288:タルウィダーク-1
本日二話目です。
明日からは一話更新に戻ります。ご了承ください。
「白麦、毒液、乾燥ゼラチンも少しだけ使おうかしらね」
『とろみが強くなりそうでチュね』
日曜日、朝からログインである。
そして私は早速、炎視の目玉呪の毒腺が持つ空気に反応して黒煙を発生させる性質を利用した邪眼を作るべく作業を開始。
毒液の中に入れた『ダマーヴァンド』の白麦をよく煮て粥状にし、そこへ炎視の目玉呪の乾燥ゼラチンを砕いたものを極少量投入。
通常よりもとろみが付いた薄緑色の粥が出来上がる。
「じゃあ、毒腺を粥の中で割いてっと」
私は出来上がった粥の中に入れた毒腺を慎重に裂いて、その中身を空気に触れさせる事無く粥へと溶け込ませていく。
すると粥の色が薄緑色から、黒に僅かにだが緑が混じったものに変化する。
「うーん……薄いわね」
『薄いんでちゅか』
私は一口分すくって粥を食べてみる。
だが薄い。
味と言うより、含まれている呪いが、と言う感じだが。
「全部使いましょうか」
『なんか粘り気が増して……チュアッ!? たるうぃ! 黒煙が!?』
「飽和状態と言うところかしらね」
粥が真っ黒になり、黒煙が上がる。
黒煙は熱を放っていて、本来ならダメージを受けるのだろうが……装備品で防げているので問題はない。
しかし光を遮る効果、触れたものにまとわりつく効果はしっかりと働いていて、黒煙がまとわりついた私の両手の甲の目の分の視界は失われている。
そして状態異常、暗闇(15)が表示されている。
「うん、いいわね。じゃあ、これを呪いましょう」
『スルーでチュか……』
素晴らしい事だ。
これできちんとした加工と試練の突破が出来れば、暗闇の邪眼が入手可能な事がほぼ確定した。
「よいしょっと」
私は呪怨台に粥を乗せて、両手に付いた黒煙を振り払う。
すると直ぐに呪詛の霧が集まってくる。
「私は虹色の眼に新たなる邪な光を与える事を求めている」
いつものように……ではなく、これまでよりは少し間隔を開けて、『
うん、1から2になったことで火力が上がっているのを忘れるところだった。
危ない危ない。
「睨みつけたものへ光なき暗闇の世界を与えるような力を求めている」
霧が幾何学模様を描く。
色は……ほとんど黒の青紫色と言うところ。
「望む力を得るために私は闇を飲む。我が身を以って与える闇を知り、血肉とし、己が力とする」
黒い煙が周囲に広がっていき、ほぼあらゆる場所に光源があると言っても過言ではない『CNP』には珍しい闇の世界が形成されていく。
「どうか私に機会を。覚悟を示し、暗闇の邪眼を手にする機会を。我が身に新たなる光を宿す闇の呪いを」
霧が粥へと飲み込まれていく。
だが暗闇はそのままで、少しでも注意を反らしたら、粥の位置を見失いそうだった。
しかし、そんなことを考えている間に暗闇も粥の中へと飲み込まれて行き、やがて呪怨台に乗っているのは湯気を上げている真っ黒な粥だけになった。
『完成でチュね』
「ええそうね。じゃあ、鑑定っと」
私は粥を手に取ると、『鑑定のルーペ』を向けた。
△△△△△
呪術『暗闇の邪眼・2』の黒粥
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:17
変質した毒の液体で煮込まれたとろみの強い粥。
覚悟が出来たならば一息に呑み込んで、胃に収めるといい。
倒れずにいられれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
▽▽▽▽▽
「なんで、2になっているんでチュかねぇ」
『それはざりちゅの台詞でちゅよ!?』
何故か『暗闇の邪眼・1』ではなく『暗闇の邪眼・2』が習得できるようになっていた。
うーん、カース素材を使ったからだろうか?
とりあえず、試練の内容としては『
「まあいいわ。食べちゃいましょう」
私は呪術『暗闇の邪眼・2』の黒粥を胃の中に流し込んでいく。
個人的には粥と言えどもよく噛んで食べたいのだが、こう指示されている以上は流し込むしかない。
「む……」
そうして無事に胃に収めた瞬間。
私の視界は黒一色に染まった。
表示された状態異常は暗闇(125)。
おまけとして何故か灼熱(52)と、ダメージを負うほどではない熱気もまとわりついている。
「ふうん……」
『視覚情報の完全遮断。と言うところでチュかね』
「そうなるわね」
目が一切使えない状態で、空中浮遊の呪いを持つ私が体のバランスを保つのは案外難しい。
が、難しいだけで、安全な状況なら何とかはなる。
それに、目が使えないだけで、他の感覚は聴覚、触覚は生きているし、周囲の呪詛を支配する感覚にも異常はないので、それらを活用すれば、攻撃を避けるぐらいは可能かもしれない。
「ザリチュ。匂いは?」
『問題ないでチュよ。動き回ることだってできるでチュ』
よし、折角なので何が出来るのかを探っておこう。
と言うわけで、その場から動かずに色々と探ってみたのだが、どうやら暗闇の重症化中はメッセージや掲示板、動画の閲覧と言ったことは出来ないらしい。
ちなみにライブ配信そのものは可能、第三者視点……カメラマンを設置したような感じでのライブ配信も可能、だが暗闇の重症化が治るまでは、自分ではその配信画面を見れない、と言う仕様になっているようだ。
徹底的であるとも言える。
「ん?」
『どうしたでチュか?』
異変があったのは暗闇のスタック値が100未満になったところだった。
重症化のラインが100だったのはいいとしてだ。
「微妙に見えるようになったわね」
『チュー?』
何故か黒一色の視界に僅かにだが光が戻りつつあった。
粥を作っている時の暗闇は視界の一部が欠け、欠けている部分は絶対に見えなかったのにである。
「……。ああそうか。私の場合、目が沢山あるから、スタック値の表記に異常が生じるのね」
少し考えて分かった。
たぶん、今の暗闇のスタック値は私の全身に対するスタック値。
粥を作った時のスタック値は、黒煙に包まれた二つの目の分のスタック値を全身換算で表したものであると。
つまり、粥を作った時の暗闇も、全身が包まれていたり、目一つごとのスタック値表記にすれば、今と同じようなスタック値になっていたのだろう。
いや、『
まあ、何にせよだ。
≪呪術『暗闇の邪眼・2』を習得しました≫
「習得したわね」
『あっさりだったでチュね』
暗闇の仕様が分かれば後は耐えるだけなので、問題なく習得である。
と言うわけで、性能を確認する。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル21
HP:1,200/1,200
満腹度:148/150
干渉力:120
異形度:20
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
△△△△△
『暗闇の邪眼・2』
レベル:20
干渉力:110
CT:20s-20s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象に火炎属性と呪詛属性の複合属性ダメージ(小)+周囲の呪詛濃度×2の暗闇を与える
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内から直接闇を生じさせ、熱いままに留めるのだから。
注意:使用する度にHPと満腹度が1減少し、周囲の呪詛濃度×1の灼熱を受ける。
▽▽▽▽▽
「んんん?」
『なんか、『
『暗闇の邪眼・2』の性能に私は思わず頭を捻る。
そしてザリチュの評価に内心で同意した。
効果と言い、コストと言い、『灼熱の邪眼・2』にとてもよく似通っているからだ。
と言うか、コストに至っては完全に同一である。
「呪詛属性ってのはいわゆる闇とか暗黒とかって感じの属性よね。たぶん」
『そうなると思うでチュ』
使う上での注意事項は使用後にあるクールタイムの長さと属性の違い。
特に属性の違いはメリットでもあるので、きちんと使い分けるとしよう。
「うーん、炎視の目玉呪の毒腺を基にしたのが原因よね。たぶん」
『それ以外にないと思うでチュよ』
で、こうなった原因は十中八九、炎視の目玉呪の毒腺にあるだろう。
思い返してみれば、アレの毒腺からの黒煙には火炎属性のダメージや灼熱の状態異常が含まれていてもおかしくない感じだった。
ならば、こうなったのは、むしろ妥当であるのかもしれない。
「まあ、習得出来たなら問題はないか」
『まあ、そうとも言えるでチュね』
とりあえず覚えるべきものは覚えた。
と言うわけで、私は次のやりたい事を始める事にした。