296:メタモルカース-2
『で、どう処理するんでチュ?』
「そうねぇ……」
私はまず毒頭尾の蜻蛉呪の肉の中でも、特に質がよさそうな部分を200グラム分くらい切り分けた。
これは後で別に使うとしよう。
で、残った大量の肉を……
「『
『派手にやるでチュねぇ……』
『
これで肉のうま……成分が凝縮された事だろう。
「ミンチにして……ゼラチンと一緒に煮て……」
乾燥が進んだ肉を包丁で刻んでミンチにする。
そして毒頭尾の蜻蛉呪のミンチ肉と、炎視の目玉呪のゼラチン、少量の毒液を一緒の鍋で煮て、よくかき混ぜる。
なお、量が多かったので、二つの鍋を使っている。
「ええと、熱拍の幼樹呪の木材でいいかしらね」
『木材の加工。本当に手慣れたでチュよねぇ。あ、渇砂操作術の型を作る時も熱拍の幼樹呪の木材を使うといいと思うでチュ』
「分かったわ」
ミンチ肉が十分に溶けるまで煮る間に、その後に備えた行動を起こす。
つまり、熱拍の幼樹呪の木材を使って、シンプルな栓を作成しておく。
「これでよし」
続けて二つある喉枯れの縛蔓呪の球根から蔓の根元を取り除き、案外空洞がある球根の中を覗けるようにする。
この球根の中にも周囲の呪詛を吸収するカース肉があるのだが、今回は球根ごと利用させてもらうのだ。
先ほど作った栓のサイズが合うのも確認済みである。
「では投入っと」
『カース三種類の素材でも、特にヤバいものを組み合わせるんでチュかぁ。どうなるのか不安でチュね』
私は喉枯れの縛蔓呪の球根の中に鍋の中身を注ぎ込んでいく。
勿論熱いままだ。
で、十分な量が入ったところで、球根の穴に先ほどの栓を填める。
その上で球根へ葉が付いたままの垂れ肉華シダの蔓を巻いていって、外からは中身が何なのか分からないようにした。
『で、結局これは何なんでチュか?』
「んー……三体のカースの特殊な能力を合わせた薬品のような物が作れないかと思ったのよね。まあ、余っている素材での試しだから、上手くいかなくても問題はないわ」
『カース復活からの暴走については?』
「そこは今日のログアウト前に処理を完了するから大丈夫よ」
同様の処理をもう一つの球根にも施していく。
さて、これで球根そのものはしばらく放置でいい。
「じゃあ、残りの肉ね」
では、最初に切り分けておいた肉の処理である。
『こっちはどうするんでチュ?』
「私に新しい呪いをかけるのに使うわ」
『……。たるうぃはつい先日カースになったばかりだった気がするんでチュけどねぇ』
「そうしてカースになった後の行動で得たい呪いが確定したのと、今の体に問題がないからこそよ。それに……」
『それに?』
「ザリチュの異形度が21で私の異形度が20じゃ恰好が付かないわ」
『絶対にそっちが本音でチュアアアアァァァァァ!?』
私はザリチュのつばを抓り上げつつ、毒頭尾の蜻蛉呪の肉を特製の器に入れて、邪眼妖精の毒杯から出た直後の毒液に漬ける。
そして、呪怨台に乗せた。
「私は
基本的な手順や作り出すものは前回と変わらない。
つまり、私が現在帯びている呪いの阻害をしないように調整しつつ、毒頭尾の蜻蛉呪の肉が持つ呪いの中から目的の呪いだけを選んで、増幅し、私に定着出来るように変質させるのだ。
「つまりは
勿論前回よりも難易度は高い。
元となる呪いの量が少ないし、近くに同種の呪いもないのだから。
「私は私のままに、更なる
だが上手くはいった。
器の中に呪詛の霧は吸い込まれ、器の中にあったはずの毒頭尾の蜻蛉呪の肉は消え去って、液体だけになっていた。
「はい、鑑定っと」
『よくこんなにあっさりと作れるものでチュよねぇ。本当に』
私はいつものように鑑定をした。
△△△△△
呪い『遍在する内臓』の呪詛薬
レベル:21
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:19
邪眼妖精の毒杯から出現した直後の『ダマーヴァンド』の毒液と、毒頭尾の蜻蛉呪の肉を元に作られた液体状の物質。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
注意:飲むと(100-服用者の異形度)%の確率で呪い『遍在する内臓』を恒常的に得て、異形度が1上昇します。
▽▽▽▽▽
「80%……」
『まーた、微妙な確率でチュねぇ』
目的の物は出来ていた。
が、本当に得たいものが得られる確率は100%ではないようだった。
まあうん、カースになってもなお異形度を上げたいと言って、そう簡単に上げられる訳がなかった。
なんにせよ、私がやる事は変わらない。
「飲むわ」
『分かったでチュ』
私は誓約書にサインをして、薬を飲んだ。
「……。っ!?」
変化はすぐに生じた。
私の内側、皮膚のすぐ下が溶けていく。
胃が、腸が、肝臓が、心臓が、肺が、脳が、骨も神経も血も肉も脂肪も、体の内側にある全てが溶けて曖昧になっていく。
「ーーーーー!」
私の口から人ならざる声が漏れ出ていく。
前回と違って外からの干渉はないが、代わりに内側での変化は激しい。
私と言う生ける呪いを生かす為に必要な要素が全身へと無秩序に広がっていく。
無秩序に広がっていったために、体全体での整合性が取れなくなっている。
物理的にも呪詛的にも私の内側がねじ曲がっていき、未知なる存在へと化していく。
「ごぼっ、げぼっ、がぼっ」
口から血の塊が出てきて、直ぐに風化して消えた。
目から血の涙が流れて、こちらも風化した。
位置を間違えた骨が皮膚を突き破って外に出て、これもやはり風化して消えた。
「あー……。うん、そうね。ごぼっ。まあ、無理があると言うか、既知を未知に帰すのは私の主義主張的に微妙な行為よねぇ」
痛みが治まっていく。
無秩序で、曖昧で、未知の領域と化した私の内側も落ち着いていく。
心臓の高鳴りは左胸で、頭痛は頭で、呼吸で動くのは胸、背骨肋骨骨盤全部正しい位置に収まっている。
そう、普段の私通りの位置だ。
≪呪い『遍在する内臓』を得て、異形度が1上昇しました≫
『失敗でチュか?』
「いいえ、成功はしているわ」
呪いを得たと言う通知は来た。
そして自分の内側に意識を向ければ分かる。
確かに私の心臓は左胸にある。
だが、薄く全身に心臓が広がっている感覚もある。
何を言っているのかと思われるかもしれないが、本当にそういう感覚があるのである。
「ただ、完全成功ではないわね。そうね……頭や胸を打ち抜かれても即死はしない。けれど能力は大きく落ちる。そういう感じの状態かしら」
『完全に遍く存在させることは出来なかった。と言う事でチュか』
「そういう事ね。まあ、私自身の性質として、既知を未知に帰すのに拒否反応の類があったんでしょうね。あるいはゲームのシステム的に同じ呪いを重ねる事で、完全に遍く存在させられるようになるのかも。なんにせよ、これで異形度21。当面は異形度上げはするべきじゃないわね」
私は一応ステータス画面を開く。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル22
HP:372/1,210
満腹度:132/150
干渉力:121
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
「うん、ちゃんと表示されているわね」
『でチュか』
前回上手くいって、まだまだ呪いを得られると私は感じていた。
それについては今回も感じている。
そう、私はまだまだ呪いを重ねられる。
「さて、体の調子を確かめる意味でも、ザリチュの為に型を作りましょうか」
『おっ、それはありがたいでチュ』
だが、次からは今までよりも慎重に進めた方が良いだろう。
今回完全成功しなかった理由にはそういう面もあるだろうから。
そう、『CNP』世界の呪いと言うものについてもっと理解を深めなければならないのだ。
「さて、まずは適当な木材を持ってこないと」
私は内心でそんなことを考えつつ、私の邪眼術とはまるで別物になるであろうザリチュの渇砂操作術を見るための作業を始めた。