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56:1stナイトメアプリペア-2

本日一話目です

≪イベント『聖女が想う(呪う)悪夢の宴』を開始します≫

 日曜日の10時、『CNP』初のイベントは開始された。

 予定では、

 リアル時間10時開演、交流マップにて交流開始。

 リアル時間12時から13時までの一時間、特設マップにて予選、主観時間では最大で丸一日かかる。

 リアル時間13時から15時までの二時間、交流マップにて休憩、この間に予選周りでの解説なんかもやるらしい。

 リアル時間15時から本戦、終了後そのまま表彰式などに移る。

 リアル時間17時、イベント終了予定。

 だったか。

 まあ、リアルのお昼は早めに済ませておいたし、トイレの類もしっかり行っておいたから、大丈夫だろう。


「……」

 周囲の風景が変わっていく。

 石と木とコンクリートで出来た建物と街路樹が立ち並び、地面が剥き出しの道、雲一つない青い空が広がっていく。

 何処からともなく人々が現れて、周りを見渡しながら、あるいは誰かと話しながら歩いていく姿が見え始める。

 そして、私の姿も現れ始め……


「と……っつ!?」

 出現が完了すると同時に姿勢を崩しかけ、慌てて手に持っていた毒鼠のフレイルで体を支えた。

 どうやら無事に交流エリア専用の低異形度アバターでログインできたらしい。


「ふぅ、危ない危ない」

 出来たらしいが……やはり低異形度アバターは私にとっては扱いづらい。

 普段の空中浮遊の影響下で虫の翅を利用して姿勢制御を行っている感覚に引き摺られて、上手く姿勢を保てない。

 おまけに鎖骨の間の目も含めて、真正面しか見えないから、視覚による情報量が圧倒的に足りない。

 交流エリアに居る間だけとは言え……不便だ。


『チューチュー』

「大丈夫よ。ザリチュ。ちょっと合わせられていないだけだから」

 私は軽く左手を何度か開け閉めし、裸足の両足裏で感じる土の感触を味わって感覚を確かめると、首を動かして周囲の状況を確かめる。


「プレイヤーみたいだが……」

「すっげえ格好だな……」

「何と言うか魔女っぽい格好だな。エロい……」

「なんか、少しだけ霧が濃いような……」

「谷間に目とはまた独特な……」

 周囲にいる人々はその大半が頭に犬や猫の耳を生やしていたり、腕が一本多かったり、肌が岩や鱗に覆われていたりと、殆どは普通の人間だが一点だけそうでないという感じの姿になっている。

 まあ、私も鎖骨の間に目があるし、その点では上手く馴染めているか。


「しかしエロい」

「服が胸と腰しか隠してないとかエロい」

「このゲーム、全年齢向けだったよな。大丈夫だよな」

「たぶんセーフ。きっとセーフ」

「でも、鎧でガチガチに固めてない奴なんて居るんだな」

 問題は服装か。

 殆どの人間は革製の鎧、あるいは金属で補強された鎧を身に着けていて、そうでなくとも普通の服のような物を身に付けている。

 また、靴だって当然のように着用している。

 私のように三角帽子と初期装備と同じ程度の部位しか守っていない服を身に付けているような人間は誰も居らず、私の性別もあって注目を浴びてしまっているようだ。


「そこのお姉さん大丈夫ですか?」

 と、ここで私に話しかけてきた人物が居たので、声の主の方へと私は向き直る。

 そこに居たのは、服装は一般人と言う感じのシャツにズボンで、全身の肌は墨で塗ったように黒く、顔には白い塗料で書かれたクエスチョンマークだけがある人物、恐らくは観戦の為に入ってくるゲストプレイヤーが使うゲストアバターと言う奴だろう。

 目が無いので何処を見ているか分からないし、口も無いから何処から声を発しているかも分からないが、とにかく彼が声をかけてきた人物のようだ。


「ええ、大丈夫ですのでご安心を。普段のアバターと違うので、少し反応が遅れただけですから」

「ならいいんだが……」

 とりあえず悪い人ではなさそうなので、一言だけ礼を言ってから立ち去るとしよう。

 早いところ、ザリアとも合流したいところであるし。

 そう思って私がこの場から立ち去ろうとした時だった。


「おいおい、ゲストアバターの分際でナンパとはどういう了見だあぁ?」

「へへへ……」

「ひひひ……」

「は?」

「……」

 なんか変なのが絡んできた。


「ナンパって何を言って……」

「なあなあ、そこの姉ちゃんよう。ゲストアバター何かで来てて、この先会う機会も無さそうなそこのよりも、この先もゲームで出会う俺らと交流しようぜ」

「そうだぜ、きっと楽しいぞ」

「良いことしようぜー」

 見た目ほぼバニラの男が三人。

 装備品は全員が金属部品交じりの革鎧を全身に身に着け、腰や背中にそれぞれの武器を提げている。

 表情は外卑たもので、リアルでの私の姿や雰囲気に騙された男の一部が見せるような物。

 ああ、つまらない。

 こんな既知の上に楽しさや喜びに繋がりそうな未来も見えない奴に絡まれるだなんて。


「えと、その……」

「はぁ……」

 まあいい。

 彼らへの対処の仕方なんて分かってる。


「≪GMコール≫」

「「「!?」」」

 と言う訳で私は素早く設定画面からGMコールの画面を呼び出すと、躊躇いなく押す。


「如何為されましたか?」

 すると即座に整った容姿に執事服を身に着けた男性……C7-096が現れる。

 こういう場面でも彼が現れると言う事は、アバター以外の担当も彼と言う事なのだろうか。

 まあ、それはさておきだ。


「知り合いでない相手から不快なナンパを受けました。どうすればいいですか?」

「ほう……では、こちらでお説教タイムと行きましょうか」

「ま、待て……いきなりGMコールだなんて……」

 私は言うべき事を言い、視線を三人の方へと向ける。

 C7-096は私の意図を察して、酷薄な笑みを浮かべ、両手を広げながら三人の方へと近づいていく。


「折角ですので、この場に居る皆さんに伝えておきましょう。ハラスメント行為とは、貴方たち行う側が冗談だろうが本気だろうが関係ないのです。相手が嫌だと思ったら、その時点でハラスメント行為なのですよ」

「だ、だからと言っていきなりGMコールってのは……」

「勿論、限度はございますが、今回は明らかに貴方たち三人に非があるでしょう。彼女へのセクハラに、ゲストに対する暴言、説教だけで済ませてもらえることに感謝して欲しいくらいです」

「ひっ……」

「あ、あ、あ……」

 芝居がかった口調でC7-096は三人に何が悪かったのかを説明していく。

 それと、C7-096の顔が見える位置にいるプレイヤーの顔色が微妙に悪くなっているのが見えるので、恐らくだがC7-096の今の顔は目玉だらけのアレになっているのだろう。


「では、じっくりお話ししましょうか」

「「「あああああぁぁぁぁぁ!?」」」

 そうして三人組は黒い霧に飲まれて何処かへと消え、C7-096も元の顔に戻った上で周囲に一礼、その後に消え去った。


「……」

 ふと、私の隣にいるゲストアバターさんを見れば、何処か呆然としているようだった。

 なので私は最初の礼も兼ねて、声をかける事にする。


「大丈夫ですか?」

「えっ、あっ! はい! 大丈夫であります!!」

 すると何故か背筋をきっちり伸ばした敬礼のポーズで返事をされてしまった。

 どうやら混乱しているらしい。

 うーん、この人は悪い人ではないようだし、此処にゲストで来てくれていると言う事は、購入まで行かなくとも『CNP』に興味を持ってくれている事も確か。

 『CNP』に対するイメージは出来るだけ良くしておきたいものである。


「そうですか。なら良かったです。『CNP』は好みの別れるゲームなのは確かですが、さっきのような輩は少数派のはずです。なので、先程の事は気にせずに今日は観戦を楽しんでいただけると幸いです」

「は、はい。分かりました」

「では、失礼させていただきますね。縁がありましたら、またお会いしましょう」

「あっ……」

 私は一礼をすると、ゲストアバターに背を向けて移動を始める。

 さて、これで彼の感情を少しでもよく出来たなら幸いである。


『チュー……』

「え? 礼節ある人には礼節を持って対応するのは当然の話でしょう? それにああ言う人が増えて助かる事はあっても、困ることは無いわ。ザリチュったら何を言っているのかしら」

『チュッチュウ!! たるうぃッチュウ!』

「ん? 話の内容を読み間違えたかしら? うーん、言葉が通じないってこういう時に困るわね。まあいいわ。早いところザリアと合流しましょう」

『チュアアアァァァ……』

 そうして私は少し街を回って、ランドマークになりそうな噴水を見つけたところでザリアに連絡を入れた。

タルは相手によって露骨に態度を変えます。


07/24誤字訂正

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