47:ベノムラードアフター-1
「さて、色々とやらないとね」
色々と上手くいったおかげかベノムラードは倒せた。
私はポーションケトルを拾い上げると、毒噛みネズミの毛皮袋の中にベノムラードの死体を収める。
どうやら風化のおかげで、何とか収まってくれたらしい。
右手は……たぶん、セーフティーエリアに戻れば治るだろう。
他のアイテムは……残念ながら駄目そうだ。
鼠のフレイルは完全に壊れているし、戦闘用のトゥースナイフも同様、鉄筋付きコンクリ塊すら砕け散ってしまっている。
「せいっ!」
私はベノムラードの寝床だった垂れ肉華シダの蔓を左手で動かして、その中に隠されていた物を見る。
「本? いえ、日記かしらね」
そこにあったのは黒く禍々しいオーラを纏った一冊の日記帳。
これが『ネズミの塔』の呪いの中心点のようだ。
私は手に取ろうとしたが……手に取る前に半透明のメニュー画面が私の眼前に表示される。
「へぇ、面白いわね」
現れたのは三つの選択肢。
破壊、維持、奪取。
破壊はこの日記帳と言う呪いの中心を破壊する事によって、ダンジョンそのものも破壊すると言う物である。
ダンジョン破壊で詰んでしまう私にとっては論外の選択肢だ。
維持は日記帳を放置して、ダンジョンも放置する事。
しばらく放置する事で弱体化したベノムラードのような新たなボスが生じるようだが、その後どうなるかは分からない。
奪取は日記帳から呪いの中心点を奪い取って、新たなダンジョンを生み出す事。
その際には私がダンジョンマスターのような立ち位置になるようだが、色々と設定は弄れるようだ。
「奪取一択ね」
うん、どう考えても一番面白そうなのは奪取だ。
と言う訳で、私は奪取の選択肢を選び、呪いの中心点をとりあえずは私の鎖骨の間の目に移す。
≪称号『ダンジョンの支配者』を獲得しました≫
「当然ね」
称号も得たと言う事で、私は自分に鑑定を使う。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・タル レベル8
HP:132/1,070
満腹度:100/100
干渉力:107
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・1』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』
呪術・邪眼術:
『
所持アイテム:
毒噛みネズミの毛皮服、毒鼠の三角帽子、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
所有ダンジョン
『ネズミの塔』
▽▽▽▽▽
△△△△△
『ダンジョンの支配者』
効果:自分の所有するダンジョン内において有利な効果を得る(調整可能)
条件:自分のダンジョンを手に入れる
汝は人類に災いを為すものである! 呪いあれ!!
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
視界右上の設定画面に赤いエクスクラメーションマークが付いている。
どうやらダンジョン所有については色々と制約やら解説やらが必要であるらしい。
なので読んでみたのだが……うんあれだ。
「ダンジョンのボスって異形度10以上限定なのね。私には関係ないけど」
とりあえずダンジョンのボスや中心点は異形度が10以上無ければいけないらしい。
これはダンジョンを構築維持するのに必要な呪詛濃度との兼ね合いのようで、中心点をアイテムに移していても、管理者には相応の異形度が必要なようだ。
「有利な効果は……とりあえず自然回復に全振り……おっ、右手が戻ったわね」
称号にもある有利な効果と言うのは、最大HPの上昇や干渉力の強化と言ったものから、呪術の強化や静音、隠密等々、色々とあるようだ。
私は右手が戻ったところで、今は満腹度維持にしておく。
「外部から侵入の制限。プレイヤーは入口のセーフティーエリアまで。モンスターは……あ、相手のレベルが高いと駄目。あの大きな鳥とかかしらね。とりあえず私よりレベルが低い連中の侵入は阻害して、座標も固定してダンジョン下のビルが無くなっても大丈夫なようにしておきましょう」
私は設定を弄っていき、ネズミたちの生息区域や攻撃対象を弄ったり、ダンジョンの構造を調整したりと、自分の都合のいいように変えていく。
ただ、セーフティーエリアの数を減らす事や、第三階層のあの深い穴を消すなどは出来ないようだった。
前者はシステム的な制限で、後者は私のレベル不足と言うところだろうか。
また、調整に時間がかかりそうな項目……ある種のハウジングシステムに相当するような物については、後回しにしておく。
「さて、ダンジョンの中心点はどうしようかしらね」
現状、このダンジョンの中心点は私になっている。
だが、私がダンジョンの中心点である限り、ダンジョンの外に出る事は出来ない。
なので、適当な何かにダンジョンの中心点を移す必要がある。
「非生物が良さそうよね」
生物をダンジョンの中心点にすると、死んだときにそのままダンジョンまで崩壊してしまうし、勝手に色々とされかねない。
それは困りものだ。
となれば、非生物をダンジョンの中心点にしておいた方が都合が良さそうだ。
「んー……今は保留ね」
ただ、今は中心点にするのに良さそうなアイテムが無いので、保留しておくしかなさそうだ。
後で像的な何かを作ってみようか。
「日記の方は……色々と追い詰められていたようね」
私は呪いの中心点で無くなったためか、多少ボロっちくなった日記を読んでみる。
内容としては……風化現象やモンスター、ゾンビに追われてこのビルに閉じ込められ、最終的にはこの世の全てを恨みつつ死んだ人間の日記のようだ。
最初の方はマトモなのだが、最後の方は血で綴っていると思しき色合いで、実に狂気的である。
うーん、追い詰められた人間の想いそのものはダンジョンを形成するほどなので中々の強さなのだが、未知の感情や表現のようなものは見えず、つまらない。
「まあ、なんとなく呪詛を纏った装備を作る方法は分かったわね」
とりあえず私の目的であるダンジョンの外で活動するためのアイテムをどうやれば作れるのかは分かった。
ある意味呪怨台と同じだ。
とにかく強い思いによって、周囲の呪詛に働きかければいい。
作成に適した素材はあるだろうが、出来ると言う確信の方が重要そうだ。
「後は……とりあえずセーフティーエリアに移動して、ベノムラードの解体をしましょうか」
『チュー』
この場で急いでやるべき事はやった。
私はそう判断するとセーフティーエリアに移動した。