5:ファーストチェック-3
「では鑑定、と」
私は緑色の液体が静かに湧き出している器のような物に向けて『鑑定のルーペ』を使用する。
すると、こんな鑑定結果が返ってきた。
△△△△△
回復の水
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
呪人にかかっている不老不死の呪いを活性化させることによってあらゆる傷を癒す事が出来る緑色の液体。
器を置かれた場所から動かす事は出来ないが、置かれた部屋の中ならば何処に居ても回復効果は得られる。
▽▽▽▽▽
「器を動かす事は出来ない、ねぇ」
それはつまり、容器さえあれば、この器から回復の水を汲みだして持ち出す事が出来ると言う事だろうか。
今はそう言う用途に使える物は何も持っていないので試す事は出来ないが、機会があれば試してみるとしよう。
あ、
不老不死の呪いによって決して死ぬ事が無く、老いる事もない存在だとか。
「後、気にする事は……そんなにないか」
レベルはそのアイテムを扱う上で必要なプレイヤーのレベルを。
耐久度はそのまま。
干渉力はプレイヤーのものと同じ……だが、私と回復の水の干渉力が100で一致している事とダメージ計算式の話を考えると、実はこれ、係数的な物ではないかと思う。
まあ、いずれ誰かが検証してくれるだろう。
浸食率と異形度の意味は分からないので流す。
「じゃあ次はこっちの台っと」
私は机のようにも見えるコンクリート製の台に『鑑定のルーペ』を向ける。
こちらも、他の物と明らかに違うので、当然のように鑑定できた。
△△△△△
コンクリートの呪怨台
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
周囲の呪詛を集めて、台の上に置かれた非生物を呪う事が出来る。
▽▽▽▽▽
「んー? アイテム作成や修復に用いるのかな?」
が、現状ではよく分からない。
とりあえず上に乗せられる物を手に入れてからでいいか。
壊れないボロ布の上着と下着は替えになるような物を身に着けてからでないと外せない仕様になっているみたいだし。
『鑑定のルーペ』は既に呪いがかかっているからこそ、『鑑定のルーペ』なのだろうし。
「ドンドン見ていきましょうか」
私は鑑定出来そうな物を見ていく。
この部屋に居る限りはHPは減っても直ぐに回復出来るので、今のうちに見れるものは見てしまった方がいいと判断したからだ。
△△△△△
ダンジョンの壁
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:9
ただの壁。
▽▽▽▽▽
△△△△△
ダンジョンの天井
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:9
ただの天井。
▽▽▽▽▽
△△△△△
ダンジョンの床
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:9
ただの床。
▽▽▽▽▽
「異形度が9。これって、意味が……あるんでしょうね。たぶん」
壁とか天井とか床とかしか表示されないのはまあいいとして。
気になる事が二つある。
一つは異形度9と言う表示。
意味は分からないが、きっと何かあるのだろう。
「で、ダンジョン。ダンジョンねぇ……ふうん」
もう一つは壁とかに『ダンジョンの』と言う枕詞がある事。
つまり、ここはダンジョンの中と言う事だ。
『CNP』のダンジョンがどんな物かは分からないが……うん、初期配置がダンジョンの中と言うのは、相当特殊な気がする。
きっとこれも初期異形度19の影響なのだろう。
「ああ、ついでに霧も見てみましょうか」
私は何となくだが、部屋の中に漂う赤と黒と紫が混じった何処となく禍々しい気配を持つ霧を意識して『鑑定のルーペ』を使ってみる。
すると、私の意図を感じ取るように鑑定結果が表示される。
しかし、鑑定結果は私の想像とはだいぶ異なるものだった。
△△△△△
ネズミの塔
呪いによって異形と化した大型のネズミたちが徘徊する塔型のダンジョン。
彼らは目に付くもの全てに食らいつき、呪い、蝕み、胃に納めるまで止まらない。
呪詛濃度:10
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『ネズミの塔』を認識しました≫
「はい、このダンジョンの名称が分かって、呪詛濃度と言う分からない事が増えました」
まあ、分からない事については少しずつ調べ、学び、細かい部分は何処かに居るであろう検証班に任せればいい。
とりあえず私が分かっている事として、ダンジョンの名称が分かった事で、先程はダンジョンの壁としか表示されていなかった壁が『ネズミの塔』の壁と言う名前で鑑定されるようになっている。
今後、ダンジョンと思しき場所を発見した際には、まずダンジョンの空気を調べて、ダンジョンの正式名称を調べるとしよう。
「そう言えば、まだ装備品を見ていなかった」
と、ここで私は称号の衝撃で忘れていた自分の装備品の鑑定をする事にした。
と言っても『鑑定のルーペ』を鑑定するにはもう一つルーペが必要なので、鑑定するのは壊れないボロ布の上着と下着だが。
△△△△△
壊れないボロ布の上着
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
呪人の胸部を隠すボロ布。
隠すものが無くなると何処からともなく現れ、隠すものを手にすると何処かへと消える。
決して壊れないが、攻撃によって生じるはずの損傷は身に付けている者へと伝わっていく。
極めて高度な呪いがかかっている事に間違いはないのだが、誰もこれ以上詳しく知る事は出来ない。
深く気にしすぎない方がいい。
君はまだ正気でいたいのだろう?
▽▽▽▽▽
「……」
下手なホラーよりよほど怖い鑑定結果だった。
うん、私はまだ正気でいたいので、気にしない事にしよう。
なお、下着も内容はほぼ同じだった。
「さ、さーて、こっちの扉は?」
気分を変えるように私は金属製の扉を鑑定する。
△△△△△
『ネズミの塔』の結界扉
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:9
『ネズミの塔』のセーフティーエリアに繋がる金属製の扉。
呪人以外に開ける事は出来ず、誰かと共に入ることも出来ない。
▽▽▽▽▽
「あ、やっぱりセーフティーエリアだったのね」
やはりここは安全地帯……セーフティーエリアだったらしい。
だからこそ回復の水とコンクリートの呪怨台なる物も置かれているのだろう。
「さて、それじゃあ、いい加減に行きますか」
これでこのセーフティーエリアで調べられるものは全て調べただろう。
つまり、この中に居てもこれ以上の未知は無いと言う事。
未知を求めるならば、私は扉の外に出なければならない。
私は扉に手をかけた。
「ん?」
そして、横にスライドさせるタイプの扉だったので横にスライドさせようと思ったのだが……
「ん? ん?」
重い。
金属製なだけあって重い。
床に足を着けて踏ん張らないといけないであろう程度には重い。
しかし、私は空中浮遊の呪いによって床に足を付けて踏ん張るという行為が不可能になっている。
つまり、この状況を脱するためには……
「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
全力で翅を動かして推進力を得つつ、ステップの要領で何度も地面を蹴るという行為が必要だった。