287:タルウィスコド・2-2
本日一話目です
「よく来たでチュ羽虫」
「よく出迎えたわね。ニセムラード」
「ニセムッ……!?」
私はベノムラードの姿をした試験の説明役……ニセムラードを視界の片隅に収めつつ、今回の試練の場所を見ていく。
置かれているのは火が点いている高さ1メートルほどの燭台が一つ、その燭台を中心として10メートルくらい離れた円周上に火の点いていない同サイズの燭台が等間隔に五つある。
私の手には長さ1メートルほどの松明が一本。
床には深さ5センチほどの水が溜まっているが、色からして回復の水が少し混ざっているかもしれない。
「ぐぬぬ。まあいいでチュ。ルールを説明してやるでチュよ」
ニセムラードは歯がみをしつつも、自分の役割を全うする気であるらしい。
うーん、次に会う時があったら、もう少し優しくしようか。
ニセムラード呼びは変えないが。
「まず目的は、出来るだけ多くの火の点いていない燭台に火を点ける事でチュ。終了条件は制限時間10分が過ぎる、死ぬ、諦めるかで終了。そして……」
「っ!?」
私の体が一瞬だけ炎に包まれて灼熱(2,200)が付与される。
なるほど、死んだら終了と言うのは、水死などによるものだけではなく、灼熱の重症化によるものも含まれているのか。
「灼熱の仕様を説明する必要はあるでチュか?」
「掲示板で知っているから大丈夫よ」
『CNP』の灼熱は、通常はHPを回復するのを阻害する状態異常である。
これが重症化すると、ただ阻害するだけではなく、回復しようとして阻害された分と同じだけのダメージを与えてくるようになるのだ。
勿論、自然回復にもこれが適用。
重症化のラインはプレイヤーならば1,000前後。
つまり、今の私にHPを1,200ほど回復できる量の回復の水をかけると、回復しないどころか1,200ダメージを受けて即死するのである。
「残る注意事項は……そうでチュね。足元の水には回復の水が混ざっていて、ただ立っているだけでも、だいたい1秒につき2くらいHPを回復するでチュ。それと羽虫が持っている松明はとてもよく燃える素材で出来ているので、一度火を移すくらいしか使えないでチュ」
「そう。親切なのね」
「チュッチュッチュッ。羽虫が悩む様子を見たいだけでチュよぉ」
実にありがたい注意事項である。
うん、とりあえず解法は一つ思い浮かんだ。
火の点いていない燭台次第では、もう二つ程解法があるけど。
「では試練開始でチュ」
ニセムラードが消え去る。
それと同時に私の足に痛みが走り、灼熱のスタック値が2,198になると共に、少しだけHPバーが減る。
まあ、この痛みは知っていた事なので、気にする事はない。
「こっちは無理ね」
なので痛みを無視して私は火の点いている燭台に直行。
松明を近づけないように気を付けつつ燭台に触れようとし……燭台から放たれる熱量に手を引っ込めた。
うん、マトモに触れたら大火傷どころではなさそうだ。
「よし動く」
では、火の点いていない燭台は?
こちらは普通に触れたし、多少重かったが普通に持ち上げることも出来た。
また、火の点いている松明さえ近づければ、火を灯す事は難しくないであろうことも確認した。
なので私は火の点いていない燭台を担ぐと、一か所に集めていき、適当な一本を中心として、四方から他の燭台を立てかける。
「着火」
その状態で私は松明に着火。
五つの燭台の火を灯す部分が集まっている場所に、火の点いた松明を差し込んで、五つの燭台へ同時に火を灯した。
「あー、やっぱり一気に温度が上がるわよね」
五つの燭台に火が灯ると同時に松明が燃え尽き、私が持っていた部分含めて、一瞬でボロ炭に変化した。
そして、五つの燭台から炎が吹き上がり、大量の熱が周囲へと放たれる。
その勢いは、中央の最初から火が灯っていた燭台の比ではない。
何にせよだ。
≪呪術『灼熱の邪眼・2』を習得しました≫
「よし」
試練そのものは難なく終了。
私の精神は通常の空間へと引き戻されていった。
『ほんの数秒しか気を失っていなかったでチュね。って、全身が焦げ臭いでチュね……』
「あ、灼熱は治ってもダメージは引き継ぎなのね」
さて、早速の性能確認である。
回復は『ダマーヴァンド』のセーフティエリア内なので、放置しておけば勝手に治る。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル21
HP:422/1,200
満腹度:98/150
干渉力:120
異形度:20
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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『灼熱の邪眼・2』
レベル:20
干渉力:110
CT:20s-10s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象に火炎属性ダメージ(中)+周囲の呪詛濃度×20の灼熱を与える
使用者周囲の呪詛濃度が高いほど、効果に上方修正がかかる。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内に直接熱を生じさせるのだから。
注意:使用する度にHPと満腹度が1減少し、周囲の呪詛濃度×1の灼熱を受ける。
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「シンプルに強化されたわね」
『シンプルに強化されたでチュね』
本当にシンプルな強化である。
少し干渉力が伸び、ダメージと与える灼熱が増え、私の周囲の呪詛濃度に応じたブーストがかかるようになっただけだ。
つまり、単純に強くなった。
「じゃあ、今日のところはこれで切り上げましょうか。明日は……炎視の目玉呪の毒腺を新たな邪眼の材料として加工するところから始めましょうか」
『分かったでチュ』
そう言えばそろそろイベントの日程や内容について公開される頃だろうか。
次のイベントはどうなるのか、実に楽しみである。
そうして私はログアウトした。