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35:ゴーヘッド-1

「ログインっと」

『チュー』

 翌日火曜日。

 大学の講義を終えた私は、『CNP』にログインした。

 で、早速第三階層に移動した。

 道中のネズミたち?

 一匹は毒殺してから死体を回収したけど、他は無視か撲殺か毒殺からの囮にした。

 今更だし。


「さて、第三階層の探索だけど……」

 第三階層は垂れ肉華シダが天井に群生している他は、ひたすらコンクリートを打ちっぱなしにして作られた迷路である。

 恐らくは無限ループ構造であるために、階層の端らしい端はない。

 そうでなくとも空間がおかしくなっているから……普通の迷路の常識は持ち込むべきではないだろう。

 後、地図についても何処まで信用できるか分かった物ではないので、作成は諦めた。

 もっと良さそうな方法は思いついたし。


「鑑定っと」

 私は目の前の空間に『鑑定のルーペ』を使う。

 表示された呪詛濃度は前回と同じ11。

 そして、下り階段のある空間に入って、下の階との間に立てられた低い塀を超えたあたりでもう一度鑑定すると、呪詛濃度は10と表示された。

 私は両者の境界に立つことで、それぞれの肌感覚と視覚情報の違いを出来る限り覚えるように努める。


「いけそうね」

『チュウ?』

「呪いの中心が何処にあるかの手がかりを見つけたと言う事よ」

 そう、第三階層は空間がおかしくなるほどに呪いが濃い。

 裏を返せば、空間がおかしくなるほどに呪いを集める場所が何処かにあると言う事。

 その呪いを集める場所が『ネズミの塔』の中心部であったり、ダンジョンのボスがいる場所であると確定する事は出来ない。

 が、最低でも呪いを集める何かはあるはず。

 その何かがあれば……私がダンジョンの外に出られるようになる何かを作れる可能性は高いはずだ。


「では、探索開始……右ね」

 私は少しでも呪詛濃度が高いと感じる方に向かって移動を始めた。



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「相変わらず毒噛みしか見かけない」

 探索すること暫く。

 私は見事に第三階層を彷徨っていた。

 いやまあ、一応呪詛濃度が濃い方に濃い方にと言う感じで動き続けては居たのだが、変化に乏しい環境であるためにどうしてもダレがちなのだ。

 呪詛濃度が濃い方へと向かう都合上、階段の類も見かけないし。


「ん?」

 と、此処で私は一つの匂いをかぎ取る。

 それは濃厚な、嗅ぐだけで食欲が沸き立つような焼肉の香りであると同時に、先日の死に戻りを思い出す臭いでもある。


「足音や鳴き声は……しない」

 周囲から足音や鳴き声がするようなことは無い。

 だが、先日の件を考える限り、小さいネズミの群れが集まって来ないとは考えづらい。

 となれば、既に集まり終わって、貪っている最中なのだろう。

 ならば、少し様子を見てみるとしよう。


「居た」

 匂いの元は簡単に見つかった。

 数メートル進んだらネズミたちの鳴き声が聞こえ始めたので、後は鳴き声がする方に向かっていけばいいだけだったからだ。

 そして、曲がり角の向こうの様子を探るべく、左手だけ角の向こうへと出した私が見たのは中々に衝撃的な光景だった。


「「「チュウチュウチュウ……」」」

「うわぁ……」

 それは100匹以上の小さなネズミたちが垂れ肉華シダの花に群がろうとする光景。

 時に蹴飛ばし、時に噛みつき、時に引き剥がし、他の個体を押し退けて、少しでも多くの肉を自分の胃に収めようとする貪欲なネズミたちが争う姿。

 そして、これほど激しい争いであれば、当然ながら何かの拍子で死んでしまうネズミだっている。

 だが、『ネズミの塔』のネズミにとって餌ではないのは生きている同族と垂れ肉華シダぐらいなものであるため、死んだネズミは一瞬で周囲のネズミに食われて骨も残らない。


「これはある種の蟲毒ね」

 此処まで来ると、生存競争ではなく蟲毒……お互いに殺し合わせて呪詛を強めていく呪術の一種としか思えない程である。

 いや、あるいはこの生存競争を生き抜いたからこそ、毒噛みネズミや毒吐きネズミが生まれるのかもしれないが。

 なんにせよだ。


「まずは鑑定っと」

 私は小さなネズミに向けて『鑑定のルーペ』を使用する。



△△△△△

子毒ネズミ レベル1

HP:10/10

▽▽▽▽▽



「一匹一匹はやっぱり弱いようね」

 苔だけの垂れ肉華シダと同じレベルとHPしかない。

 とは言え、数は力なのは、この前全身に噛みつかれて殺された時に悟っているので、此処で突っ込むような真似はしない。

 そうでなくとも先程様子を探った時に、お目付け役あるいは護衛役と思しき毒吐きネズミが数匹一緒に居るのは確認しているし。


「ま、何とかなるでしょう。『毒の魔眼・1+(タルウィベーノ)』」

「ヂュッ!?」

 私は勢い良く翅を動かして、一瞬だけ通路の角から出ると、邪眼を発動。

 毒吐きネズミに毒を与える。

 そして床を全力で蹴って直ぐに元の位置に戻る。


「「「チュウチュウチュウ!」」」

「ま、そうなるわよね」

 それから一分ほどすると毒状態になった毒吐きネズミは倒れ……直ぐに食われ始めた。

 アイテムが勿体ないように思えるが、素材よりも命の方が優先度が高いので、これについては仕方が無い。


「じゃあ、まずは護衛を全部引き剥がしましょうか」

 諦めを付けたところで、同じことを毒吐きネズミと思しきネズミが居なくなるまで繰り返す。

 恐らくだが、『ネズミの塔』のボスの命令なのだろう。

 毒吐きネズミたちは子毒ネズミたちから離れることも出来ないようで、仲間が倒れても私の方に来る様子は見られないし、この場から逃げ出す様子も見られなかったので、処理は容易だった。

 しかし、この統率力は……今はありがたいが、ボスと戦う時は大変そうである。

 まだ先の話なので、今考えても仕方が無いが。


「さて、護衛が居なくなり、食事も終えた子毒ネズミたちはどうするかしら?」

 護衛の処理は完了。

 垂れ肉華シダの花も全部食われたようで、匂いも無ければ、蔓にぶら下がるネズミも居ない。

 そんな状況で私は変わらず角から右手の目だけ出して、相手の様子を観察する。

 子毒ネズミたちは……数匹が大きくなり始めた。

 なので、私は慌てて鑑定を行う。



△△△△△

毒噛みネズミ レベル2

HP:550/550

▽▽▽▽▽



「一気に強くなり過ぎでしょ」

 どういう理論なのかはともかく、子毒ネズミは成長して毒噛みネズミになったようだ。

 恐らくだが、これからどうにかして更にレベルを上げた後に、他の階層に移動して、敵を待ち構えるのだろう。


「ま、何にせよ『毒の魔眼・1+(タルウィベーノ)』」

「ヂュッ!?」

 が、そこまで確認する気はない。

 と言う訳で、大きくなったネズミたちをポーションケトルで回復しつつ、毒殺していく。

 死体は当然子毒ネズミに食われてしまうが、共食いでは栄養が足りないのだろう、ネズミの死体を食べた子毒ネズミが成長することは無いようだった。

 うん、残る子毒ネズミの数は100匹ほど、そろそろいいか。


「せーえっ、のっ!」

「「「チュッ!?」」」

 私は鼠のフレイルの紐を解くと、通路の角から飛び出し、子毒ネズミの群れに向けてフレイルを振り下ろした。

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