281:メタモルカース-1
本日一話目です
「昼食中に結構な人数が入ってきていたみたいね」
私は午後のログインをした。
すると、『ダマーヴァンド』に侵入してきたプレイヤーのログと現在位置が表示された……と言うより感覚的に分かる。
『ダンジョンの創造主』と『呪いを支配するもの』と言う称号を得られるほどに呪詛を支配しているからだろうか。
とりあえずネズミたちには襲われたり、『ダマーヴァンド』の植物を生活に困るレベルで持っていかれそうになったら、プレイヤーを襲ってもいいと通達。
ダンジョン設定の方でも、プレイヤーが一定量以上のアイテムを回収したらペナルティがかかるようにしておこう。
『ダマーヴァンド』は私の所有物なのだし、これぐらいはしてもいいだろう。
『此処で追い出さないのがたるうぃでチュよねぇ。まあ、期待しての事だとは分かるんでチュけど』
「そうね。期待はしているわ。『ダマーヴァンド』の素材を使って、私が思いつかなった何かを作ってくれるなんて、素晴らしいとしか言いようがないもの」
さて、他に確認するべき事柄は……特にはないか。
ストラスさんとドージが他のプレイヤーと一緒に『ダマーヴァンド』に入ってきているが、第三階層をうろついているだけで、第四階層にはまだ入ってもいないのだから、気にする必要はないだろう。
『で、今まで後回しにしていた事をやると言っていたでチュが、具体的には何をするでチュか?』
「私の異形度を上げるわ」
『は? 正気……じゃないのはいつもの事だったでチュね。うん、こう聞くべきでチュね。死ぬ気でチュか? いや、死ねるならマシな方でチュよ?』
「失礼ね。言っておくけど、流石に考えなしではないわよ」
ザリチュの懸念は正しい。
私の異形度は19。
これは初期呪いによって得られる異形度の上限であると同時に、人間の限界でもあり、これ以上に私と言う存在に呪いをかけたならば、私は人間ではなくカースになる。
一応、現状では確定事項ではなく、推測でしかないのだが、まず外れる事はないだろう。
『どういう考えでチュか? 流石に今回は事前にきちんと話をしてもらうでチュよ』
「邪眼妖精の毒杯から出て来る液体を劣化する前に呪怨台に乗せて、効果の確定と安定化を図るわ。その上で得るのは『ダマーヴァンド』にある回復効果を駄目にして、毒を帯びさせる呪い。アレを私の周囲にも展開できるようにするの」
『10秒、間に合うんでチュか?』
「さあ? でもそうね。最初に毒液を移す器を熱拍の幼樹呪の木材と赤樹脂で作ったりすれば、間に合わせる事は出来るんじゃないかしら」
ちなみに、『ダマーヴァンド』に蔓延している呪いはいつの間にか他のプレイヤーの所有物にも影響を示せるようになっており、現在進行形でストラスさんたちに襲い掛かっていて、結構な騒ぎになっているようだ。
まあ、アイテム破壊が嫌なら、出て行ってくれと言う話である。
「うーん、いい感じかしらね?」
『はぁ、もうこうなったら止まらないでチュね。たるうぃがたるうぃを失わないことを願うでチュよ』
とりあえず器は作れた。
効果としては『ダマーヴァンド』の毒液限定インベントリと言えばいいか、毒液しか入らない、見た目通りにしか入らない代わりに、器の中にある限り、採取した時と同じ状態を保ってくれるようだ。
「これでよし」
私は噴水から邪眼妖精の毒杯を一時的に外して、杯から出てきた直後の毒液をさっき作った器に移す。
そして、呪怨台の方へと持っていく。
「では始めましょう」
私は器を呪怨台に置いた。
すると直ぐに呪詛の霧が寄ってくる。
だが、今回は……いや、今回も呪怨台の機能だけに任せるわけにはいかないだろう。
だから私は周囲の呪詛を支配、制御する。
「私は
つまり、目的となる『ダマーヴァンド』の呪いを器の中に集める。
その上で風化によって余分な呪いの削除を行う。
反魂と再誕によって削除した呪いをニュートラルな状態へ、転写によってニュートラルな呪いを目的の呪いへと変換、魔物によって呪いの物質化を進める。
蠱毒によって摂取したものへ目的の呪いを付与できるよう性質を付与。
そして、これらの作業をプレイヤーをプレイヤーたらしめる不老不死の呪いにマイナスの影響を与えず、むしろプラスの影響となるように調整、すり合わせていく。
「つまりは
これを私は『
「私は私のままに、
呪詛の霧が器に飲み込まれていく。
見た目には一切の変化がないまま、器の中身は変質していく。
そして、呪怨台によって集められた霧は一欠片も余すことなく、器に飲み込まれた。
『完成でチュかね』
「ええ、完成よ」
私は器を手に取ると『鑑定のルーペ』を向ける。
成功したことは確信しているが、それとこれとは別だからだ。
表示されたのはこんな鑑定結果だった。
△△△△△
呪い『呪圏・
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:119
浸食率:100/100
異形度:19
邪眼妖精の毒杯から出現した直後の『ダマーヴァンド』の毒液を元に作られた液体状の物質。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
注意:飲むと100%の確率で呪い『呪圏・
▽▽▽▽▽
「あら、久しぶりね」
同時に誓約書も表示された。
飲むならば、何が起きても……それこそアバターがロストしても自己責任と言う奴だ。
予想はしていたので、私は躊躇いなくサイン。
そして飲んだ。
「……」
『大丈夫でチュかねぇ』
味はいつも通りの毒液だった。
けれど、喉を過ぎたあたりで気付いた。
これは液体と言う形状こそ取っているが、やはり呪いそのものであると。
その証拠に胃に到達するよりも早く心臓に到達し、全身へと呪いが巡り始めていた。
「っ!?」
私の体が変貌し始める。
不老不死の呪いによって保持されている肉体の情報が書き換えられていき、新たな肉体が再構築されていく。
その動きは全身に苦痛をもたらすものであると同時に、ただ待っているだけではいけないものであった。
「ぐううぅぅ……あああああぁぁぁぁぁぁ……ふぎgdwくいsざ……」
再構築される私の体に割り込もうと、有象無象の呪いがやってくる。
『七つの大呪』も僅かながらにやってくる。
最初から機を窺って待機していたように見える呪いもやってくる。
それらを退け、私を保つために、私は自分の周囲の呪詛に干渉、支配して、退ける。
「ふぐぅ!」
やがて体の再構築が終わった。
私は少しだけ力を抜く。
そして、見た目上は今までよりも濃い呪詛の霧を纏っているだけの自分の姿を確認。
だが、何も起きていないわけではない。
その証拠にだ。
≪呪い『呪圏・
≪称号『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』を獲得しました≫
≪称号『虹瞳の不老不死呪』の効果によって、他プレイヤーに対して表示される称号が強制変更されました≫
「ふふふふふ」
一気に通知が来た。
「あはははは」
私は自分に『鑑定のルーペ』を向ける。
「あははははっ! 成功したわああぁぁ!!」
そしてステータスを表示した。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル20
HP:1,072/1,190
満腹度:118/150
干渉力:119
異形度:20
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』
効果:他プレイヤーに対して表示される称号は、強制的にこの称号となる。
条件:プレイヤーである事を保ったまま、異形度20以上になる。
不老不死のカースの一体。それは敵対する者にとってはおおよそ絶望しかない存在である。一時的に退ける事は可能であっても、恒久的な勝利を得る事は世界に挑むに等しい程の難事となるだろう。
最大の特徴は虹色に輝く瞳と、そこから放たれる禍々しき輝きの邪眼。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『生ける呪い』
効果:鑑定が行われた際に通知が入る。自分よりも鑑定を行った相手の方がレベルが低い、かつ異形度が19以下の場合、レベルと異形度の差に応じたダメージを与える。
条件:異形度20以上。
生ける呪い、カース。
存在そのものが呪いである彼らの詳細を知る事を、人間の頭は拒絶する。
▽▽▽▽▽
「私は! カースになった! 私のままに! 未知なる領域に足を踏み入れた!! やってやったわよ! ザリチュ!!」
『そうでチュねぇ……』
完全成功である。
私は異形度20、カースの領域に踏み込むことに成功したのだ。
「ああでもそうね。少しだけ残念なこともあるわ」
『チュ?』
「私の体はまだ呪いを求めている。いえ、ここは本来の私に戻るために必要な呪いはまだ得られていない。そう評すべきかしら。とにかくカースになったからこそ見えた事として、私の異形度はまだ低い」
『……』
だがまだ足りない。
私を保つためには『呪圏・
私はそれを感じ取ってしまっていた。
「まあ、心配しないでいいわ。それをやるのは今の体にある程度以上に馴染んでから。でないと、私が保てないわ」
『そ、そうでチュかぁ』
「ふふふ、その時が楽しみだわぁ。そして可能ならば……」
私は準備運動をすると、装備品の準備を整えた上で部屋の外に出る。
目指すは『熱樹渇泥の呪界』の上層部、まだ探索できていない領域。
対モンスターだけでもいいから、早くこの新しい体を自分に馴染ませたいのだ。
「カースですらない未知なる存在へと至りたいわ」
私は呪限無の石門を起動させた。
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