292:ザリチュリインフォース-4
「さて、他の素材たちは……大人しくしているわね」
『垂れ肉華シダの量が増えているぐらいでチュね』
『ダマーヴァンド』に帰ってきた私は直ぐに解体場へと向かい、これまでに集めたカースの素材に異常が生じていない事を確認した。
どうやら垂れ肉華シダが仕事をしてくれたらしい。
「じゃあ、解体ね」
私は熱拍の変異樹呪の死体を毛皮袋から取り出すと、その場に置く。
『人型でチュけど、何か思うところとかはあるでチュか?』
「え? 何もないけど? ああでもそうね。私そっくりだから、自分の等身大フィギュアでもあるなら、こんな感じなのかなとは思うわね」
『それだけでチュかぁ』
「それだけねぇ」
熱拍の変異樹呪の解体はサイズが小さい上に、私の姿を模している事もあって、とても簡単だった。
で、得られたのは、木材、心材、樹皮、目玉の四つ。
ちなみに私の髪の毛と翅に当たる部分が樹皮で、心臓部分が心材である。
そして、肝心の鑑定結果はこんな感じ。
△△△△△
熱拍の変異樹呪の木材
レベル:18
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:14
熱拍の変異樹呪の体だった木材。
熱、乾燥、出血に対して強い性質を持つ。
軽くて丈夫だが、それ故に加工の難易度は高い。
▽▽▽▽▽
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熱拍の変異樹呪の心材
レベル:21
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:19
熱拍の変異樹呪の心臓部分に当たる木材。
高温に反応して脈打ち、脈打ちに反応して熱波を放つ。
熱、乾燥、出血に対して強い性質を持つ。
金属のように堅くて丈夫、熱にも強いが、加工の難易度も高い。
▽▽▽▽▽
△△△△△
熱拍の変異樹呪の樹皮
レベル:18
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:14
熱拍の変異樹呪から取れた白、赤、黄が入り混じった樹皮。
熱、乾燥、出血に対して極めて強い耐性を有する。
上手く加工すれば、耐性そのままに繊維を取り出す事も可能。
▽▽▽▽▽
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熱拍の変異樹呪の目玉
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:19
熱拍の変異樹呪から取れた目玉模様の球体。
熱、乾燥、出血に対して極めて強い耐性を有する。
熱拍の幼樹呪の赤樹脂が変化したものであり、呪詛を強い指向性を持って撃ち出すことが出来る。
▽▽▽▽▽
「さて、これからどうすればいいのかしら?」
『まずは糸でチュね』
解体も出来たところで本題であるザリチュの強化である。
まずは垂れ肉華シダの蔓、熱拍の変異樹呪の樹皮、喉枯れの縛蔓呪の蔓を毒液に漬けて、繊維を取り出し、三種類の繊維による特製糸を紡ぐ。
そして特製糸を呪怨台に乗せて、一本の糸としてアイテム化する。
『毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮をざりちゅと同じ形にするでチュ。アイテム化をして、乾燥耐性も付けておくでチュよ』
「はいはいっと」
そうして出来上がった糸の一部を使い、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮をザリチュと同じ三角帽子の形にしていく。
こうして出来た三角帽子を呪怨台に乗せて、物理耐性と乾燥耐性を持った帽子にしておく。
『甲殻、木材、蛇牙、棘で釘を作るでチュ。各3本、計12本でチュね』
「こんな感じかしらね」
毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻、熱拍の変異樹呪の木材、炎視の目玉呪の蛇牙、喉枯れの縛蔓呪の棘を加工。
ザリチュの言うところの釘……三角帽子のつばを貫いた上で、その先で何かを引っかける事が出来るようになっているパーツを作る。
うーん、フックに近いかもしれない?
『蛇皮をよくなめしておくでチュ』
「裏表を間違えないようにしないといけないわね」
炎視の目玉呪の蛇皮をなめして、奇麗にしておく。
今更だが、今回の件で回収した全てのアイテムを使うわけではないらしい。
『水晶体と目玉を組み合わせたパーツを作るでチュ』
「了解っと」
炎視の目玉呪の水晶体を削り出して小さな皿のようにし、その上に熱拍の変異樹呪の目玉を乗せる。
そして喉枯れの縛蔓呪の棘を組み合わせて、中に目玉の入った籠の様なパーツを組み上げる。
なお、固定には赤樹脂を用いている。
『泥呪の砂、毒腺の液体、毒液を混合した泥を三角帽子の内側に塗り込んでいくでチュ』
「熱拍の幼樹呪の赤樹脂は?」
『……。この先使う分が確保できているなら、混ぜて欲しいでチュね』
私はザリチュの指示通りの物体を三角帽子の内側に塗り付けていく。
『此処から先の指示は予め出しておくでチュ』
「分かったわ」
私はザリチュを頭から外すと、ザリチュの指示通りに動く。
つまり、ザリチュに泥を塗った三角帽子を重ね合わせる。
四つの素材で作った釘で、三角帽子とザリチュを貫いて固定し、その上で最初に作った糸でつばの端や、三角帽子の根元部分などを縫い合わせた。
「ん?」
いつの間にか刺繍を求められている。
まあ、糸の余りはあるし、色の都合上目立ちもしないから、ザリチュの要望を叶えておく。
三角部分に、彼岸花、ネズミ、目玉、トカゲの模様を小さく刺繍しておく。
「此処をこうしてっと」
刺繍が終わったので、釘の先のフックに蛇皮を引っかけて一周させ、三角帽子のつばから、被った人間の顔の上半分を隠すように蛇皮を提げる。
それからフックの先を隠すように熱拍の変異樹呪の目玉を差し込み、赤樹脂で固定。
「さっき作ったパーツを三角帽子の先端に取り付けてっと」
少し前に水晶体と目玉で作ったパーツを三角帽子の先端に縫い付ける。
「一度全体を毒液に漬けて……
こうして出来上がった新たなザリチュを毒液に漬けて染色し、『飢渇の邪眼・1』による乾燥で適度に水分を飛ばす。
「呪怨台に乗せるっと」
私は呪怨台へザリチュを乗せた。
直ぐに呪詛の霧が集まってきて、ザリチュの姿が見えなくなる。
込める思いはシンプルだ。
自分の意思を持った帽子になるようにというものだ。
「……」
そしてザリチュ自身も願っている、自分の強化を、更なる力を。
私はそれを邪魔しない。
だって、その方が面白いことになると分かっているからだ。
「完成ね」
そうして乾いた風がセーフティエリア内に吹き荒れて、呪詛の霧が呪怨台の上から吹き飛ぶと同時に、とても濃い呪詛の霧を纏った新たなザリチュが姿を現した。
「鑑定っと」
私は呪怨台からザリチュを持ち上げる。
ザリチュは呪怨台に乗せる前とはだいぶ姿形が変わっている。
蘇芳色の三角帽子と言う基本形に、三角部分の先に作ったパーツと蛇皮のシェードはそのままだが、フックの先に付けた目玉は虹色の小さな宝石に変化しているし、12本のフックは同一のデザインのボタンになっている。
厚みは薄くなり、重量は軽くなって、これまでと同じ感覚で着ける事が出来そうである。
デザインを確認したところで、私は『鑑定のルーペ』を向けた。
△△△△△
『渇鼠の帽子呪』ザリチュ
レベル:22
耐久度:100/100
干渉力:121
浸食率:100/100
異形度:21
数多の呪詛を取り込むことでカースと化した三角帽子。
自己意志を持っており、勝手に動き、鳴き、嗅ぐが、使い手以外には聞こえず、望めばたぶん静かにはなる。
物理属性攻撃無効化(小)、物理属性攻撃に対する小さな耐性を有する。
乾燥無効化(10)、乾燥に対して極めて強い耐性、乾燥に対して極めて高い抵抗性を有する。
沈黙無効化(5)、沈黙に対して中程度の耐性、沈黙に対して僅かな抵抗性を有する。
干渉力低下無効化(5)、干渉力低下に対して僅かな耐性を有する。
出血無効化(10)、出血に対して中程度の耐性を有する。
暗闇に対して中程度の耐性を有する。
周囲の呪詛濃度に応じて強度が向上、耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
身に着けているものの全身にこれらの効果の一部が発揮される。
非生物でありながら動き回るため、ある種のゴーレムでもあるが、成長の余地も存在する。
着用している生物が望んだ範囲、あるいは自分の意志で体を動かせない状態にある時、この帽子の意志で体を動かせる。
乾いた砂を操る呪術……渇砂操作術の習得が可能。
渇砂操作術:『
注意:着用者の異形度が19以下の場合、体の制御権を奪われる
注意:着用中、浄化属性への耐性が低下する(中)
注意:この帽子を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(極大)
注意:この帽子の周囲の呪詛濃度が10以下の場合、この帽子が発動中の呪術は解除され、着用者に干渉力低下(50)が強制付与される
▽▽▽▽▽
「あら、カースになったのね」
私はザリチュを被る。
外から見ると私の顔の目が蛇皮で隠されているが、蛇皮の特性のおかげで問題なく外は見えている。
そうして視界の確認を終えると同時に、ザリチュの声が頭の中に響いた。
『カースになったでチュよ。ふふん、たるうぃの相棒として、たるうぃに後れを取るわけにはいかないでチュからね』
「なるほどね」
それにしても凄まじい強化具合である。
ザリチュの強化具合を見た私としてはそう思う他なかった。
まあ、あれだけの手間暇をかけた上にカース化までしたのだから、むしろコレぐらいの強化はされて当然なのかもしれないが。
『ではたるうぃ。ざりちゅの呪術、渇砂操作術についての説明を……』
「ごめんなさいザリチュ。今日はもうログイン制限に引っかかるわ」
で、あれだけの手間暇をかけたので当然なのだが、かなりの時間がかかっている。
さっきから、これ以上はログイン制限に引っかかると言う警告音が鳴っている。
『チュアアアアァァァァァ……まあ、急ぐ事じゃないから、明日以降で構わないでチュけどね』
「悪いわね。じゃあログアウトするわ」
『分かったでチュ』
と言うわけで、私は後始末を終えると、ログアウトした。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル22
HP:1,210/1,210
満腹度:149/150
干渉力:121
異形度:20
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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