290:ザリチュリインフォース-2
「
「チュブラガァ……」
私は午後のログインをした。
そして、早速ザリチュから求められたアイテムの回収を開始。
とりあえず近づいて来た毒頭尾の蜻蛉呪を2匹ほど始末した。
最初は苦戦した相手だが、今となっては大した相手ではない。
「『
続けて飢渇の泥呪を袋の中に集めると、『
「『
その流れで喉枯れの縛蔓呪を探して、『
この際に喉枯れの縛蔓呪のチョーカーはとても役に立ってくれた。
やはり、沈黙と干渉力低下に耐性があると楽でよかった。
なお、仕留めた数は2体。
「『
私は『熱樹渇泥の呪界』の上の方に移動して、炎視の目玉呪に攻撃を仕掛ける。
この際に『暗闇の邪眼・2』を使ってみたのだが、中々の性能で、発動時に生じる黒煙と暗闇の状態異常によってこちらへの攻撃を抑えるだけでなく、火炎属性に強いはずの炎視の目玉呪に十分なダメージを与えることが出来た。
ダメージについては呪詛属性が含まれているからだろうが、実に頼もしい。
逆にあまりよくはなかったのは熱拍の樹呪の葉マントか。
いや、熱拍の樹呪の葉マントそのものの問題ではなく、私のレベル不足が原因なのだが、とにかく重くて、扱いづらかった。
まあ、それでも何とか2体の炎視の目玉呪を狩って、袋に収めた。
なお、この際に『暗闇使い』の称号も得たが、いつものテンプレ称号である。
「ふう、これで既存の素材は十分ね」
『サクサクだったでチュね』
「そうなるように準備をしたんだから当然よ」
なお、仕留めたものの回収できずに落としてしまった炎視の目玉呪も3体ほど存在する。
最初に倒した時にその場で浮いてくれていたので、それが当たり前だと思っていたのだが、どうやら浮くのには何かしらの条件を満たす必要があるらしく、倒した瞬間に渇泥の海に落ちて行ってしまったのである。
「じゃあ、問題はここからね」
『でチュねぇ』
私はこのタイミングで一度『ダマーヴァンド』に帰還。
解体場で手に入れたアイテムを毛皮袋の外に出すと、ぶつ切りに近い感じでとりあえずの解体を済ませ、呪詛を吸収することで復活をもくろむ部位がないことを確認すると、解体場内の呪詛濃度を可能な限り下げた。
そして物は試しにと垂れ肉華シダを増やしておいて、呪詛の吸収をさらに阻害しておいた。
それからアイテムなどの補給を済ませ、再び『熱樹渇泥の呪界』へと潜る。
「で、要望は?」
私は熱拍の幼樹呪の前に浮く。
サイズはこれまでの個体と特に変わらず。
鑑定結果は……
△△△△△
熱拍の幼樹呪 レベル17
HP:103,014/103,014
有効:なし
耐性:灼熱、気絶、沈黙、小人、干渉力低下、恐怖、乾燥、暗闇
▽▽▽▽▽
うん、問題なし。
『じゃあ『禁忌・
「それは流石に却下。変異後が倒せなくなるわ」
『それなら、たるうぃにお任せとしか言えないでチュ。あ、乾燥は欲しいでチュね』
「うん、分かったわ」
さて、これがザリチュの求めた最後の素材である。
と言っても、回収するのは熱拍の幼樹呪の素材ではない。
回収するのは、熱拍の幼樹呪が外敵に対処するために変貌する、熱拍の変異樹呪、その素材だ。
「
私は熱拍の幼樹呪から距離を取ると、まずは『
与えた状態異常は……乾燥(86)か。
素材の性能から分かってはいたが、やはり熱拍の幼樹呪の乾燥耐性は高い。
「すぅ……はぁ……」
『何か試す気でチュね』
「ええそうよ」
まあいい、本番はこれからだ。
折角だから、これまで試してこなかった事を試そう。
「左手に種を」
私は自分の左手の上に『
ターゲットのイメージは熱拍の幼樹呪の一部であること。
そう、人の骨が300本以上、個別に存在しているように、熱拍の幼樹呪の体もパーツごとに分けられる。
特に赤樹脂は樹脂一つ一つが完全に分かれて存在しているから都合がいい。
そうしてパーツの一つ一つを個別に感染させると言う事は……そのパーツ一つ一つに邪眼の効果が表れると言う事。
そしてパーツごとに邪眼の効果が表れても、同一の個体の一部であるため、結局全身に邪眼の効果が及ぶ。
とまあ、理屈をごねてみたが、要するに『呪法・感染蔓』には対多数だけでなく、対多部位で効果を増強する呪法である可能性があると言う事であり、今回はそれを試す。
「右手に星を」
だが、『呪法・感染蔓』だけでは威力が足りない。
だから私は右手に呪詛の星を作り出すと、すぐさま射出。
自転をさせて周囲の呪詛を巻き込みつつ、私を中心として公転させることで楽にスピードを上げていく。
こちらは『呪法・破壊星』の準備だ。
回収作業中にも使っていたのだが、やはり名前の通り、星をイメージした動きをさせると動かしやすい。
「種と星を重ね合わせ……
そうして呪詛の種が熱拍の幼樹呪に張り付き、呪詛の星が十分な速さと大きさになったところで、両者を重ね合わせ、『呪法・方違詠唱』も乗せた『出血の邪眼・1』を放つ。
「っ!?」
『派手っチュねー』
蘇芳色の光が周囲に向けて大量に放たれる。
そして、その直後から熱拍の幼樹呪の全身を這い回るように蘇芳色の蔓が伸びて、断続的に蘇芳色の光を周囲に撒き散らしていく。
そうして熱拍の幼樹呪に与えられた出血の量は……57,644。
「……。これ、起爆して大丈夫?」
『距離を取る事をオススメするでチュ。ざりちゅは巻き込まれたくないでチュ』
うん、何と言うか……うん、やり過ぎた。
呪法同士の重ね掛けと言うのを舐めていた。
純粋なダメージだけでも私が50人近く吹っ飛ぶような出血は、もはや出血ではなく、別の何かだと思う。
「じゃあ行くわよ……『
これはもう熱拍の変異樹呪にならずに吹っ飛ぶかもしれない。
私はそんなことを考えつつも、十分な距離と高度を取って『毒の邪眼・2』を撃ち込む。
そして直ぐに適当な熱拍の樹呪の影に向かって移動を開始。
「っう!?」
『チュ、チュアアアァァァ……』
直後、衝撃波が周囲に響き渡る。
もはや音は存在しない。
近くで起爆していたらどうなっていたかなど考えるもない反応だった。
「ーーーーー!!」
「流石はカースね……これでも生き残るなんて」
『食いしばり特性でもあったのかもしれないでチュねぇ……』
衝撃波が収まると同時に、今度は何者かの叫び声が響き渡った。
「ああなるほど。そう来たか」
『気を付けるでチュよ。たるうぃ』
「ーーー……」
その声を受けて熱拍の樹呪の影から飛び出した私が見たのは、6枚の翅に13の目を持った、私に瓜二つの姿を持った木製人形の姿。
どうやら熱拍の幼樹呪は無事に熱拍の変異樹呪になったらしい。
それも私の姿を真似るような形で。