30:ショートカット-2
「そろりっと」
第四階層には下り階段が二つと床に開いた穴が幾つもある。
これら全てが第三階層の別々の場所に繋がっている事は容易に想像が付くため、今は後回しにする。
で、第四階層に居る毒吐きネズミたちもスルー。
第五階層を探索しに行くだけならば、物陰に身を隠しつつ移動すれば、気付かれる事なく移動出来る。
「ふーん、そうなの……」
そうして移動する中で、複数の毒吐きネズミの警戒網に入っている穴については位置を覚えておく。
ただの偶然の可能性もあるが、覚えておいて損はないだろう。
「さて第五階層は……荒れているわね」
そうやって探りを入れつつ、一つだけある登り階段を見つけた私は、壁が壊れた部分から侵入。
第五階層に移動する。
第五階層は……かなり荒れていた。
恐らくは先日来た巨大な黒い鳥によって破壊されたのだろう。
天井はほぼ無くなっていて、元屋上と思しき部分が僅かに残っている程度。
壁も大部分が壊れているし、床の穴も上から抉られた結果として開いたような形になっている。
当然、瓦礫はこれでもかと言うぐらいにある。
「無用な戦闘は控えておきましょうか」
私は毒吐きネズミたちから姿を隠しつつ、第五階層の探索を始める。
ただ、マトモな形で残っているものはやはり殆どなく、毒吐きネズミたちを倒して回収する以外は、特に何も無さそうな感じだ。
「ん? これは……アンテナ?」
しかし、そんな中で私は極めて貴重なアイテムを見つけることになった。
それは、金属製の棒を組み合わせて、魚の骨のような形にしたもの。
テレビのアンテナだ。
恐らくだが、ビルの屋上に設置されていたもの……なのだろうか?
高さ50メートルを超すようなビルの屋上なんて知らないから、何とも言えない。
「ちょっと鑑定っと」
まあ、何にせよ持っても崩れなかったと言う事で、私は鑑定をした。
△△△△△
アンテナ
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
電波を受信するためのアンテナ。
▽▽▽▽▽
「これと言って怪しい呪いの類もなし、と。回収でいいわね」
うん、アンテナだから少し懸念はしていた。
何かヤバい奴らからの電波を受信するとか、そんな感じの懸念だ。
まあ、大丈夫だったようだが。
なんにせよ、金属製かつ軽量と言う貴重な性質を有する長柄の棒だ。
中に何かを詰めれば、重量と引き換えに強度を増すことも出来るだろうし、呪いで補ってもいいだろう。
少なくとも使い道は間違いなくあるので、毛皮袋に収めておこう。
「さて、他に使えそうな物は……特にないわね」
残念ながら、第五階層には他にめぼしい物は無かった。
「じゃ、孤立している奴から順に仕留めましょうか」
と言う訳で、私は第五階層と第四階層に居た毒吐きネズミを休憩を挟みつつ、一匹ずつ『
そして、仕留めた中で特に状態が良さそうな三匹の死体を毛皮袋に回収して、セーフティーエリアに戻った。
「解体完了っと」
さて、毒吐きネズミの解体は終わった。
手に入れたアイテムは……まあ、いつも通りだ。
とりあえず肉については全部食べて処分した。
保存食モドキになるかと以前放置した肉は……変な風に乾燥していたので、適当に垂れ肉華シダの苔の中に埋めておいた。
床に広がった血共々、上手くいけば、垂れ肉華シダが栄養分として使ってくれる事だろう。
「アンテナはどうするかしらね」
私は毛皮袋から取り出したアンテナを両手で持つ。
そして、セーフティーエリアの中で軽く振り回してみる。
横に振り、縦に振り、突き、横に一回転と色々と動いてみる。
そうして一通り振り回したところで結論を出した。
「やっぱり普通の武器は無理ね」
空中浮遊の呪いによって私は踏み切る事は出来ても、踏み込む事は出来ない。
踏ん張りを利かせられない私の体では、刃物ならば触れるだけで切れる様な切れ味が、鈍器ならば勢いだけで十分な破壊力を出せる手が必要そうだ。
が、呪いを活用しても現状では触れるだけで切れる様な切れ味は生み出せるか怪しい。
鈍器ならば……いっそ遠心力でも活用してみるか?
とりあえず扱い方や立ち回り含めて、リアルで色々と調べてみるか。
「明日からは大学の講義を受けて、帰ってきてからのプレイだから……ゲーム内で半日も居られないわね」
私は頭の中で明日以降の予定を組み始める。
特にサークルの類には参加していないので、自由時間はそれなりにあるし、休み時間に大学の図書室やネットで調べれば、一通りの武器を調べる事は出来るだろう。
「うーん、毛皮のなめし方とかも調べてみようかしら」
調べたい事は他にもある。
例えば毛皮のなめし方。
これが分かれば、ちょっと量が貯まってきた毒吐きネズミの毛皮などを加工して、よりしっかりとした袋や服を作り出す事が出来るだろう。
「作りたいものと言うか、加工してみたい物も色々とあるのよね」
私は毒噛みネズミの頭蓋骨を手にとって、裏返す。
試さなければ分からないが、幾つかの穴を上手く塞げば、乳鉢くらいにはなるのではないかと思う。
そして、乳鉢があれば、垂れ肉華シダの葉をきちんと磨り潰して、何か作るぐらいは出来るかもしれない。
「いずれにせよ、今日はもう時間切れ。ログアウトね」
『チュー』
そうして予定を立てつつ私はログアウトした。
あ、そう言えば、掲示板も確認しておくか。
何か有用な情報があるかもしれない。
09/13誤字訂正