4:ファーストチェック-2
「ログインっと」
休憩に伴ってリアルでの雑事を終わらせてきた私は『CNP』に再ログインする。
一日のログイン時間はリアル時間で合計8時間までなので、残りは5時間ほど。
しかし、ゲーム内時間に換算すれば15時間もあるので、まだまだ色々とやれる事だろう。
「人は変わらず居ない、と。元から私個人用のスペースなのか、それとも誓約書にサインを求められるようなスタートをした影響で特殊な場所に飛ばされているのか……まあ、追々分かる事ね」
ログインして見えたのはログアウト前とは一切変わりのないコンクリートが剥き出しの小部屋。
そう言えばこの部屋は照明一つなく、窓だってないのに、どうして物が見える程度には明るいのだろうか?
人が居ない理由と同じで疑問は覚えるが、暗かったら不便どころでは済まないので、口には出さないでおこう。
「さて、まずはこれからね」
とりあえずゲームを進めよう。
と言う訳で、私は初期所持品として用意されたルーペ付きのネックレスを手に取る。
なお、8時間の努力の結果、翅の微動による姿勢保持は無意識で行えるレベルに到達しているため、この程度の動作で倒れることは無い。
「鑑定のルーペ。だったわね」
話を戻そう。
このアイテムの名前は『鑑定のルーペ』。
脇に付いている赤いボタンを押しつつ、このルーペを通してものを見ることによって、そのものの情報を鑑定する事が出来るというアイテムである。
そして、その効果の重要性から、譲渡も売却も破壊も不可能な、ある意味ではプレイヤーの相棒とも呼べるアイテムである。
「鑑定っと」
私はルーペを左手に持ち、右手の甲の目に当て、その目で私の顔を視認した状態でルーペのボタンを押す。
すると蚊に刺された程度の痛みと共に、私の視界に一つの画面が表示される。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・タル レベル1
HP:999/1,000
満腹度:100/100
干渉力:100
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』
所持アイテム:
壊れないボロ布の上着、壊れないボロ布の下着、鑑定のルーペ
▽▽▽▽▽
「ようし、上手くいったわね」
表示されたのは私のステータス。
実は『CNP』、自分のステータスですら確認するためには『鑑定のルーペ』を使用する必要があるのだ。
なお、自分のステータスなので、表示される全ての欄が表示されているが、他人のステータスの場合は相手の許可がない限りは選択した称号、名前、レベル、HPの四つしか表示されないらしい。
「HPが減っているのは『鑑定のルーペ』の効果ね」
また、『鑑定のルーペ』には一つ鑑定するごとにHPを1、コストとして消費するようになっている。
なんだ1かと思うだろうが、しかし、1を笑う者は1に泣く。
既に空中浮遊で泣かされているのだから、気を付けておくに越したことは無いだろう。
「満腹度は問題なし。レベルか部屋の影響かしらね」
私はステータスを順に見ていく。
レベルは今は気にしなくていい。
HPは……『CNP』だとお手軽に消費、回復出来るお手軽リソースだっけ。
満腹度はお手軽リソース2、無くなればデメリットがあるが、今は何かしらの理由で消費自体が止まっているらしい。
干渉力と言うのは、確か物にどれだけ影響を与えられるかという数字であり、分かり易く言ってしまえば攻撃力であり、防御力であり、素早さであるそうだ。
なお、実際に与えるダメージについては当てたものの硬度、速度、部位等々から自動算出され、破壊された部位によっては即死もあるとか。
うん、HPがお手軽リソースとして見られる原因の一端は此処にもあるのかもしれない。
「異形度19は……まあ、異常なんでしょうね」
問題は此処から。
私は何が起きても自己責任と言う誓約書を書く事で、今のアバターを手にしている。
つまり、仕様に沿ってはいるが、特殊なアバターであるのは確か。
その一端が異形度19と言う数字なのだろう。
現状ではどのような意味があるのかは分からないが。
異形の内容については、私のアバターがどういう物かを示しているかを表しているだけだからいいか。
不老不死はプレイヤーをプレイヤー足らしめる呪いだと公式サイトに書いてあったし。
「称号は……あ、再鑑定とか出来るんだ」
私は『鑑定のルーペ』を通して見ている目で称号の欄を見る。
すると詳しく見るかどうかを選択する欄が出現した。
なので私は再鑑定を選択。
さらにHPを1消費する事で、『呪限無の落とし児』と言う実に不穏な響きのある称号の詳細を確認する。
△△△△△
『呪限無の落とし児』
効果:低異形度NPCからの好感度低下・極大
条件:初期異形度16以上
貴方を見た正気の者は貴方を嫌悪する。尤も正気の者と貴方とでは住む世界が違うが。
▽▽▽▽▽
「……」
私はとりあえず一度天を仰ぐ……と言うか、全ての視線を上の方へと向ける。
で、落ち着いたら戻す。
「うんまあ、取得してしまったものは仕方が無いわ。それに初期異形度による取得じゃ、取得しない可能性は存在しなかった」
『CNP』の称号は他のプレイヤーに見せられるのは設定した一つだけだが、効果については取得した時点で常時発動になるらしい。
なので、私は低異形度NPCとやらからは常に嫌われるようだ。
それが極大ともなると……たぶん、存在を認識された時点で討伐対象として扱われるのだろう。
まあ、手に入れてしまったなら仕方が無い。
こういう事になるからこその誓約書なのだろうし。
「よし、切り替え終わり。次はこの部屋の中にあるものを調べていきましょうか」
私は自分のステータス画面を消すと、見るからに不思議な物体である、緑色の液体が静かに湧き出している器のような物へとゆっくり飛んでいった。
02/25誤字訂正