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284:イントゥヒート-3

本日二話目です

「あっさり着けたわね」

『でチュねぇ』

 熱拍の樹呪の枝葉がある高さにはあっさりと着くことが出来た。

 と言うのも、炎視の目玉呪はこちらが手を出さない限りは大人しいようで、視線が合っても普通にスルーされたのだ。


『分かっていると思うでチュが……』

「大丈夫よ。流石にこの数を相手にしようとは思わないわ」

 そして、枝葉のある高さに来て分かったことだが、炎視の目玉呪の生活圏は基本的に熱拍の樹呪の枝葉よりも上の領域であり、そこでは3匹から5匹ほどの群れで活動しているようだった。

 なお、そんな群れが見える範囲で50は存在している。

 炎視の目玉呪がどの程度の範囲でリンクするのかは不明だが……手出ししない方が無難だろう。


「さて、熱拍の樹呪についてはどうしましょうか」

 話は変わって熱拍の樹呪について。

 熱拍の樹呪は枝の太さが太い所で直径10メートルほど、細い所でも優に1メートルはある。

 枝のサイズに合わせて葉も大きく、一枚の葉が10畳の部屋と同じかそれ以上の大きさを持っていて、『熱樹渇泥の呪界』の太陽が放つ熱と光を積極的に取り込んでいる。

 ただ、樹冠……樹木の上部で葉が茂っている部分の厚みは薄い。

 山ではなく、台……いや、中央部分が僅かに凹んでいるのを見ると、クレーターと言う方が正しいかもしれない。


『これ以上は近づけないでチュよ! たるうぃ!』

「みたいね……」

 熱拍の樹呪の樹冠、その中央部であるクレーター部分の放つ熱はとてつもない。

 今の私の装備でも、近づけば呆気なく燃え尽きるようだ。

 クレーターの中心に球体のような何かが見えるが、アレが何か確認できるかは当分先の話になりそうだ。


「相変わらずの拍動ね」

『それは当然だと思うでチュよ』

 当然だが、相手は熱拍の樹呪。

 と言う事で、一定の間隔で脈打ち、熱波と震動を放っている。

 ただ、この高さだと熱波の方が強くて、震動はかなり弱く、熱拍の樹呪の樹皮に触れる事もギリギリ可能そうで、現に私は僅かだが樹皮を回収できた。


「ーーーーー!」

「ん? げっ……」

 これで後は、今日のところは熱拍の樹呪の葉っぱを数枚獲得できればいいかと思い、私はクレーターから離れつつ、採取できそうな葉を探す。

 そんな私の耳に届いたのは巨大ワームの声だった。


『静かにするでチュよ。当然鑑定もやめておくでチュ。たるうぃ』

「……」

 気が付けば巨大ワームは熱拍の樹呪の樹冠よりも上の空間に先端部を出し、叫び声を上げながら炎視の目玉呪を群れごと丸のみにしていた。

 勿論、炎視の目玉呪はそれに抵抗するべく、熱線を放って攻撃し、煙幕を放って逃れようとしている。

 だが、巨大ワームは炎視の目玉呪の抵抗など意に介した様子もなく、次々に飲み込んでいく。


「ーーーーー!」

 やがて巨大ワームの先端部は熱拍の樹呪の樹冠よりも下の空間に消え去っていった。

 恐ろしいことに、かなりの長さ……キロメートル単位の長さが熱拍の樹呪の樹冠よりも高い位置にやってきていたと思うのだが、末尾は見えなかった。

 熱拍の樹呪の枝葉によって視界が遮られていたとは言え、途方もない大きさである。

 と言うか、アレはプレイヤーがどうにかできる存在なのだろうか……?

 幸い今回で相手の太さは見えた。

 たぶん、30メートルくらいだ。


『しかし、見た目からして悍ましいでチュねぇ……』

「そうね。厄介なのは、その見た目に相応しい実力がある事の方だけど」

 ワームの外見も距離が近かったので、前回よりは良く見えた。

 頭部は毛皮に覆われており、口の中には鋭いカミソリのような歯が何百と生えているのが見えた。

 胴体部分は柔らかい肉の部分と堅い岩の部分が入り混じっているようで、岩の部分は剥がれかけの鱗のようにも見える。

 そんな岩の鱗に紛れる形で、無数の目があるようで、どうやらあのワームには全方位隈なく見えているようだ。

 また、棘のような物でも生えているのか、ワームの体に触れた熱拍の樹呪の葉は引き千切られ、ワームの体にくっついている。

 体にくっついた葉は、肉の部分の皮膚上をゆっくりと移動する形で口の方に向かっていき、口の中に消えて行っていたので、葉を移動させられるだけの何かがあるようだ。


「まだまだ実力が足りないわね」

 なんにせよ、今の私が挑めるような相手ではない。

 実力も情報も何もかもが足りていない。


「とりあえず熱拍の樹呪の葉を回収しましょう。citpyts(シトピィトス)出血の邪眼・1(タルウィブリド)』」

『でチュね』

 私は細い……と言っても私の腕程あるが、熱拍の樹呪の葉柄に『呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』と『呪法(アドン)方違詠唱(ハイキャスト)』付きの『出血の邪眼・1』を撃ち込んで、出血を付与。

 それから短剣で傷をつけて出血を発動させ、葉柄を切断。

 本体から離れた熱拍の樹呪の葉は、風化することなく自然落下を始めようとしたので、私はそれを掴むと毛皮袋の中へと収納する。


「熱拍の樹呪は……これぐらいなら意に介さずのようね」

『襲われたらどうなるんでチュかねぇ……』

「さあ? まあ、やり合うなら、相応の準備を整えてからね」

 私は熱拍の樹呪の樹冠にあるクレーターの中心に見える球体へと目を向ける。

 続けて、周囲にある熱拍の樹呪の葉を見る。

 熱拍の樹呪の葉はこの気温と日差しの中でも燃える事なく存在しているどころか、活用していると思われる。

 となれば、この葉を上手く加工できれば、あの球体の正体を確かめる事も出来るのではないかと思う。

 ただ、あの球体の重要度次第では……熱拍の樹呪との戦闘もあり得るか。


「後二枚くらい貰って、回収が終わったら今日は引き上げましょうか」

『分かったでチュ』

 私は更に二枚ほど熱拍の樹呪の葉を回収すると、『熱樹渇泥の呪界』から脱出した。

10/12誤字訂正

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