37:ゴーヘッド-3
「ログインっと」
『チュッチュー』
水曜日のログインである。
昨日のログアウト地点は『ネズミの塔』入り口ではなく、奥の方に存在するセーフティーエリアだった。
しかしだ。
「見事に入口のと同じ状態になっているわね」
私が今居るセーフティーエリアは完全に『ネズミの塔』の入り口にあるセーフティーエリアと同一の物だった。
天井から垂れ肉華シダの蔓は垂れ下がっているし、ネズミの骨やら毛皮やらが積まれている。
どうやら、セーフティーエリアはプレイヤー個人個人で所有し、何処の結界扉から入っても、同じセーフティーエリアに飛ぶらしい。
「む」
『チュウ?』
いや、それだけではないようだ。
金属製の扉を開けるべく触れてみたところ、半透明の画面が現れた。
内容は何処の扉から外に出るかと言う物。
どうやら、一度見つけて開けた結界扉はワープポイントとして使えるらしい。
『CNP』の世界観から考えるなら……もしかすると、私が今居るセーフティーエリアは呪いによって構築された亜空間のような物なのかもしれない。
それならば、セーフティーエリアの呪詛濃度が一定に保たれるのも当然なのかもしれない。
後、素材や呪い方次第では、携帯式のセーフティーエリアも作れるかも。
「とりあえず探索を再開しましょうか」
『チュー』
まあ、その辺は今は置いておこう。
セーフティーエリア内の垂れ肉華シダは蕾を付けた状態で止まっている事であるし、私は金属製の扉を開けると、セーフティーエリアの外に出た。
「さて……」
出たのは当然『ネズミの塔』第三階層の奥地。
通路を戻ると大量のネズミが屯している広間に着き、通路を進むと呪いの中心部に近づく。
広間に向かう通路は途中で折れ曲がっているが、通路そのものはどちらに進んでも一本道で脇道はない。
「ネズミが出るのは確定として、どんなネズミが出るのかよね」
私はまだ行っていない方へと移動を開始。
暫く進むと、通路が折れ曲がっていたので、いつものように曲がり角の先を確認する。
「……。こっちが本来の第三階層なのかしら」
曲がり角の先は第一階層のオフィスに似た状態だった。
ただ、似ているだけで違う部分も当然あって、部屋と通路を分ける扉は一切なく、そこら中からネズミの鳴き声が聞こえているように思える。
また、垂れ肉華シダは天井から下がっているが、それ以外には塵一つ通路には落ちていない。
「んー、判断に困るわね」
私は慎重に進んでいき、鳴き声が聞こえていない部屋の一つを改める。
部屋の中には何もなかった。
で、この部屋一つだけがそうなら、偶々ハズレを引いただけなのだろうが、他の部屋も同様だった。
「……」
「「「チュウチュウチュウ」」」
では、ネズミの鳴き声が聞こえる部屋はどうなっているかと慎重に確認して見たら……居たのはケージに入れられたモルモットの死体。
どういう呪いなのか、干からびた死体であるはずのモルモットが鳴き声を上げていた。
「鑑定っと」
訳が分からない時は、変な情報を手にしてしまう可能性もあるが、『鑑定のルーペ』を使うのが正解だろう。
と言う訳で、私は動いているモルモットの死体を鑑定してみる。
△△△△△
ゾンビ(モルモット) レベル1
HP:10/10
▽▽▽▽▽
「いやまあ、確かにゾンビではあるけどね」
今まで知らなかったと言うか、出会わなかったと言うか、全ての死体を処理していたからなのか、とにかく『CNP』にはゾンビが存在するらしい。
これで何処かの誰かが呪術を施した結果、ゾンビ化するならば気にしなくてもいいのだろうけど、呪いによる風化を起こさなかった死体が時間経過でゾンビになるとかだったら、今後は少し気を付けた方がいいかもしれない。
「毒は……生物じゃないから効かないのか。頭と心臓を潰せば確実に死ぬ、と」
折角なので少し調べてみたが、ゾンビに『
また、頭と心臓、両方を潰さないと、動きが止まるまでに時間がかかるようだった。
覚えておこう。
「んー?」
ゾンビについて少し調べたところで、私は改めてこの部屋をきちんと見てみる。
ケージにはモルモットのゾンビが入れられているが、そんなケージが十数個、部屋の中には積み上げられている。
で、ケージの一つには内側から破られた形跡がある。
また、この部屋にはオフィス用机が一つあって、引き出しの中には数枚の紙が入っていた。
風化と劣化が酷いので、殆どの情報は読み取れないが……。
「モルモットを使った研究をしていたようね。となると、『ネズミの塔』のネズミたちは元モルモットなのかしら」
とりあえずこの部屋のモルモットたちは研究の素材だったようだ。
どうして、こんな街のど真ん中、おまけにビルの高層階で研究をしているのかと言った部分はまるで分からないが、『ネズミの塔』のネズミたちの源流がこの部屋のモルモットにあるのはほぼ間違いなさそうだ。
きっと、その後に外のドブネズミなどと交わったと言うのはあるだろうけど。
「情報はこんな物か。じゃあ、奥に進みましょう」
私は更に奥へと進んでいく。
何度か通路を曲がりつつ、奥へ奥へと進んでいく。
「……来たか」
やがて曲がり角の直ぐ向こうに広がる広間の光景に、私は鼠のフレイルをきちんと持ち、毒鼠の三角帽子を被り直す。
曲がり角の向こうに居たのは……
「ヂュウアアァァ?」
身長4メートル近い巨大鼠。
ただし、その足は前足と後ろ脚の間に中足と呼ぶべき足が生えて六本、目は本来の物の横に新たな目が増えて四つ、頭の上には人間の頭蓋骨に紐状の何かを通して作られたティアラのような物が乗っていて、見間違う事なき異形の姿をしていた。
「ソウカ、最近ウルサイ羽虫ハ貴様カ」
「……」
巨大鼠が手にしていた垂れ肉華シダの花と思しき物体を投げ捨て、床に六本の足を着く。
そして、違和感はあるもののはっきりと人間の言葉で喋る。
「部下共ノ餌ニナラズニ此処ヘ来タナラバ、我ガ食イ殺ストシヨウ」
「やれるものならやってみなさいな」
「ヂュアアアァァァ!」
巨大鼠が私に向かって殺意を露わにし、飛び掛かってきた。