、倒されたプレイヤーはこうしてアイテムに変化する。

 アイテムは全部で5種類あり、いずれも予選中にしか使えないが、的確に使えば予選を有利に進められるアイテムとなっている。

 公式サイトに公開されていた詳細はこんな感じだ。



△△△△△

HP回復結晶体

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


緑色の正八面体。

手に持って握りしめると砕け、砕いた者のHPが最大HPの10%回復する。

注意:1時間以内に4つ以上使用すると、以降予選終了までHPが回復しなくなります。

▽▽▽▽▽


△△△△△

満腹度回復結晶体

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


黄色の正八面体。

手に持って握りしめると砕け、砕いた者の満腹度が10回復する。

注意:1時間以内に4つ以上使用すると、以降予選終了まで満腹度が回復しなくなります。

▽▽▽▽▽


△△△△△

耐久度回復結晶体

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


青色の正八面体。

手に持って握りしめると砕け、砕いた者の所有しているアイテムの耐久度が10回復する。

注意:1時間以内に4つ以上使用すると、以降予選終了まで耐久度が回復しなくなります。

▽▽▽▽▽


△△△△△

干渉力向上結晶体

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


赤色の正八面体。

手に持って握りしめると砕け、砕いた者の干渉力が1時間、10上昇する。

注意:1時間以内に2つ以上使用すると、以降予選終了まで干渉力が20低下する。

▽▽▽▽▽


△△△△△

エリア予測結晶体

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


黒色の正八面体。

手に持って握りしめると砕け、砕いた者の視界に次々回のエリア縮小結果が見えるようになる。

▽▽▽▽▽



「うん、問題なし」

 鑑定結果は公式サイトに記されていたものと変わりない。

 ちゃんとHP回復結晶体だ。

 なお、ドロップするアイテムはランダムなので、運が悪いと終盤なのにエリア予測結晶体ばかりが手に入ると言う不運に見舞われる可能性もあるが……まあ、私がこれからしようとしている事を考えたら、問題は無いか。


「さて、残り人数は……500人と少しか。一気に減ったわね」

 予選開始から10分ほど。

 だいたいのプレイヤーは最初の接敵と交戦を終わらせたのだろう。

 残り人数が一気に減っている。

 まあ、一対一だけでなく、漁夫の利、相打ち、事故死の類を考えれば、むしろ残っている方なのかもしれないが。


「エリアは……この辺はまだまだ大丈夫そうね」

 私は空を見上げる。

 すると赤いオーロラのような物がどの方向の空にも僅かだがかかっているのが見える。

 アレの真下が次回のエリア収縮の結果、生存エリアと非生存エリアを分ける境界が生じる場所だ。

 とりあえず、どの方向を見てもオーロラが見えるなら、此処は境界の内側と言う事で心配は要らないだろう。


「……。とりあえず2時間は隠れておきたいわね」

 私は周囲の地形を確認するべく、近くの木へと移動を始めた。

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