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40:プランニングタイム-2

「どうにか材料は集まったわね」

『チュー』

 木曜日。

 ログインした私は第三階層で子毒ネズミの尻尾をざっと30本ほど集めた。

 勿論、あのネズミたちが屯している広間ではなく、第三階層をうろついて、垂れ肉華シダの花の匂いに誘われてやってきた連中を地道に狩って集めたものである。


「じゃあまずはこれを……刻む」

 私は子毒ネズミの尻尾を毒噛みネズミの頭蓋骨の内側に入れると、毒噛みネズミの前歯を使ってそれを刻み始める。

 勿論毒噛みネズミの前歯の性質上、刻む度に毒液が生じて染み込むことになってしまうが、それは想定の範囲内なので問題は無い。


「良い感じのミンチになったわね」

 そうして出来上がったのは子毒ネズミの尻尾のミンチ肉。

 が、用があるのは肉ではなく、肉に含まれているとされる毒の方だ。

 と言う訳で、手で肉の一部をつかみ取ると、いつもの茶碗の上でそれを思いっきり握りしめる。

 すると肉に含まれる水分だけでなく、僅かにだが手に刺激を及ぼす液体が混ざって出て来て、茶碗の中に貯まっていく。


「ふぅ……どうにか採れたわね」

『チュッチュー』

 それから作業する事約一時間。

 途中で毒噛みネズミの骨同士を重ね合わせ、その間で潰すなどの方法を用いて、搾り取れるだけの水分と毒を搾り取った。

 で、大部分の水分と毒を無くした尻尾のミンチ肉(生)を食べつつ、搾り取った液体の鑑定を行う。



△△△△△

毒ネズミの原毒

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:1


毒ネズミたちが呪術で扱う毒液の原形。

彼らはこれを基に自らの得物である毒を作り上げていく。

▽▽▽▽▽



「原形……呪術『鼠毒生成』の基礎と言う事か」

 どうやら、これまでの私は基礎をすっ飛ばして、最初から応用に入っていたらしい。

 となると、この原毒に求めるものは強化と言うよりは底上げ。

 私に足りていない部分を補ってもらう形の方が都合が良さそうだ。

 と言う訳で、早速呪怨台に乗せる。


「私は力の底上げを求めている。足りない部分を補う事を求めている」

 茶碗が赤と黒と紫の霧に包まれ、私は13の目を霧の球体に向ける。


「強くならなくていい。弱くならなければいい」

 どんな力を求めているのかを呟く。


「望む力を得るために私は毒を飲む。我が身を持って与える毒を知り、喰らい、己の力とする」

 現れた幾何学模様はこれまでの物に比べると遥かにシンプルなもの。

 だが、シンプルであるが故に本来なら優先して覚えるべきものであったと感じさせるものだった。


「どうか私に機会を。覚悟を示し、確かな毒の視線を放つ眼を手にする機会を。我が敵の身に毒を注ぎ込む呪いを!」

 霧が穏やかに茶碗の中へと飲み込まれて行き、原毒が変質していく。

 そうして霧が晴れたところで私は茶碗を手にとって、いつものように鑑定を行う。



△△△△△

呪術『毒の魔眼・1++』の杯

レベル:5

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:10


変質した毒の液体が注がれた杯。

覚悟が出来たならば飲み干すといい。

そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。

▽▽▽▽▽



「……」

『チュウ?』

 きっと、これまでの二回より未知も少なければ、危険性も低いのだろう。

 だが、この毒を知る事が、より深き未知を知るために必要な物である。

 ならば、何の躊躇いも必要は無い。

 私は一気に飲み干した。


「んっ……」

 毒は……極めて穏やかだった。

 ほんの僅かに舌が痺れ、喉が焼け、胃が熱くなる程度。

 きっと度の強い酒を飲んだ方がよほど破壊力があるだろう。


「やっぱり。テンションが上がるほどでは無いわね」

 表示された毒は50少々。

 幻視も幻聴もなければ、痛みや不快な臭いの類もない。

 既知の領域の現象しか起きていない。


「でも……素晴らしい事に変わりはない。私の中で欠けていた物が満たされていく。既に知っている事柄に対しての理解を深めると言うのも、また一つの未知を既知とする行いだもの」

 しかし歯車が噛み合っていく。

 今まで無理やり動かしていたものが洗練されていく。

 バラバラに砕かれた壺が元の形を取り戻すように、散らかった部屋が掃除されるように、混沌が秩序だったものへと変化していく。


≪呪術『毒の魔眼・1++』を取得しました≫

≪タルのレベルが7に上がった≫

「無事に習得出来たようね」

 やがて毒は私の体から消え去って、習得とレベルアップのメッセージが流れる。

 以前から思っていたことだが、呪術の習得と強化は取得経験値の量が多いのかもしれない。


「ふぅ……で、++ってなに?」

 さて、何時までも服毒の余韻に浸っていたい所であるが、確認タイムである。

 私はステータスを開く。



△△△△△

『呪限無の落とし子』・タル レベル7

HP:1,060/1,060

満腹度:100/100

干渉力:106

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・1』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』


呪術・邪眼術:

毒の魔眼・1++(タルウィベーノ)


所持アイテム:

鼠のフレイル、毒噛みネズミの毛皮服、毒鼠の三角帽子、鑑定のルーペ、鉄筋付きコンクリ塊、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.

▽▽▽▽▽


△△△△△

『毒の魔眼・1++』

レベル:1

干渉力:100

CT:10s-5s

トリガー:[詠唱キー]

効果:対象周囲の呪詛濃度×1+1の毒を与える


貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど硬い鎧に身を包んでいても関係ない。

何故ならば相手の体内に直接毒を生じさせるのだから。

更なる毒を知れば変質の時を迎えるだろう。

注意:使用する度に自身周囲の呪詛濃度×1のダメージを受ける(MAX10ダメージ)。

▽▽▽▽▽



「地味に見えて超強化が入ったわね……」

 強化されたのはコストの部分。

 コストとして生じるHPダメージに上限が設定された。

 一見、大したことがなさそうに見えるが、ダンジョンの深部のように呪詛濃度11以上の空間で邪眼を用いるならば非常にありがたい強化である。


「変質ねぇ……」

 そして、『毒の魔眼・1++』に何かしらのフラグが立ったらしい。

 どのような変質になるかは次の毒を知らなければ分からないが、ベノムラードから何かしらの毒を得て、それを基に強化を図れば、何かしら得るものがあるかもしれない。


「ま、今日の所はもう切り上げましょう。明日は未探索部分の探索ね」

『チュウ!』

 私は得るものは得たと言う事でログアウトした。

03/21誤字訂正

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