57:1stナイトメアプリペア-3
本日二話目です
『タル、噴水に着いたわ。右手を上げた後、軽く一回ししてもらっていい?』
「分かりました」
ザリアからの連絡に従って、私は毒鼠のフレイルを左手に持ち替えてから、右手を指示通りに動かす。
すると直ぐに私の事に気付いたらしい髪の毛が多肉植物のようになっている武装した女性が近づいてくる。
どうやら彼女がザリアのようだ。
「タル……で、いいのかしら?」
「ええあってますよ。ザリア。何なら鑑定する事で確かめてもらっても大丈夫です」
「では、失礼して。あ、タルも見て構わないわ」
「分かりました」
私と推定ザリアはお互いに『鑑定のルーペ』を向け、鑑定を行う。
すると普段より少し深い所を見られたと言う感覚を覚えると同時に、ザリアのステータスが表示される。
△△△△△
『剣士の呪い人』・ザリア レベル7
HP:1,060/1,060
▽▽▽▽▽
「はい、確かにザリアですね」
「……。そう……ね。確かにタルだわ」
なお、わざわざ鑑定の前に了承を受け取ったのは、今回の交流エリアに限らず、『CNP』全体の空気として鑑定と言う行動を勝手に行うのは失礼な行動であり、敵対行動の一種として認識するべきと言う考えがあるからだ。
と言うか、検証班によれば、システム的には鑑定は立派な攻撃であるらしい。
ベノムラードも鑑定には反応していたようだし、今後は対象がモンスターであっても、相手の知能次第で鑑定を行うかどうかは考えた方がいいのかもしれない。
「そ、それじゃあタル。早いところ移動しましょうか」
「そうですね。周囲の目も気になってきましたし、移動しましょう」
さて、鑑定結果には少し気になる点がある。
しかし、ザリアの見た目が良いのと、私の格好が格好であるためか、周囲の人々の視線が少しずつ私たちに向き始めていて、このままこの場に居ると先程のような連中がまた絡んできそうな雰囲気があった。
なので私はザリアに連れられる形で広場を後にする。
「此処なら大丈夫よ」
「みたいですね」
そうしてやってきたのは、特定のメンバーだけでゆったりと観戦するための場所と思しき、小部屋だった。
モニターにソファーや机、気分を味わえるだけだが、炭酸飲料やジュースと言った飲み物に、スナック菓子の類も完備されているようだ。
また、各自のセーフティーエリアに移動するための扉も設置されている。
多くの客を集めて観戦するスタジアムのような空間もあるらしいが、私としてはこちらの方が好みかもしれない。
「ザリアのゲーム内の友人は?」
「もう少ししたら来る予定。この部屋の位置はもう伝えてあるから、その点は心配しなくてもいいわ」
「分かりました」
ザリアの友人たちが来るのはもう少し先。
ならば今のうちに聞いておくとしよう。
「タル。一ついいかしら?」
「なんでしょうか?」
が、ザリアが先に口を開いたので、先は譲ることになった。
「レベル9って何? 私の記憶が間違っていないなら、『CNP』のプレイヤーで現在一番レベルが高いプレイヤーでもレベル8だったと思うんだけど……」
「ああ、その事ですか。んー、高異形度かつソロでやっていれば、嫌でもレベルは上がりますよ。武器も防具も自分で作ることになりますから。ダンジョンだとレベルが上がり易い倒し方でもしないと、碌に素材も手に入りませんし」
「ああなるほど……。タルが高異形度だとは聞いていたけど、異形度6とか7どころじゃなくて16以上のダンジョンから出られない組だったのね」
「正解です。今は低異形度アバターですけど、本来は異形度19ですよ」
ザリアが尋ねてきたのは私のレベルについて。
まあ、呪術以外は隠す事でもないだろうし、ある程度は伝えてしまった方がいいだろう。
すると、私の本来の異形度が19だと聞いたザリアの頬が引き攣る。
「異形度19……マトモに動けるの……?」
「アバター作成直後は碌に動けなくて、最低限の動きが出来るようになるまでにゲーム内時間で8時間くらいはかかりましたね」
「私には無理だわ……」
「でも、慣れてしまったら、むしろ今の方が窮屈なくらいですよ」
「ああうん、そう思えるからこそ、セミオートで作ってもらえたのね……」
「かもしれませんね」
ザリア曰く、どうやら異形度19のアバターと言うのは掲示板でもまず見かけないと言うか、異形度16以上のアバター自体が極めて希少な物であるらしく、殆ど誰も見たことが無いらしい。
で、私のリアルを知っているザリアにしてみれば、私がそんな高異形度のアバターを扱える人物だとは思っていなかったようだ。
「でもまあ、レベルにしても、異形度にしても、高いからいいと言う物でもないんですよね。ああいや、レベルは高くても困らないのかな?」
「確かに『CNP』だとレベルが高いだけだとあまり意味は無いわね。頭が潰されたら関係ないし。異形度については……16以上だとダンジョンから出られなくなるんだったわね。アレは知った時には唖然としたわ」
「ええ、呪詛濃度不足には悩まされました。イベントが終わったら、後進の為に掲示板へ対策を書き込んでみるのはアリですかね?」
「タルがそれで困らないならアリじゃないかしら」
ま、レベルにしても異形度にしても、大して重要な項目ではない。
レベル絶対主義のゲームでない事は私がベノムラードを撃破したことで証明済み。
異形度は……実のところ10ぐらいが適性値でないかと思わなくもない。
ザリアには話していないが、異形度19にもなると、呪詛濃度10くらいではステータスが僅かに低下するようだし。
「で、呪詛濃度不足対策が出来ていると言う事は、イベントには選手として?」
「ええ、勿論参加します」
「そう。なら戦場であった時は全力で」
「そうですね。全力で戦えるならそうしましょうか」
ザリアが手を出し、私も手を出して握手に応じる。
「おいーっす。ザリア来たぞー」
「ザリア、こんにちわ」
と、ここでザリアの友人が来たらしい。
入口の方から、六人の男女が次々に部屋の中に入ってくる。
とは言え、交流エリアの都合で彼らもザリアと同じように普段のゲームでは別の姿なのだろうけど。
「いらっしゃいだけど……誰?」
「デスヨネー」
現に入室許可を出しているザリアが困惑顔だし、知ってましたと言う顔の青年以外の五人は少し笑っている。
「自己紹介。皆でしておきましょうか。名前と普段の姿ぐらいは教えておいた方が良さそうです」
「そうね。そうしましょうか……」
「そうだな。それが良さそうだ」
と言う訳で、私たちはまずお互いに自己紹介をする事になった。