297:ザリチュゴーレム-2
『で、どういうのを作るでチュか? ざりちゅとしては鼠、手、この辺りをオススメするでチュが』
「そうね……目を作りましょうか」
私は自分の目の前に熱拍の幼樹呪の木材を置く。
サイズは縦横高さが各5センチほどで、端材のような物である。
『目でチュかぁ……ゴーレムで見たものをたるうぃの視覚にリンクさせたいんでチュか?』
「ええそうよ。それに加えて、ゴーレムの目を介して邪眼術を撃てるようにしたいの」
『でチュか』
私は細工用アイテム一式を使って熱拍の幼樹呪の木材を目的の形に近づくように彫っていく。
うん、もしかしたら今までで一番細工らしい細工かもしれない。
細工ではなく木工扱いにされる可能性もあるが。
『まあ、それなら確かに視覚に特化したゴーレムは必要でチュね。普通のゴーレムに付けた視覚とたるうぃの視覚をリンクさせることは簡単でチュが、邪眼術を使わせるなら普通では無理でチュ。ただ、特化してもなおコストは重くなるでチュよ。便利で強力な呪術には相応のデメリットがつきものでチュから』
「それは分かっているから大丈夫よ」
さて、肝心の掘り出す型だが、基本形はピンポン玉のような真球状。
大きさは直径にして3センチもないぐらいだろうか。
『ただの真球にはしないんでチュね』
「ただ丸いだけだと、何処かに転がって行っちゃうじゃない。最低限の対策は欲しいわ」
『確かに欲しいでチュね』
だが、ただの真球にするのではなく、自分の位置を固定できるように、片側に寄せる形で四本の足と言うか棘を付ける。
ザリチュによると、型の状態では真っ直ぐな棘だが、取り込む際に可動域を設定することで、実際にゴーレムにした時に設定どおりに動かせるようだ。
逆に言えば、可動域の設定は型を取り込む際にしかできない。
なので、この辺の擦り合わせは型を取り込む前にしっかりと決めておくべき事柄として、念入りに話し合っておく。
『たるうぃ、たるうぃの指定通りの型を作るためにも、ざりちゅにとって分かり易い印を付けるでチュよ』
「具体的には?」
『この部分……赤道と言えばいいでチュかね。とにかく此処へほんの僅かな段差を作って、眼球部分と台座部分を切り離して考えやすくするとか、眼球部分に毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻を張り付けて瞳孔や虹彩を表現するとかでチュね』
「なるほどね」
そして、擦り合わせた通りの仕様になるように、私はザリチュの指示通りに追加の加工をしていく。
「これで完成かしら?」
『型そのものは完成でチュね』
と言うわけで完成。
目のゴーレムの型である。
基本的な形は真球と言っていい。
だが、真球の下半分から四本の棘が生えている事でどういう地面でも安定して置けるようになっている。
また、真球の上半分と下半分では僅かに下半分のが大きく、下の器に真球が収まっているようにも見える。
で、真球の上半分には瞳孔と虹彩のように見える模様が入っていた。
『では呪怨台に乗せるでチュ。ざりちゅが念を込めるでチュよ』
「分かったわ」
私はザリチュの指示通り、呪怨台にゴーレムの型を乗せる。
すると直ぐに呪詛の霧が集まってきて、型に吸収され、霧は消え去った。
呪詛の霧の中から現れたゴーレムの型に大きな変化は見られなかった。
だが、瞳孔と虹彩を表現するために填め込んだ甲殻が完全に固定化されていたので、意味はあったようだ。
「じゃあ最後に取り込みね」
『そうなるでチュ』
これで後はザリチュの『
と言うわけで……ちょっと『ダマーヴァンド』と『熱樹渇泥の呪界』を何往復かして、飢渇の泥呪の砂を集めてきた。
副産物として喉枯れの縛蔓呪の死体が一つ手に入ってしまったのは後で処理する。
それとザリチュ曰く、皆乾かしの砂漠の砂でも問題はないそうだが、作り出すゴーレムの性能に差が生じそうなので、こう言うのはある程度は拘っておいた方がいい。
本音を言えば、飢渇の泥呪の砂に『ダマーヴァンド』の毒液をよく染み込ませた上で乾燥させた、有毒だが病原菌の類と言う意味では奇麗な砂を用いりたいところである。
「では……『
『チュー』
なんにせよ準備は整った。
と言うわけで、私が詠唱キーを発して、『取り込みの砂』が発動。
私が作ったゴーレムの型が砂によって、持ち上げられていき、やがて砂の立方体の中へと消えていく。
同時に干渉力低下によって私の体が重くなり、HPと満腹度を示すバーの一部が黒くなって、最大値減少状態である事が示される。
『チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……』
「……」
どうやら型を取り込むのには結構な時間がかかるらしい。
ザリチュに付いている目玉がローディング状態を示すかのように、籠の中でゆっくりと回っている。
『チュー……チュー……問題を確認中ー……チュー……チュー……問題を確認中ー……チュー……チュー……名称登録中ー……チュー……チュー……登録完了でチュ』
「かかったわね」
『いや、これでも十分早い方でチュよ。もっと複雑な型を取り込むとなったら、今の十数倍はかかるでチュ。まあ、データの取り込みさえ終われば、ざりちゅに何かをさせる、たるうぃがざりちゅを脱ぐ、この二行為以外は問題ないでチュけど』
「なるほどね」
型を取り込んでいる間はザリチュの助力は期待できない。
が、あまりにも時間がかかるなら途中で何か別の作業をするのはあり、と。
『とりあえず完成品のステータスを見てみるでチュよ』
「分かったわ」
私はステータス画面を開いて確認をしてみる。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル22
HP:453/1,210(-100)
満腹度:120/150(-10)
干渉力:121
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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『眼球』
レベル:20
干渉力:110
CT:60s-120s
トリガー:[詠唱キー]
効果:周囲の砂を操って眼球型ゴーレムを一体作成する。
見る事に特化したゴーレムを作成する。
ゴーレムの得た視覚情報はゴーレムの操作者に伝わる。
ゴーレムの視界を介して呪術を発動する事は可能だが、CT3倍、コストとデメリット2倍、呪術発動後のゴーレム破壊を伴う。
注意:CTはザリチュが処理するが、トリガーは着用者が引く必要がある。
注意:使用する度に着用者に最大HP低下(10)、最大満腹度低下(1)、干渉力低下(1)が付与される。
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「……。ゴーレム破壊はともかく、CT3倍、コストとデメリットが2倍ね……」
『妥当だと思うでチュよ』
「妥当と言うか、むしろ軽いぐらいじゃないかしら。考えて運用する必要があるのも事実だけど」
『でチュか。まあ、軽い分には良いんじゃないでチュか』
「そうね」
とりあえずカタログスペックを見る限りでは悪くない。
これ以上については、実際に試してみないと分からないか。
なお、試せるのは『取り込みの砂』のCT明けが終わってからなので、一時間後である。
それとステータス画面にあるマイナス表記の意味はそのまんまなので無視する。
「んー……とりあえず明日の為に次の型を作りつつ、最後にこっちの球根の処理をしましょうか。そうしている内に一時間ぐらい経つでしょ」
『分かったでチュ』
私は再び熱拍の幼樹呪の木材を持ってくると、目的の形に向かって削り始めた。
10/22誤字訂正