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44:ベノムラード-1

「ふう、ようやくね」

『チュー』

 金曜日に始めた垂れ肉華シダの蔓を編む作業は休憩と素材回収を挟みつつ続けた結果、どうにか土曜日の夜には形になった。

 と言う訳で、セーフティーエリアで出来上がったそれを一度広げる。


「うん、見事な網ね」

 私が作ったのは垂れ肉華シダの蔓を格子状に絡ませあう形で作った網。

 本当は布と言いたいところなのだけれど、微妙に隙間とか凹凸とか粗が見受けられるので網である。

 また、一部の蔓の端には苔が付いたままになっていて、壁や天井、床に貼り付けられるようになっている。

 当然、床に垂れ肉華シダの蔓が付いた苔をくっつけても、蔓がしおれたりする事が無いのは、編んでいる途中に確認済みである。


「では、呪怨台へ」

 私は垂れ肉華シダの網を丸めると呪怨台に乗せて、強度が上がるように、張った場所から先へとモンスターを行かせないようにと思いを込める。

 そう、これはベノムラード対策の一つ。

 絶対に何処かでやって来るであろう、配下のネズミたちを招き寄せる攻撃への対抗策の一つだ。

 勿論、穴は腐るほどあるが、それでもこれがあるのとないのとでは勝率は大きく変わると思っている。


「完成っと」

 出来上がったアイテムを鑑定してみる。



△△△△△

垂れ肉華シダの蔓網

レベル:5

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


垂れ肉華シダの蔓を苔や葉が付いたまま編んで作られた網。

周囲の呪詛濃度に応じて大きく強度を増す性質を持っており、蔓の端の苔の性質をうまく利用すれば、好きな場所に張って、その先に進むことを阻害する事が出来る。

▽▽▽▽▽



「うん、何の問題も無し」

 垂れ肉華シダが元々持っていた性質を利用しただけなので、妙な能力もコストも存在しない。

 作るのに手間はかかったが、実に使い易いアイテムと言えるだろう。


「今度、服とかも垂れ肉華シダの蔓を編んで利用した物にしようかしら……」

 それと、今回の作成で垂れ肉華シダの蔓を編むスピードや正確性はだいぶ上がったと思うので、ネズミの毛皮と垂れ肉華シダの蔓を組み合わせた衣服のような物を考えてもいいかもしれない。

 どれくらいの時間がかかるか分からないし、ちょっと考えている事もあるので、作成は後回しだが。


「さて、他に必要な物と言えば……毒受け袋も幾つか欲しいわね」

 私は毒噛みネズミや毒吐きネズミの素材を使って、毒受け袋を複数個作っていく。

 こちらも当然ベノムラード対策だ。

 基本的には鼠のフレイルの射程範囲内で、ある程度の距離を保って戦闘をする予定ではあるが、毒の霧を自分の周囲に発生させてから毒砲弾を吐き出してくるぐらいは普通にやってくると思っているので、その時に対処法の一つとして用意しておきたい。


「後欲しいのは毒状態の回復アイテムに……範囲攻撃?」

 さて、ベノムラード戦に当たって他に欲しいアイテムは何があるだろうか。

 武器と防具は一通りそろった。

 HPと満腹度を回復するアイテムはある。

 網も準備できた。

 となると後は……毒の状態異常を回復するアイテム、呼び寄せがワープ式だった時の為の範囲攻撃アイテム、毒以外の状態異常を与えられるような手段。

 そんなところか。

 うーん、毒回復はともかく、それ以外は厳しい気がする。

 毒噛みネズミの毒液を変質させた上で、効果が残るように、あるいは新たな邪眼を習得出来るようにするとか?

 前者はまだしも後者とかコストやリスクが背負いきれないレベルで大きくなりそうな予感がするわね。

 やるなら、毒吐きネズミの毒を基に、一定範囲の床に触れている生物全てに影響を与える使い捨ての道具にしておこう。


「こんなところか」

 と言う訳で、毒受け袋に毒吐きネズミの毒液を収めて、そのまま呪怨台に乗せて作成を試みる。

 今日のプレイ時間的に、今日はこれで終わりだろう。


「何かに叩きつけたら爆発」

 赤と黒と紫の霧が集まっていく。

 13の目で睨みつけて、言葉を紡いでいく。


「中身が飛び散って毒を与える」

 用途は極めてシンプル。

 イメージするのは一種のグレネード。


「とにかく数を減らすことを優先」

 特にメインで狙うのは子毒ネズミだ。

 毒噛みと毒吐きは最悪走って逃げ回り、お互いを壁のように使って攻撃を防いだ上で、ある程度数が減ったら『毒の魔眼・1++』で対処するという方法だってあるが、子毒ネズミ相手にそれは難しい。

 だから、これで狙う。

 結果は……


「駄目か」

 毒受け袋は塵になってしまった。

 どうやら上手くいかなかったらしい。


「原因は……まあ、実質そのままだったからか」

 毒受け袋の中身は毒吐きネズミの毒液だけだった。

 恐らくだが、毒受け袋に弾け飛ぶような何かを入れれば、私が考えた物を作れるのだろう。

 しかし……『ネズミの塔』でそんな弾け飛ぶものが手に入るとは考えづらい。

 しかも毒受け袋の性質上、有毒の液体しか受け入れてくれないし。


「うーん、厳しいわねぇ」

 私は適当に床を蹴って浮き上がり、翅を勢い良く動かして宙に留まりつつ、部屋の中にあるものを一通り見ていく。

 呪怨台、回復の水、ネズミの骨に毛皮、垂れ肉華シダの苔に蔓に葉に、着けたまま開く様子の見せない蕾。

 一応、垂れ肉華シダの蕾については休憩中に眺めた掲示板で揺らせば咲くのではないか的な話があったので新たな素材を得られるかもと試したが、成長が足りなかったのかハズレだったのか効果は無し。

 新たな素材が無いのでは、私が望むものを作成するのに役立ちそうなアイテムは思いつくはずもない。


「とりあえず今日はもうログアウトする他ないわね」

『チューチュー』

 ログイン時間制限が迫っている私はそのままログアウトした。

 うーん、万全の準備を整えられるとは限らないのだし、多少博打であったとしてもそろそろ挑むべきなのかもしれない。

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