38:ゴーヘッド-4
「フンッ!」
「おっと」
ただの毒噛みネズミとすらマトモに組み合えない私が、こんな巨大鼠とマトモに組み合ったら一瞬で潰されるに決まっている。
なので私は咄嗟に横へ跳んで、巨大鼠の攻撃を避ける。
「鑑定っと」
同時に色々と確認。
部屋は……床は一辺25メートルの正方形型、高さは10メートルほど、垂れ肉華シダが何本も天井からぶら下がっているが、その何れもが途中で噛み千切られているように見える。
障害物の類は一切ないし、床に転がっている物などベッド代わりと思しき垂れ肉華シダの蔓を巣のように束ねた物くらいか。
で、肝心の巨大鼠のスペックと言えば……
△△△△△
『毒鼠の首魁』・ベノムラード レベル15
HP:18,328/18,328
▽▽▽▽▽
「あ、はい。完全にボスですね」
「ム、奇怪ナ気配ヲ……覗イタカ?」
はっきり言ってヤバい。
レベルについては『CNP』ではまるで当てにならないのでどうでもよいが、膨大なHP、称号、固有名の組み合わせで、巨大鼠……いや、ベノムラードが普通のモンスターでない事は容易に知れる。
おまけに私の『鑑定のルーペ』による鑑定を何かしらの方法で察知したのか、追撃を仕掛けるのではなく、訝しむような目でこちらを見ている。
確実に一般ネズミたちなど比べ物にならないレベルの強敵だろう。
「『
いずれにせよ、手札の都合上、私のやる事に変わりはない。
私は最初の回避と同時に13の目全てで貯め始めていた『毒の魔眼・1+』をベノムラードに叩き込んだ。
「ムッ……」
ベノムラードの頭上に毒状態のエフェクトと毒(30)と言う表示が出る。
この場の呪詛濃度が12、『毒の魔眼・1+』が目一つにつき13の毒を与えられる、理論上の最高値が169と考えると、5分の1も効いていない計算になるか。
流石は『毒鼠の首魁』、毒状態には耐性があるようだ。
「羽虫ノ分際デ我ニ毒ヲ与エルトハ……」
だが、毒そのものが無効化されるわけでないなら勝機はある。
私がそう思った時だった。
「フンッ!」
「は?」
ベノムラードが気合いを入れるような声を出すと共に、毒状態が解除されてしまった。
「ダガ甘イ。我ニ毒ナド、意味ハナイ」
「マジかぁ……」
どうやらベノムラードは毒状態をワンアクションで解除出来てしまうらしい。
勿論、毒解除に限ってもタダでは出来ないはず。
ベノムラードが呪術とアイテム、どちらを用いたのかは分からないが、相応のコストやリスクは背負っているはずだ。
だが……毒をそのまま食らい続けるよりかは遥かにコストもリスクも軽いのだろう。
でなければ、割に合わない。
「今度ハ此方カラダ」
「っつ」
ベノムラードが口を開く。
何が来るのかは毒吐きネズミを知っていれば分かる。
だから私は膝を大きく曲げ始める。
「喰ラエ」
「受けて……」
ベノムラードの口から深緑色の液体が塊になって飛んでくる。
同時に私は床を全力で蹴って宙に飛んだ。
「っつ!?」
これでベノムラードが飛ばした毒液が毒吐きネズミのものと同じならば、問題なく回避出来ただろう。
だが、ベノムラードの毒液は毒吐きネズミの毒液とは似て非なる……いや、上位互換の物であったらしい。
飛んできたベノムラードの毒液は私が居た場所の前にまで飛んでくると爆発。
全方位に毒液をばら撒いてきた。
「ぐっ……」
「直撃ハシナカッタカ」
毒吐きネズミの毒を銃撃とするなら、こちらは炸薬入りの砲弾を飛ばす砲撃と言ったところか。
当たったのは毒液の極一部であるのに、HPバーは10%ほど削れ、毒(12)と表示されている。
直撃すれば、即死も見える事だろう。
「マアイイ」
「そう何度も!」
再びベノムラードが口を開く。
この時点で私は遠距離戦闘を諦めた。
此方の攻撃手段が簡単に無かった事にされる『毒の魔眼・1+』。
あちらの攻撃手段が直撃すれば推定即死、直撃しなくても十分に削られる毒液の砲撃では勝負にならない。
なので、全力で翅を動かして着地し、ベノムラードの横に向かって跳ぶ。
「ふんっ!」
そうして跳びながら鼠のフレイルを抜き、加速を付けてベノムラードの頭に叩き込もうとした。
だがしかし。
「多少痛イナ」
「ちっ……」
四つの目で正確にフレイルの打撃部の軌道を見極めたベノムラードは頭を下げつつ腕を上げる事によって、難なく攻撃を防ぐ。
頭に直撃すれば多少のダメージにはなるだろうが、腕……それもしっかりとした毛皮と肉で守られている上に心構えのある状態では大して効果は無いか……。
この時点でほぼ詰み。
私の攻撃手段の悉くが通用しないのでは、勝ち目どころではない。
「ダガ、ソレダケダ」
「なっ!?」
そして、絶望は重なる。
ベノムラードの前足と中足の四本に深緑色の光が宿る。
それが床に叩きつけられ……ベノムラードの周囲に深緑色の霧が立ち込め、視界が阻害される。
「毒のき……」
私にかかっている毒の数字が増えていく。
どうやら、範囲内にいる者へと毒を与える呪術のようだった。
しかし、私がそれを理解して、次の行動に移る暇はなかった。
「フンッ!」
「りゅっ!?」
ベノムラードがその場で素早く横回転。
腕で掴まれるような事は無かったが、尻尾が私の腹に直撃して、吹き飛ばされる。
そして私が体勢を整えるよりも早く。
「終ワリダ」
ベノムラードが私に向かって跳びかかり、叩きつけられた前足が私の頭蓋を粉砕して即死させた。