61:1stナイトメアヒート-1
本日二話目です
『盛り上がってるか化け物共おおぉぉ!』
「ウエエエェェイ! ってあれ?」
「兄ぇ……」
予選開始までゲーム内時間で後30分ほど。
私たちは個室へと戻ってきていた。
で、テレビに映ったのはトップハント社のロゴマークでもある水色のデフォルメされた海月型の生物。
額には運営の文字があり、聞こえてくる声は女性の物だ。
あ、ブラクロは無視で。
『はい、私。『CNP』運営の
最初は着ぐるみの類かと思ったが、どうやら私たちが使っているアバターと同じ物を使っているようで、百本以上ある海月の足は個別に動いている。
流石は運営、異形アバターの扱いは私たちとは比べ物にならないと言う事か。
『え? どうして人間型のアバターを使わないのかって? 分かってないなぁ。折角の『Curse Nightmare Party』のイベントなんですよ。そこはらしくいかなきゃあ。駄目じゃないですか。という訳で、外からのゲストも招いていますが、我々は我が道を貫き通す。そこに痺れて欲しいし、憧れて欲しい』
海月らしい軟体っぷりを示すように、万捻さんは足を曲げて170度くらいの反りをしつつ、数本の触手を束ねて手のようにして此方に向けている。
うん、素晴らしいアバター扱いだ。
私ももっと自分の体を上手く扱えるようにしたいものである。
『さて、時間も押している事ですし、そろそろイベントについての話を進めていきましょうか』
万捻さんが予選についての説明を始める。
と言っても、参加者がイベント詳細を自分で見ている前提なのだろう、説明内容としてはだいぶ簡略化されたものである。
『さて、概要についてはこんなところですが、幾つか細かい部分で変更が入りました。結構な重要事項もあるので、参加者の方は特に聞き逃さないように』
「変更ですか」
「ふうん……」
私たち全員の雰囲気が一気に引き締まる。
運営がわざわざ重要事項と言ったのだから、聞き逃すのは拙い。
『まず初めに、今回のイベント参加者はなんと36,212人となりました。これは運営の想定を遥かに超える数です。いやー、素晴らしい!』
「よくもまあ集まったもんだな。もっと少ないかと思ってたぜ」
「まあ、サービス開始前から初回イベントの内容は発表されていたからね。そう言うのが好みな連中が上手く集まったんだろう」
万捻さんが感謝と書かれたプラカードを掲げつつ、タップダンスを踊る。
百以上の足を絡ませる事なくタップダンスを踊るその姿は実に見事である。
『が、これを16のグループに分けて予選を行うとなると、少々一つのグループの人数が多くなりすぎてしまいます。そこで変更を行います』
「……」
『具体的には予選のグループ数を変更。16から倍の32に増やします。で、これによって本戦のトーナメントも一回戦多くなり、タイムスケジュールについても幾らか動きますね。詳細については別途各自でご確認ください。無理のないように調整はしていますので、ご安心を』
「ふうん……」
『では最後に一つのグループに参加するプレイヤーの数を発表しましょう。人数は……』
ドラムロールが始まる。
少しずつリズムが早まっていき……
『1,132あるいは1,131となります。そして、この中からたった一人だけが本戦に進む事が出来るのです!』
発表された。
「千人オーバーとは聞いていたが……やはり多いな」
「最初とかひでぇ乱戦になりそうな気がするな」
「どうだろうな。私たちが扱うのは銃器ではなく近接武器が殆どだ。そう考えると、案外索敵からの遭遇戦が主体になるかもしれないぞ」
「ゴクリ……」
「やる事に変わりはない」
「そうね。やる事に変わりはない。最後の一人になれば、それで勝ちよ」
「ですね」
千人以上の異形の者が一堂に会しての殺し合い。
うん、実に禍々しい悪夢になりそうだ。
それが見れると言うだけでも、イベントに参加する価値がありそうなぐらいである。
『それでは、予選開始までもう暫くございますが、準備が整った選手の方はお手元の準備室入場ボタンを押して、予選開始に備えていただけると幸いです』
手元に半透明のウィンドウと共に、ボタンが表示される。
私たちは一度視線を交わした後、それぞれにボタンを押して準備室に転移した。
「こんにちは。タル様」
「……」
で、移動した先の私のセーフティエリアそのままの空間には何故かC7-096が居た。
「用件は?」
「予選開始前にタル様から幾つかの了承をいただいておきたいと思いまして。ああ、後回しで構いませんよ。許可を貰えなくても別段問題はありませんし」
「了承?」
私は改めて自分の準備に過不足が無いかを確かめると共に予選のルールを確かめ、普段通りの姿になったアバターで一応の準備運動をしていく。
それが終わってから、C7-096が渡してきた書類を手に取る。
「ふうん……」
書類の内容は、邪眼術『
情報公開の理由としては、私が予選で呪術を使用すれば、それに対する質問が飛んでくるのが予想されるため。
私がゲーム内で自分の努力によって得た情報なので、何処まで公開するかは私次第。
そして、私がどう対応しても、この件について運営は全力でサポートをしてくれるとのこと。
「呪術の存在については公開して構いません。バレバレでしょうけど、邪眼や魔眼と言ったワードはなしで。それと……折角なので、呪術『毒の魔眼・1』の杯の中身を味だけコピーした液体を用意してみるのはどうかしら。アレを飲めば大体の連中は黙ると思うのだけど」
『チュアッ!? チュ、チュア、チュッチュたるうぃチュッチュアアアァァ!!』
「おお、それは実に素晴らしい提案ですね。タル様。運営の方に私から報告と相談をしておきましょう。アレすら飲み干せずに、タル様に文句を言う権利などございませんしね」
私は笑顔を浮かべつつ回答する。
C7-096も耳近くまで口の端を吊り上げながら笑顔で賛同する。
ザリチュは激しくわめているが私もC7-096も無視する。
「ではタル様。お手数をおかけいたしましたが、後はこちらで上手くやらせていただきます。ですので、どうぞ心おきなく戦いをお楽しみくださいませ」
「ええ、思う存分楽しませてもらうわ」
C7-096が姿を消す。
準備を整えた私は身構える。
視界の正面上寄りにはタイマーが表示されている。
また、予選第13ブロックと言う表示も出ているので、そこが私の参加ブロックなのだろう。
『カウントダウーン! 10……9……8……7……』
「すぅ……はぁ……まずは最初ね」
『6……5……4……』
「行くわよ。ザリチュ」
『チュ』
『3……2……1……』
何処からともなく響く万捻さんの声と共にタイマーが減っていく。
『0! 予選スタート!!』
そして0になると同時に私の周囲の光景は一変した。