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286:タルウィスコド・2-1

本日二話目です。

「じゃあ、作りましょうか」

『分かったでチュ』

 さて、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』強化のためのゼリーを作成するのだが、ゼリーそのものについては実はそんなに手間暇はかからない。

 先ほど作った炎視の目玉呪の乾燥ゼラチンを器に入れ、いつもの毒液を注ぎ、それを加熱、ゼラチンを溶かした後に冷やせば、ゼリーそのものは難なく出来るからだ。

 問題はこうして出来上がるゼリーをどうやって『灼熱の邪眼・1』の強化に相応しいゼリーに変えていくかなのだ。

 とりあえずゼリーについては、液体になっている状態を維持して、混ぜるものが完成するまで脇に置いておこう。


「赤豆を磨り潰して、砂糖と混ぜつつ煮てっと」

『甘辛い感じでチュかねぇ』

「蛇牙と水晶体も乾燥させて粉にしてっと」

 私は久しぶりに採って来た『ダマーヴァンド』の赤豆を磨り潰し、砂糖と混ぜて煮る。

 これは赤豆の餡子とも言えるだろうか。

 奇麗な赤色だ。

 同時に『飢渇の邪眼・1(タルウィハング)』を利用して、炎視の目玉呪の蛇牙を一本分、水晶体を少しだけ、乾燥させ、砕いて粉末状にする。

 そして粉末を赤豆の餡子に混ぜていく。


「む……」

 すると変化が生じる。

 赤豆の餡子の保有する熱量が一気に増していき、光が零れ出し始める。

 蛇牙と水晶体の働きによって、熱が効率的に伝わると同時に、熱線として零れ出しているようだ。

 まあ、私の装備品ならこの程度の熱は大丈夫だし、調理器具も同様だが。


『毒腺も使うんでチュね』

「使うわ。まあ、一つくらいならいいでしょう」

 私は毒腺を赤豆の餡子の中に投入すると、周囲をしっかりと餡子で包み込んだ上で毒腺を割る。

 毒腺の中身が漏れ出して、餡子全体に染みわたり、赤かった餡子が黒くなっていくと同時にさらに熱くなる。

 若干の黒煙も生じたが……まあ、許容の範囲内に収まったか。

 とりあえずこれで餡子は完成。

 見た目は普通の餡子だ。

 熱々の餡子とすら言えない量の熱を放ち、時々発光している事を除けばだが。


「よし餡子とゼリーを混ぜてっと」

 私は餡子とゼリーを一つの器に入れて、均一になるようによくかき混ぜていく。

 後はこれを固まるまで冷やせばいいわけだが……。


「あ、こうなるの」

『まあ、あの環境で固体を保つゼラチンでチュからねぇ』

 気が付けば固まりつつある。

 どうやら何処かで固まるための条件を満たしたようだ。

 まあ、簡単に固まってくれた方が今回は都合がいいか。


「完成っと」

『見た目は案外普通でチュねぇ』

 と言う事で、真っ黒ゼリーが完成した。

 なお、今も熱と光は時々放っている。

 では、呪怨台に乗せよう。


「私は第一の位階より、第二の位階に踏み入る事を求めている」

 いつも通りに呪詛の霧が集まってくる。

 なので転写と蠱毒の呪詛が中心に働くように干渉していく。

 また、『灼熱の邪眼・1』による保温も並行して行う。


「私は、私がこれまでに積み重ねてきた結果生まれてきたもの、灼熱を扱う生ける呪いの力、それらを知る事で歩を進めたいと願っている」

 言う言葉の内容、込める思いについては、これまでの1から2に上げた邪眼から大きく変える事はしない。


「私の灼熱をもたらす紅の眼に変質の時よ来たれ。望む力を得るために私は炎を食らう。我が身を以って与える炎を知り、喰らい、己の力とする」

 紅色の幾何学模様が生じる。

 同時に熱波と熱線も放たれる。

 だが問題はない。

 この程度なら装備で難なく防げる。


「どうか私に機会を。命持つものも、命持たぬものも飲み込んで、森羅悉く焼き焦がす。更なる輝きを得た灼熱の邪眼を手にする機会を。ezeerf(エゼールフ)灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 折角だ、込められるだけの呪いを込めよう。

 私は『呪法(アドン)方違詠唱(ハイキャスト)』と『呪法(アドン)破壊星(ミーティア)』を乗せた『灼熱の邪眼・1』を撃ち込んで、一気に加熱する。

 それに合わせて呪詛の霧も飲み込まれていく。

 そうして全ての呪詛の霧が飲み込まれた後には、黒い蒸気を放つ真っ黒なゼリーが残されていた。


「さて、どうなったかしらね」

『鑑定の時間でチュねー』

 私は『鑑定のルーペ』を向けるべく、ゼリーが入っている器を手に取る。

 うん、熱い。

 装備のおかげで問題ないが、今の装備でなかったら、持つことも厳しかったかもしれない。

 それはそれとして鑑定である。



△△△△△

呪術『灼熱の邪眼・2』のゼリー

レベル:20

耐久度:100/100

干渉力:110

浸食率:100/100

異形度:17


呪われた灼熱の餡子が混ざったゼリー。

覚悟が出来たならば食べて胃に収めるといい。

そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。

だが、試されるのは覚悟だけではなく、君自身の器もである。

さあ、痛む前に食べるといい。

▽▽▽▽▽



「やっぱり1から2に上げる時は精神世界に強制連行のようね」

『みたいでチュねぇ』

 フレーバーテキストはだいたい同じ。

 となれば、細かい部分はともかく、おおよそについては『毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』、『沈黙の邪眼・2(タルウィセーレ)』と同じだろう。

 それを理解した上で私は熱拍の幼樹呪の木材から作ったスプーンでゼリーをすくって食べ始める。


「あ、普通に美味しい。ちょっと熱いし、ピリ辛だけど」

『料理としても成功作ってのはいい事でチュねぇ』

「今度、この前の紅茶に合わせて、おやつ用に作ってみようかしら……」

 最近の料理は成功作が多くて嬉しい。

 未知ではないが、美味しいのはそれはそれで良い事であり、幸せな事なので。


「じゃ、行ってくるわ……」

『頑張って来るでチュ』

 そうして食べ終わると同時に私は意識を失い、精神世界へと移動していった。

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