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46:ベノムラード-3

「ヂュオウ! フンッ! セイッ!!」

「ふふふふふっ」

 ベノムラードと私の戦いは長引いている。

 ベノムラードは私を叩き潰そうと、飛び掛かったり、前足や尻尾で薙ぎ払ったり、毒液の砲撃と霧を駆使してくる。

 対する私はベノムラードの動作の前兆を一つとして見逃さない事によって、的確に攻撃を避け、反撃を積み重ねていく。

 当然、ベノムラードに『毒の魔眼・1++(タルウィベーノ)』を細かく打ち込む事で、毒状態を維持する事も忘れない。


「コノ……羽虫ガッ!」

「ふははははっ」

 と、どうやら毒を重ねすぎてしまったらしい。

 ベノムラードは気合を入れて、35まで積み重なっていた毒を回復してしまう。


「あははははっ! 楽しいわねぇ!!」

「グッ!?」

 だから私は素早く接近すると、すれ違いざまにトゥースナイフを突き刺し、直ぐにベノムラードの体を蹴ってねじりつつ引き抜く。

 そして『毒の魔眼・1++』を三つほどの目で放つことによって、10程度の毒を与えておく。


「ソウ何度モ!」

 ベノムラードの毒回復はクールタイムは30秒ほど。

 コストと私の攻撃の都合なのか、最初はほんの僅かな毒でも回復していたが、今では30ぐらいを回復するラインとして捉えているようだった。

 私の毒攻撃のコストはトゥースナイフが5で、『毒の魔眼・1++』が10。

 やはり20ぐらいの毒を維持するのがちょうど良さそうか。

 ああ、実に楽しい。

 最適な毒の量はどれくらいなのかと言う未知を解き明かすのは楽しい。


「消エロ」

「それはもう何度も見てるわよ」

 ベノムラードが毒液を放ってくる。

 私はそれを斜め後ろに飛んで対応。

 何故前に飛ばないかって?

 そんなの……


「グッ!?」

「だから、自爆覚悟で爆発する距離を短くするのぐらい見えている」

 私が何度も毒受け袋でベノムラードの毒を受け止めていて、いい加減に爆発する距離を調整する事で私を仕留めようとするのが見えていたからだ。

 それぐらいならば、ほんの僅かではあるが挙動の差を見つけられれば見極められる。

 結果、ベノムラードは自傷覚悟で放ったのに、私には傷一つ付いていない。


「ダ……ッツ!?」

「で、ここは攻撃できないようね」

 とは言え、距離は開いてしまった。

 此処に更なる毒液の攻撃を撃たれたら、厳しい読み合いになる。

 だから私はベノムラードの寝床の陰に隠れる。

 それだけでベノムラードは一瞬硬直、攻撃をするか悩んだ。


「あはっ、やっぱりあそこには何かあるのね」

「グウッ……」

 その一瞬の悩みを突くように私は飛び出し、射程の長いフレイルでまず一撃。

 続けて更にもう一歩跳んでトゥースナイフをベノムラードの腕に突き刺す。


「コノッ!」

「おっと」

 ベノムラードが私に掴みかかろうとする。

 ナイフを抜く暇は無かったので、私はナイフを諦めて飛び退く。


「貴様……貴様ダケハ……」

「だいぶ息が上がってきたようね」

 私は『鑑定のルーペ』を使って素早くベノムラードのHPを確認する。



△△△△△

『毒鼠の首魁』・ベノムラード レベル15

HP:7,522/18,328

毒(16)

▽▽▽▽▽



「まだ半分。もう半分。ふふっ、どちらかしらね」

 相手が未知なる動きをせず、事前に決めた通りに動けばいいだけの作業状態に入ってしまうと酷く退屈ではある。

 しかしベノムラードの目は諦めているものではないし、怒りで猛り狂っているものでもない。

 ならば、きっとまだ何かあるのだろう。

 なお、こちらのHPもコストと細かい削りの為に、50%ほどにまで減っている。


「我ガ生キタママ喰ラッテクレルワ!!」

「へぇ……」

 ベノムラードの全身から赤と黒のオーラが放たれる。

 見た目にはただそれだけだが、明らかに威圧感が増す。

 その姿に私は思わず笑みを浮かべてしまう。

 きっとここからは再び未知の領域になるからだ。


「ヂュアアアッ!!」

 ベノムラードが大きく口を広げ、毒の霧を纏いながら飛び掛かってくる。

 そして速い。

 これまでの速さの倍近い。


「っつ!」

 私は咄嗟に横に跳んだが、跳んだ位置はベノムラードの尻尾の範囲内。


「ヂュン!」

「ぐっ……」

 ベノムラードが素早く回転し、私は鼠のフレイルでそれを受け止めようとした。

 が、鼠のフレイルの持ち手が折れ曲がった上に勢いよく吹き飛ばされる。


「ガアアアアッ!!」

「此処まで来て……!」

 私が床の上を滑っていく中、ベノムラードが勢いよく突っ込んで来る。

 ベノムラードが何をしたのかはだいたい察した。

 単純なステータスアップだ。

 単純であるが故に、私にとっては厳しい攻撃でもある。

 だがリスクもあるらしい。

 先程からベノムラードにかかっている毒の数字が減らなくなっている。


「負ける気はない!!」

「ッツ!」

 私は素早く跳躍して、ベノムラードの噛みつきを紙一重で避ける。

 そして……背中の毛皮を掴んで、跨る。


「我ノ……ギッ!?」

「ふんっ!」

 私は道具袋から取り出した鉄筋付きコンクリ塊をベノムラードの腕に突き刺さっていたトゥースナイフ目掛けて叩きつけ、身体の奥深くへと食い込ませる。


「せいっ!」

「キサ……ムグッ!?」

 痛みに悶えるベノムラードの背中から素早く降り、コンクリ塊も手放す。

 で、ベノムラードの毒液がたっぷり詰まった毒受け袋の一つを口の中に叩き込んで、ベノムラード自身の歯で破らせる。


「ーーーーー!?」

「ガアアアアァァァァァッ!?」

 すると袋の中の毒液はその性質に従って爆発。

 大量の毒液によって私の右腕は手首から先が消し飛び、ベノムラードも前歯が吹き飛んだ上に大きく仰け反り、纏っていたオーラも毒霧も消える。

 意識も虚ろになっているようだった。

 ああ、此処が勝負どころだ、間違いない。


「『毒の魔眼・1++(タルウィベーノ)』!!」

「ッツ!?」

 吹き飛んだ目を除く12の目が深緑色の光を発し、ベノムラードに毒を与える。

 表示された毒は165。

 だがこれだけでは倒せない。


「むんっ!」

 私は素早くベノムラードの首に鼠のフレイルの蔓を絡ませると、全体重をかけて首を締め上げる。


「キュッ……ガッ……」

「ははっ、ひひっ、あひはっ」

 勿論私とベノムラードでは体重差がありすぎるから、首を締め切る事なんて出来ない。

 爆発の衝撃と毒によって朦朧としていてもなお仕留めるには足りない。

 おまけに今の私は片手で、痛みで気を失いそうになっているし、HPも削れていっている。


「良いわねぇ……良いわねぇ! この未知の感覚!!」

「化ケ……物……メ……」

 手のない右手でポーションケトルをひっくり返し、腕にかける。

 それだけで手は再生しなかったが、止血は出来た。

 そして床に広がった回復の水はベノムラードに吸われて行き……僅かな回復と引き換えに重なっている毒の強度を勢いよく上げていく。

 忘れかけていたが、そう言えば私のポーションケトルは毒持ちだったか。


「『毒の魔眼・1++(タルウィベーノ)』」

「!?」

 クールタイムが明けて、チャージタイムが過ぎて、再び『毒の魔眼・1++』がベノムラードに打ち込まれる。

 既にベノムラードの毒は300を超えている。


「我……ガ……」

 ベノムラードの首の骨が折れた感触が伝わってきた。

 全身の力が抜けていく。

 糞尿の類が漏れ出ては即座に風化していく。

 だがそれでも私は締め上げ続けていく。


「ふぅ……はぁ……はああっ……」

 そうして、ベノムラードの毛皮と肉の一部が呪いによって風化し、鼠のフレイルの蔓が千切れて壊れ、ベノムラードの死を確信したところで私はようやく力を緩めた。


≪タルのレベルが8に上がった≫

「あああぁぁぁ! 素晴らしい! 素晴らしい未知の! ボスとの! 戦いだったわぁ!!」

 私は歓喜のあまり、レベルアップのナレーションが掻き消える様な声量で声を上げた。



△△△△△

『呪限無の落とし子』・タル レベル8

HP:132/1,070

満腹度:100/100

干渉力:107

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・1』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』


呪術・邪眼術:

毒の魔眼・1++(タルウィベーノ)


所持アイテム:

毒噛みネズミの毛皮服、毒鼠の三角帽子、鑑定のルーペ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.

▽▽▽▽▽

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