50:ベノムラードアフター-4
唐突ですが、本日よりしばらくの間、一日二話更新となります。
更新時間は12時と18時の予定です。
「ん?」
「どうもこんばんわ。タル様」
月曜日。
大学での講義を終えて『CNP』にログインしようとした私は、ログイン画面で執事服の男性……C7-096に止められた。
どうやら何か話があるらしい。
「何の御用でしょうか?」
「次の日曜日に行われますイベントについての説明でございます」
どうやらイベント開催まで一週間を切ったと言う事で、公式サイトを見ていないユーザーにも情報が伝わるようにこの場で話をしておくようだ。
ただ、私は事前に公式サイトで確認済みなので、説明の大半は飛ばさせてもらった。
「此方が当日の観戦エリアでタル様がお使いになられるアバターの原型になります。実際には当日のタル様の所有品によって服装などは変わりますが、大きく変わることは無いでしょう」
「ふうん」
飛ばせなかったのは当日の観戦エリアで使う異形度3以下のアバターを確認する部分。
現れたアバターは橙色の髪と虹色の目、白よりの肌はそのままだったが……髪の毛は腰くらいの長さにまで伸びてて、目は顔に付いている二つと鎖骨の間の一つ、計三つだけ。
虫の翅も無ければ、宙に浮いていたりもしない。
なんと言うか、リアルの私と『CNP』の私を足して、かなりリアルに寄った形で割った感じだ。
「PvP対策と呪詛濃度不足対策だっけ」
「加えて、街中での移動や交流をしやすくする。ゲストプレイヤーを驚かせすぎないと言った意図もございますね。私としては、その程度で恐怖を覚えられるのであれば、最初から『CNP』に来ない方が良いと思うのですが、上の命令では従う他有りません。ですので、残念ながら異形度を増やすような事は出来ませんね」
「ふうん」
正直物足りないが……まあ、仕方が無いか。
どうせ使うのは観戦エリアだけなのだし、そう拘る必要もないだろう。
「分かったわ。受け入れる」
「ありがとうございます。タル様。では、ゲームへどうぞ」
そうして私は改めて『CNP』にログインした。
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「ログインっと」
『チューたるうぃッチュ』
ログインした私はいつものようにザリチュの歓迎を受けつつ、とりあえず昨日生み出してしまった毒鼠の杯を見る。
毒鼠の杯は……
「うわぁ……」
『チュー……』
深緑色の液体で満たされ、少しずつセーフティーエリアの床に零れ、溜まっていた。
うん、とりあえず周囲を葉が付いたままの垂れ肉華シダの蔓で囲っておこう。
上手く抑えておいてもらおう。
「さーて、ベノムラードの毛皮の加工ねー」
『チュッ』
私は部屋に置いてある『毒鼠の首魁』の毛皮を手に取る。
サイズは私二人分の大きさがあるが、風化の都合で穴が開いていたり、切れていたりする部分もある。
なので、私はこれを無理に服にしたりはしなかった。
「と言っても程よい大きさに切っては穴を開けて垂れ肉華シダの蔓で繋ぐんだけど」
私は毛皮をまるで包帯のようにすると、一定間隔で穴を開けて、垂れ肉華シダの蔓を編みこんでいくと共に垂れ肉華シダの葉を磨り潰した物を塗り込んで毛並みを整えていく。
そうして出来上がった物を体に巻き付け、蔓同士を繋ぎ合わせ、隠すべき部分をきちんと隠した上で幅広の毛皮が腰の辺りに来てスカートのようになるよう調整。
その状態を保ったまま一度脱ぐと、折角なので毒鼠の杯が生成した毒液に一度漬けてから、呪怨台の前にまで持って行く。
なお、毒鼠の杯の毒液は私には大して効果が無いようで、表示された毒は微々たるものだった。
「すぅ……はぁ……」
さて、これから作るのは最重要アイテムと言っても過言ではない装備品である。
これが上手く出来るかによって、私が『ネズミの塔』の外に出られるようになるかが決まる事だろう。
なので私はしっかりとイメージをした上で、呪怨台の上に服を乗せる。
「私は未知を求めている」
呪怨台の上に赤と黒と紫の霧が集まっていき、服が霧の球体に包まれていく。
「その為には私は私が生きるのに適した濃さの呪いを身に纏わなければならない」
ザリチュや呪術の習得アイテムを作る時のような劇的な反応はない。
「どうか私に呪い薄き世界を行く権利を」
そして、霧の球体が完全に晴れることはなく、周囲にある程度留まり続けた状態で完成。
私は何故か綺麗な蘇芳色に染まっている服を呪怨台の上から降ろすと、鑑定を行った。
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呪詛纏いの包帯服
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
『毒鼠の首魁』ベノムラードの素材を用いて作られた、包帯を幾重にも体に巻き付けたような見た目の服。
周囲の呪詛を操作し、着用者が生存するのに適した呪詛濃度に近づける効果を持っており、呪詛濃度を最大5まで増減させられる。
毒無効(5)と高い毒耐性と微弱な物理耐性を有しており、外部からのこれらの力に強くなる。
注意:着用中火炎耐性が低下する(中)
注意:この衣服を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(小)
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「無効と耐性?」
一瞬バグか私の見間違いかと思ったが、少し考えて納得がいった。
恐らくだが、耐性は割合減算あるいはかかる確率を下げるもの。
無効は固定値減算で、その値以下なら絶対にかからず、超えられても数字分だけ弱くすることが出来ると言う物なのだろう。
どちらが先に機能するかは色々と考えて検証しないと分からないが……とりあえずこの呪詛纏いの包帯服を身に付けている限り、ベノムラードのように毒攻撃は殆ど効かなくなると考えていいだろう。
「装着……やっぱり重いわね」
私は毒噛みネズミの毛皮服を脱ぎ捨てると、呪詛纏いの包帯服を身に着ける。
レベル不足の影響なのか、やはり見た目以上に重い。
見た目としては丈の短いスカートと胸の部分を覆う蘇芳色の毛皮の塊なのだが、肩や足にも重りが乗っているような感覚がある。
「ん? なんとなくだけど体が軽くなった?」
と、周囲の呪詛を集める効果が発揮され始めたのだろう。
私の周りに赤と黒と紫の霧が集まってきて全身を覆う。
恐らくだが、呪詛濃度15まで高めてくれたのだろう。
同時に背中の翅の動きや、身体にかかっている重石のような感覚が少し和らいだ。
「もしかして、今までの私は常に弱体化が入ってた?」
私の異形度は19。
これまでに活動していた範囲の呪詛濃度は基本的に10から12。
今の私の周囲の呪詛濃度は15。
これで楽になると言う事は……もしかしたら呪詛濃度不足にならない範囲であっても、呪詛が足りていないと何かしらの悪影響が身体に生じると言う事だろうか。
「うわ、普通に空を飛べる」
『チュー!』
そして、この考えが事実であるように、別に地面を蹴らなくても、背中の翅を動かすだけで暫くなら浮き上がれてしまった。
どうやら、影響は結構あるらしい。
「と、そろそろ時間ね。はあ、やる事は詰まっているのに、時間が足りないってのはキツいわね……」
と、残念ながら今日のログアウト時間がもう迫って来てしまっている。
『ネズミの塔』の呪いの中心を移すのと改装作業、呪詛濃度の差によるステータスの変化の検証、『毒の邪眼・1』の使い勝手、新しい武器の調達、その他これまで後回しにしていた事柄と、イベントまでにやる事はかなり多いのだが……今日は包帯服の作成に時間を取られてしまった。
残りは明日以降に回す他ないだろう。
と言う訳で、私はログアウトした。
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『呪限無の落とし子』・タル レベル8
HP:1,070/1,070
満腹度:100/100
干渉力:107
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・2』、『鉄の胃袋・2』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・2』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』
呪術・邪眼術:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ネズミの塔』
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