51:ベノムラードアフター-5
本日二話目となります。
「ログイーン」
『たるうぃーチュー』
はい、火曜日のログインっと。
今日は『ネズミの塔』を色々と弄る事にする。
呪詛纏いの包帯服を身に着けていても、『ネズミの塔』を維持する呪いの中心が私である限り、私は『ネズミの塔』から出られないからだ。
「ん? 訪問履歴? ああ、なるほど。垂れ肉華シダの蔓をたどってやってきたのが居るのね」
どうやら私がログアウトしている間に何人かのプレイヤーと思しき人間が『ネズミの塔』に入って来ていたらしい。
スクショの形で、入ってきた面々の姿が確認できた。
名前などが出ていないのは……まあ、『CNP』だし、知りたければ当人に会って鑑定しろと言う事だろう。
「まあ、入口のセーフティーエリアだけ見てお終いだったようだけど」
ただまあ、残念ながら今の『ネズミの塔』はプレイヤーはダンジョンの入り口にあるセーフティーエリアまでしか入れないようになっているので、何かされる心配はしなくていい。
NPCも……まだ居ないようだ。
じゃあ、気にしなくていいか。
「えーと、第三階層の構造を弄ってと」
第一、第二、第四、第五階層は呪詛濃度が足りないためか、元のビルの構造で形が固定されているらしく、弄れないようだった。
第三階層はエネルギーである呪いを集めるのに時間はかかるが、私の自由に弄れるようなので、毒ネズミたちの溜まり場を複数作ったり、迷路構造を止めて出来るだけシンプルな形にしたりと改装していく。
折角なので、第二階層から第四階層への直通階段も作っておく。
「例のヤバい穴以外は塞いでっと」
ちなみに第四階層で複数の毒ネズミの警戒範囲に入っていた穴があったが、どうやらああいう穴がベノムラードの居た場所への近道になっていたらしい。
なので、私はそれらの穴は塞いでおき、第三階層の奥へと行くルートは階段一本に制限しておく。
「毒ネズミたちの流出制限は解除してっと」
第三階層の中に毒ネズミたちが溜まり過ぎると碌な事にならないので、ある程度成長したらダンジョン外含めて自由に動けるようにしておく。
まあ、下のビルから地上に降りるのはそう簡単ではないだろうし、安全圏からの攻撃を許すと面倒事になるので、必ず相手から仕掛けさせるか、相手が構えを取ってから攻撃するように命令もしておくが。
「垂れ肉華シダの繁殖制限も解除してっと」
同様に垂れ肉華シダも自由に繁茂出来るようにしておく。
増えて困るような生物ではなさそうだし。
いい加減に垂れ肉華シダの花を食べてみたいのもある。
「さて、呪いの中心を移しに行きましょうか」
私は毒鼠の杯を手に持つと、第三階層のセーフティーエリアから外に出る。
するとセーフティーエリアの前は私が設置したとおり、噴水のような物が設置された広場になっている。
が、噴水には一切の水は貯まっていない。
水道が来ていないのだから当然だ。
「これでよし」
『チュッチュー』
私は噴水の根元に着けた隠し扉を開け、そこに毒鼠の杯を置き、扉を閉める。
そして、この状態で呪いの中心を私から毒鼠の杯に変更した。
「うわっ……! ちょっ、危ないなぁ……」
『チャアアァァ!』
すると呪いの中心になったためだろうか、毒鼠の杯は勢いよく毒液を生成し始め、深緑色の毒液を吹き出す噴水が完成してしまった。
なので私は慌てて退避すると、安全な位置から毒鼠の杯の毒液の生成量を調整すると共に、噴水に溜まった毒液の一部をビルの外に流れていくようにした。
環境汚染の類は……無視しよう。
この世界ならダメージを覚悟するだけで飲める水はたぶんマシな部類だ。
毒液自体は呪詛生成物でもあるのだし、時間経過で無くなる可能性だってある。
うん、気にしない気にしない。
「と、折角だし、ちょっとダンジョンの名前も変えましょうか」
『チュー?』
「『ネズミの塔』じゃ、私にはそぐわないでしょう。えーと、命名は……『ダマーヴァンド』で」
『チュッ……』
≪ダンジョン『ネズミの塔』の名前が『ダマーヴァンド』に変更されました≫
私は『ネズミの塔』の名前を『ダマーヴァンド』に変更した。
由来はタルウィとザリチュの出てくるゾロアスター教に出てくる山の名前。
地下深くにアジ・ダハーカと呼ばれる邪竜が封じられている聖なる山だ。
聖なる山を邪眼を使う妖精が主として使っていていいのかと言う突っ込みは入りそうだが……まあ、たぶん大丈夫だろう。
『チュッチュ。たるうぃチュー』
「ん?」
と、ザリチュが何か言いたそうにしている。
そして、周囲を壁で囲われ、第二階層の天井の穴からしか行けない例の空間の方を気にしている。
ああうん、なんとなく言いたいことが分かった。
「此処がダマーヴァンド山なら、あの穴に居るのはアジ・ダハーカになってしまうって事ね。まあ、たぶん大丈夫よ。もしそうなったらそうなったで、面白いし」
『チュアアァァ……』
心配しなくてもザリチュが言うようなことには早々ならないだろう。
あそこに居る何かは知覚すら出来ないので、確かに危険極まりない。
しかし、だからこそ外に出てくるためには極めて高濃度の呪詛が必要になる。
もしも原典のアジ・ダハーカがそのまま出てくるなら、呪詛濃度は50ぐらいは最低限必要なのではなかろうか。
だが、この場の呪詛濃度はせいぜい12、出てきたくても出てこれるはずが無いのである。
うん、『CNP』の世界は呪詛濃度不足のシステムに助けられているな。
「それよりも、これでダンジョンの外には出れるようになったのよ。だから、そっちについて考える方が先よ」
『チューアー』
今日のログイン時間はゲーム内で後4時間ほど。
一番近くの別のダンジョンに行く、『ダマーヴァンド』周辺のモンスターを狩る、新しい武器に使えそうな物品を探すくらいは出来るだろう。
「さあ、行きましょう。第五階層から飛んでいくわよ!」
『チューア』
私は意気揚々と第五階層へと向かった。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・タル レベル8
HP:1,070/1,070
満腹度:100/100
干渉力:107
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』
呪術・邪眼術:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』
▽▽▽▽▽
04/01誤字訂正