282:イントゥヒート-1
本日二話目です
「さて、異形度が20になったおかげで、これまでよりは『熱樹渇泥の呪界』を見通せるようになったわけだけど……」
『熱樹渇泥の呪界』に入った私はまず周囲を見渡す。
『熱樹渇泥の呪界』の基本的な呪詛濃度は20で、熱拍の幼樹呪の周囲など一部だけが21以上となっている。
つまり、異形度20になった私は、これまでとは比較にならない程広い範囲を見渡すことが出来る。
「これは想定外だったわねぇ……」
『まさかのでチュねぇ』
そうして見えたのは少々想定外の光景だった。
だがそれでも順に見ていこう。
まずは下、飢渇の泥呪の海が見えていて、この距離だと流石にただの黒い海にしか見えない。
次に水平方向、熱拍の樹呪、熱拍の幼樹呪によって視線が遮られている部分も多いが、かなり遠くまで見えていて、毒頭尾の蜻蛉呪と巨大なワームのカースも見えている。
続けて上、これまで見えなかった範囲が見えるようになったことで、熱拍の樹呪の枝葉が見えるようになっている。
なお、この距離ではっきり見えている事からして、枝葉の太さは10メートル以上は確実にあるだろう。
「卵の内側。かしらね」
『それが正しいと思うでチュ』
問題はここから。
枝葉の先、はるか上空には、遠目に見ても濃すぎる呪詛の霧と、その霧でも隠しきれていない輝きがある。
きっと『熱樹渇泥の呪界』の太陽だろう。
そして、その太陽の向こうには、かすんで微かにしか見えないが、間違いなく熱拍の樹呪の姿があった。
さらに言えば、斜め上の方に視線をやれば、私の目には水平方向に生えているようにしか見えない熱拍の樹呪の姿もあった。
『きっと呪限無の領域から地上に出た時に、何処かからか殻が解けて、広がる感じじゃないでチュかねぇ』
「なるほどね」
そう、『熱樹渇泥の呪界』は球体の内側に存在し、内から外に向けて重力が働いているような世界だったのである。
まあ、ザリチュの言う通り、呪限無から地上に湧き上がって、展開される時の事を考えたら、都合のいい形なのだろう。
「上に行きましょうか」
『分かったでチュ』
私は外套の位置を直し、口布を身に着けて気を引き締めると、手近な熱拍の樹呪の枝葉を目指して、上昇していく。
熱拍の樹呪の枝葉の近くには、動く点のような物がある。
ここが呪限無である以上、その点はカースであり、ほぼ間違いなく戦闘になるだろう。
『気温が上がっていくでチュね……』
「問題はありそう?」
『ないでチュ。ちゃんとたるうぃの装備品の効果が表れているでチュよ』
『熱樹渇泥の呪界』の特徴として、上に行けば行くほど気温が上昇していくと言うのがある。
が、今の装備品ならザリチュ含めて問題はないらしい。
まあ、飢渇の泥呪による乾燥にもある程度耐えられるのなら、上の灼熱にもある程度は耐えられて当然なのかもしれない。
『そう言えば『呪圏・
「その辺は大丈夫。検証は自然と出来ると思っているから。そもそも、私の思っている通りの効果なら、対モンスターよりも対プレイヤー向けの効果なのよね。と言うわけでまずは体の調子そのものを確かめるわ」
『でチュか』
熱拍の樹呪の枝葉近くにある点がはっきり見えてくるようになる。
点の正体、それは一言で言ってしまえば……
『たるうぃでチュね』
「目玉ね」
目玉だった。
私の身長と同じくらいの直径を持った大目玉。
ただ、人の目で言うところの視神経に相当する部分は、無数の蛇が絡み合う形で構築されているし、白目部分をよく見れば苦悶の表情を浮かべる人面のような物が見える。
なお、翼や浮き袋の類は見られないが、カースなんてそんなものである。
「って、私ってどういう事よ。ザリチュ」
『チュ、チュアアアアアァァァァァ……!? むしろ目玉と聞いてたるうぃ以外を思い浮かべろと言う方が、ざりちゅには無理でチュよ!?』
私はザリチュの事を抓りつつ、200メートル以上離れた場所にいる目玉のカースに『鑑定のルーペ』を向ける。
目玉のカースはこの距離で私が何か出来るとは思っていないのか、こちらの事を気にしている様子は見られない。
「鑑定っと」
私がカースとなったためか反撃は飛んでこなかった。
そして鑑定結果が表示される。
△△△△△
炎視の目玉呪 レベル21
HP:12,122/12,122
有効:出血、乾燥
耐性:灼熱、気絶、沈黙、干渉力低下
▽▽▽▽▽
「炎視の目玉呪……っ!?」
私が鑑定結果を認識している間に炎視の目玉呪は動いていた。
その巨大な目を私へと向けており、瞳孔には赤い光が灯っていた。
それを見た私は反射的に腕を上げて、顔を守りつつ、その場から動く事を試みた。
だがそれよりも遥かに速く。
『たるうぃ!?』
「ぐっ……!?」
炎視の目玉呪から放たれた赤い光線……熱線は私の脇腹を貫いていた。
「遠距離型!」
幸いにして装備品の効果もあって、私の体の焼け具合は軽微だった。
HPの減りは5%前後、灼熱も100程度。
十分耐えられる範囲だ。
『やっぱりたるうぃじゃないでチュ……チュアアアァァァ!?』
「ちょっと黙ってようかザリチュ。『
私は12の目による『毒の邪眼・2』を炎視の目玉呪へ撃ち込む。
与えた毒は375。
それから接近を試みるべく、上昇を始めた。
このまま遠距離戦を続けてもいいが、それよりも接近戦で更なる情報を引き出したかったのである。
「エジュ、グチュ、ギギュ……」
炎視の目玉呪ももう少し距離が詰まった方がやりやすいのだろう。
追撃をしてくる様子も、距離を取る様子もなく、私の姿を視界の中心に収めている。
「さあ、勝負と行きましょうか!」
「エンシジャアアアァァァ!!」
そうして残り100メートルほどになったところで、私は『
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