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53:リメイクフレイル-1

本日二話目です

「ふうん……」

『チュー』

 さて、水曜日、木曜日、金曜日の三日間。

 私はイベントに備えて準備をしつつも、地道に『ダマーヴァンド』下のビルを探索していた。

 とはいえ、風化現象に加えて、ゲーム開始までに色々とあったためだろう、ビルの方では使えそうな物は特にこれと言って見つからなかった。

 せいぜいが上手く風化を免れたちょっとした小物ぐらいである。


「あの日記でも分かっていたことだけど、このビルって元々は避難場所のようになってはいたのね」

 また、『ダマーヴァンド』のセーフティーエリアは転移による移動先にするには色々と微妙なためだろう。

 ビルの探索中に他のプレイヤーと遭遇する事も無かった。

 遭遇するのは『ダマーヴァンド』を旅立った毒噛みネズミ、毒吐きネズミたちぐらいなもので、そのネズミたちは私が『ダマーヴァンド』の支配者であるためなのか、私の姿を見かけると我先にと逃げてしまう。

 まあ、例え襲われても一対一なら『毒の邪眼・1』で仕留めるだけなのだが。


「で、この崩落のせいで脱出できなくなってしまったと」

『チュアー』

 私の前には崩落した階段と床が広がっている。

 高さは……このビルには地下があったらしく、底まで20メートル近くある。

 残っているのは鉄筋コンクリート製の柱だけ。

 流石に此処から外に出るのは、普通の人間には厳しいだろう。


「垂れ肉華シダの蔓は……たぶん利用できなかったんでしょうね。モンスターの事も考えたら、下手に坂道を作ったりもできなかったでしょうし」

 今は他のプレイヤーやネズミたちがそうしたように、ビルの外壁に沿って垂らされた垂れ肉華シダの蔓を使う事で登れるし、降りるだけなら上手く瓦礫が重なったところに向けて飛べばいい。

 空を飛ばなくても行き来は出来るのだ。

 しかし、このビルがあった時の文明が崩壊した際にあったであろう諸々を考えると……やはり無理があるだろう。

 だが、階段の崩落によって外に出られなくなったのは救いでもあったのかもしれない。

 少なくとも外からの脅威の大部分は断たれたのだから。


「ま、とりあえず降りましょうか」

 私はビルの地下に向かってゆっくり降りていく。

 特に呪詛の霧の濃さに違いがある訳でもなければ、何かが動いている様子が見られるわけでもないが、まだ行ったことが無い場所なのだから、行くべきだろう。


「ん?」

『チュ?』

 ビルの地下部分は駐車場だけでなく、色々な設備が入っていたらしい。

 たぶんビルの上層階で上水道を使うために必要なポンプなどが置かれていたのだろう。

 また、枯れ落ちているが、人が普通に入れるサイズの下水道も見える。


「グウウゥゥゥ……」

 同時に六本脚のワニのような生物が、その下水道から出てくる姿も。


「『毒の邪眼・1(タルウィベーノ)』」

「ガッ!?」

 まあ、『毒の邪眼・1』を一斉射してしまえば毒が70以上入って、後は暫く逃げていれば勝手に倒れるのだが。

 うん、一応鑑定はしておこう。



△△△△△

六つ足蜥蜴 レベル3

HP:648/725

▽▽▽▽▽



「弱い。やっぱりダンジョンスタートって普通じゃないのね」

『たるうぃチュ?』

「いやまあ、高異形度だとダンジョンスタートは温情措置なのは分かっているし、呪いと現地にあるアイテムを活用すれば初期レベルでも何とかなるからこそ、私はここに居るわけだけどね」

 どうやらワニではなく蜥蜴だったらしい。

 まあ、どちらにしても毒噛みネズミよりはるかに弱いので、攻撃さえ受けなければ何も問題は無いだろう。


「ただね。あそこまで最初が厳しくて、ダンジョンの外に出るのも大変となると……いったいどれだけのプレイヤーが異形度16でスタートして辞めたのかなとも思うのよねぇ……」

『チュッチュウ』

「気にはするのよ。手を差し伸べたりするかは別。そもそも今までは助けたくても助けられなかったけど。今後助けるかは……まあ、相手の人となり次第ね」

『チュ……たるうぃチュウ』

 私はザリチュと話をしつつ適当に攻撃を躱していく。

 当然、新手が来る可能性があるので、全方位に警戒はしている。


「ギ……ガッ……」

 と、ここで毒によって六つ足蜥蜴のHPが尽き、一切の風化を起こさずに倒れた。

 なので私は毛皮袋に六つ足蜥蜴を収納、回収する。

 毒噛みネズミたちの方が素材としては優秀だと思うが、実際にどうなのかは解体してみないと分からないだろうから、一応は拾っておくのである。

 まあ、最悪でも胃袋に送ってしまえばいい。


「んー……特にこれと言ったものは……」

 ビルの地下部分の探索は……芳しくない。

 地上に繋がる階段も一応存在しているためなのか、あらかたの有用な物品は誰かが持って行ってしまった後のようだ。

 瓦礫の類に使い道が無いわけではないが、そう幾つも必要な物でもないし。

 何も見つからないのは此処まで来るのにかかった手間を考えると悲しいのだが……。


『チュー』

「あら、良い物が残っていたわね」

 そうやって色々と見て回っていると、長さ1メートル半程の私の身長より少し短い程度の長さの鉄パイプが瓦礫に半分埋もれているような形で見つかった。

 太さは私が握って振るうのにちょうどいいくらいの太さだ。

 よくもまあ、こんな立派な物が残っていたのかと最初は思ったが、手に持ち、瓦礫から引き抜いてみて、残っていた理由は直ぐに分かった。


「錆だらけ……」

『チュアァァ……』

 見つけた鉄パイプは表面が錆だらけで、何ヶ所か穴も開いていた。

 おまけに色々な衝撃が加わった事があったのだろう、へこみや歪みも見て取れるし、へこみの一部は誰かが握っていた跡のようにも思える。

 これでは普通に利用するなら、鋳溶かして素材にするしかないだろう。

 だが、これだけならば、やはり回収はされていただろう。

 回収されなかった最大の理由は、手に取っていると妙な気配がしてくること。

 たぶん変な呪いが付いてる。


「一応鑑定」

 私は『鑑定のルーペ』を鉄パイプに向ける。



△△△△△

鉄パイプ

レベル:1

耐久度:22/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


鉄製のパイプ。

まるで生にしがみつくかのような想いが込められている。

▽▽▽▽▽



「ふうん……」

 特にデメリットの類は表記されていない。

 しかし、生にしがみつくような想いか……。

 そうなるとこのパイプの先端に付いている赤黒い付着物は……まあ、別におかしくはないか。

 『CNP』はそう言う世界だ。

 実害はないようだし、長さもちょうどいいから回収しておこう。


「さて、そろそろ『ダマーヴァンド』に戻りましょうか」

『チュー』

 私は目の前の壁……正確には斜度80度くらいの壁に体を預け、翅を動かして擦りつけるようにする。

 すると私の体はゆっくりと柱の上の方へと移動を始める。


「うーん、毎度ながらシュールな光景ね……」

 これは私がようやく見つけた空中浮遊の有効活用方法。

 空中浮遊の呪いは、常に地面から一定距離を取って浮くと言う物で、扱いづらさもあって正確な仕様については掲示板の検証班でもよく分かっていないようだった。

 だが、どうやら本当に地面に対して垂直になっている壁でもない限りは、僅かではあるが垂直方向に浮力を発生させるらしく、今私がやっているように限りなく垂直に近い壁であっても体を押し付ける様にすれば、昇れてしまえるようなのだ。

 なんと言うか、アリなのかそれはと言われそうな話だが、出来てしまうのだから仕方が無い。

 バグや不具合として告知されない限りは有効活用させてもらうとしよう。


「さて、鉄パイプの補修と一回目の呪いをしてから、フレイルの再作成と行きましょうか」

『チュッチュー』

 と言う訳で、私は崩落したビルの三階にまで移動。

 それから『ダマーヴァンド』まで地道に登っていった。

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