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39:プランニングタイム-1

「……。ヤバいわね」

『チュー?』

 セーフティーエリアに死に戻った私は毒鼠の三角帽子を顔にまで持ってきて顔の視覚を封じ、他の目も閉じる。

 そして暗闇に閉ざされた中で、先程までのベノムラードとの戦闘を思い返す。


「毒は直ぐに解毒される。近接戦闘は明らかにアチラのが上。遠距離戦闘もアチラのが上、か」

 結論から言ってしまえば、『毒鼠の首魁』ベノムラードは私にとっては殆ど勝ち目のない敵である。

 ステータスの高さについてはボス特有のそれであるので、別段気にする必要は無いが、それ以外の面で私との相性が致命的に悪い。


「特に毒耐性と解毒能力が致命的なのよねぇ……」

 まず、私の主力である毒が碌に効かない。

 かかる量自体がかなり軽減されている上に、ダメージが入るよりも早くワンアクションで解除されてしまうのでは、ほとんど意味が無い。

 仮に解毒の為のアクションが毒状態に入ったら何を差し置いても行う物であれば、行動阻害の面で多少の意味はあるかもしれないが、流石に一桁台の毒でまで無駄行動をしてくれると言うのは、希望的観測過ぎるだろう。


「遠距離戦闘はどう考えてもNG」

 遠距離戦は相手が使うのが毒液の炸裂弾である時点で諦めた方がいい。

 事前に来ると分かっていて、素早く離脱してもなお避け切れなかった点からして、私の身体能力では避けられない。


「だからと言って近接戦闘もなぁ……」

 しかし、近くに寄れば寄ったで、毒の霧、六本の足による攻撃、尻尾による薙ぎ払い、更には今回は使ってこなかったが、凶悪な前歯による噛みつきがある事だろう。

 これらの攻撃を13の目で観察する事で予期する事は出来るかもしれないが、全てを掻い潜って有効打を与えられるような身体能力は私には無い。


「部下のネズミたちもまだ呼んでないのよねぇ」

 ベノムラードが毒噛みネズミ、毒吐きネズミ、子毒ネズミたちを呼ぶと決まっているわけではない。

 けれど戦況が不利になったならば、それぐらいの行動を取るとは思っている。

 どの程度の時間で駆けつけてくるのかは分からないが、増援の類が一切来ないと考えるのは、これもまた希望的観測と言える。


「うーん、本当にキツいわね……」

 いっそベノムラードを倒すことを諦め、何かしらの方法でスルー。

 呪いの中心がどうなっているのか、どうやって呪いを集めてダンジョンを維持しているのかだけを調べる方針に移すか?

 で、ベノムラードを倒すのは強くなってからにして、まずはダンジョンの外に出る方法を確保する、と。

 いやぁ、これもまた厳しいだろう。

 私の目で見た限り、ベノムラードの部屋は一番呪いが濃く、同時にそれ以上奥に続く道は見えなかった。

 つまりベノムラード自身が呪いの中心、あるいはあの部屋の中の何処かに呪いの中心があると言う事で、ベノムラードに気付かれる事なく部屋の中を調べ切ると言うのは……無理があるだろう。


「少しシミュレートしましょうか」

『チュ』

 私は帽子を被り直すと、部屋に置かれているネズミの骨をベノムラードの部屋の壁やベノムラード自身を意識しつつ並べる。

 そうしてイメージを分かり易くしたところで、ベノムラードの部屋に突入してから、どう動くかを考える。

 一先ずは倒せなくてもいい。

 とにかくまずはマトモに戦闘を行える形を見出す事だ。


「まあ、マトモにやり合うなら中距離戦で相手の出方を見てから虚を突く形か」

 マトモにやり合えなければ、敵の未知を引き出すことも叶わない。

 戦いである以上は全ての未知を引き出すよりも早く決着がつく可能性は大いにあるが、一切の未知もなく決着がつくのもまたあり得ない。

 そして、『CNP』程のゲームとなれば、二度三度と敵が勝利を重ねていく内に、敵にさらなる強化が施されていく可能性ぐらいは想定しておいてもいい気がする。

 ベノムラードはたぶん勝って気が緩むタイプじゃなくて、勝って兜の緒を締めるタイプだ。


「当たり前だけど、現状では手札が足りないわね」

 色々な動きを想定して動かした結果、ばら撒かれたネズミの骨たちから私は手を離す。

 私が頭に思い描く通りの動きが出来て、ようやく今のベノムラードとほんの少しやり合えるだけ。

 それでは未知なる相手に対してあまりにも準備が足りないと言うか、いっそ失礼ですらあるだろう。


「壁、呪術、追加のアイテム、まだまだ未知が多い第三階層」

 まずは『ネズミの塔』をきちんと調べ上げる事。

 私は第三階層を殆ど調べていないと言ってもいいし、何処かに見落としがあっても何もおかしくはない。

 次に現状見えているベノムラードの能力への対処と、他のネズミたちから予想される能力の予測と対処方法の検討。

 未知の手一つ出されただけで一々死んでいたら、ベノムラードが強化されかねない。

 最後に私自身の強化。

 レベルや装備品はともかくとして、邪眼をもう一段階強化するくらいは出来るはずだし、幾つかの手順を踏めば全く別の系統の邪眼だって覚えられるかもしれない。

 とにかくまだまだ試していないことだらけなのだから。


「とりあえず掲示板を覗いて、情報収集でもしようかしらね」

 私は有益な情報が無いかを探るべく掲示板を覗き、それから適当なタイミングでログアウトした。

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