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275:タルウィボンド-1

本日一話目になります。

「私は脚縛の光に変革を求めている」

 木曜日。

 私は素材……喉枯れの縛蔓呪の棘と幾つかのアイテムの加工を済ませると、呪怨台に加工物……鍼灸術用の針に似ていると共に、幾つかの植物の葉を混ぜて作った球体をくっつけたものを乗せて、呪い始めた。


「縛り、淀ませ、力を奪う呪いの対象を限らない事を求めている」

 狙うのは干渉力低下の邪眼。

 私が既に所有している『脚縛の邪眼・1(タルウィフェタ)』を改良する形で、得ようと考えている。

 つまり、脚を狙って邪眼を撃ち込めば脚部干渉力低下を、腕を狙って邪眼を撃ち込めば腕部干渉力低下を、相手の全体を狙って邪眼を撃ち込めばただの干渉力低下を与えるような、ある意味でとても分かり易い邪眼にしようと考えている。


「呪う時の対価を増やすことなく、力を強める事を求めている」

 霧が幾何学的な模様を描いていく。

 色は黒。

 かつての『脚縛の邪眼・1』の時が夜の闇に脚が飲み込まれるような黒ならば、これは一切の光が射さない領域で全身を飲み込むような黒だ。


「望む力を得るために私は己の体に術を施す。我が身を以って与える呪いを知り、飲み干し、己の力とする」

 いい感じだ。

 元から成功を疑ってはいなかったが、これなら後は私が間違えなければ上手くいくだろう。


「どうか私に機会を。覚悟を示し、真なる淀みの視線を放つ眼を手にする機会を。我が敵の全てを縛りあげる呪いを」

 霧が飲み込まれて行き、13本の黒い針が霧の中から現れる。

 垂れ肉華シダ、喉枯れの縛蔓呪、小人の樹、干渉力低下を起こすマンドラゴラモドキの葉を混ぜて作った球体がくっついている事もあって、一見すると待ち針のようにも見える。


『上手くいったみたいでチュね』

「そうね。まあ、鑑定するけど」

 私は針を手にとって、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

呪術『淀縛の邪眼・1』の針

レベル:20

耐久度:100/100

干渉力:112

浸食率:100/100

異形度:18


喉枯れの縛蔓呪の呪いが濃縮された灸頭鍼。

覚悟が出来たならば、適切な場所に刺して、火を点けるといい。

生きている事が出来たならば、君が望む呪いが身に付く事だろう。

注意:成否に関わらず『脚縛の邪眼・1』は失われます。

▽▽▽▽▽



「ふうん……」

 成否に関わらず『脚縛の邪眼・1』は失われる。

 これは『淀縛の邪眼・1』の習得コストに、『脚縛の邪眼・1』も含まれているからだろう。

 が、恐れる必要はない。

 と言うか、恐れていたら、前段階で失敗する。


『痛くないんでチュか?』

「多少の刺激はあるわね。けれど、ゲーム補正もあるんでしょうね。問題はないわ」

 私は指定された場所に針を刺していく。

 指定された場所は13か所、いずれも目の近くにあるポイントであり、範囲は狭いが……正確に撃ち込むだけなら、幾つもの目で四方八方から位置を確かめれば間違えるなどありえない。

 この時点では干渉力低下の効果が出ていない事もあって、難なく針は刺し終わった。


「『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

 そうして刺し終わったところで『灼熱の邪眼・1』によって着火。

 試練が始まり……私の全身から力が抜けていく。


『干渉力低下(99)。これは当分の間、体を動かせないでチュね』

 いや、力が抜けていくだけではなかった。


「っ!?」

『チュ? どうしたでチュか? たるうぃ』

 私の中で何かが大きく動いた感じがあった。

 曲がっていた何かを無理やり正したような……そんな経験した覚えのない痛みがやってくる。

 それも一度や二度ではなく、何度もだ。


「ぇごっ!? ぎっ!? っ!? ーーーーーー!!」

『あー……たるうぃは多くの呪術を覚えている身でチュからねぇ……それの調整が行われるなら、そりゃあただで済むはずがないでチュよねぇ』

 当然ながらその度にHPが削れていく。

 満腹度も消費していく。

 装備品のおかげで私自身の耐久力が向上すると共に、装備品の耐久度回復効果がHPの回復として表れているので早々にHPが尽きる事はなさそうだが、神経を引きちぎりながら骨を動かすような痛みは凄まじい。


「……」

『あー、でも、そうでチュよねぇ……たるうぃでチュからねぇ……痛みじゃ駄目でチュよねぇ』

 そして、凄まじい痛みであると共に未知なる痛みでもあった。

 ああなんて素晴らしい痛みだろうか。

 体の中で無意味に絡み合った流れが正され、正しい流れになっていく感覚がある。

 痛いのに気持ちいいは度々感じた覚えがあるが、耐えがたい苦痛であるはずなのに体が良くなる、不快と快感が同時に味わえる事など早々あるものではない。


「っびゅ!? ああ……フフフフフ……」

 勿論、正しい流れになったからと言って、私が持っている他の邪眼が強化あるいは弱体化することはない。

 『脚縛の邪眼・1』が『淀縛の邪眼・1』へと変貌するだけだ。

 そして、変化は無事に終わった。


≪呪術『淀縛の邪眼・1』を習得しました≫

「うーん、いい気分ね。じゃ、確認ね」

『でチュね』

 では、確認するべき事を確認するとしよう。



△△△△△

『蛮勇の呪い人』・タル レベル20

HP:722/1,190

満腹度:68/150

干渉力:119

異形度:19

 不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊

称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』


呪術・邪眼術:

毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』、『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』、『気絶の邪眼・1(タルウィスタン)』、『沈黙の邪眼・2(タルウィセーレ)』、『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』、『小人の邪眼・1(タルウィミーニ)』、『淀縛の邪眼・1(タルウィボンド)』、『恐怖の邪眼・3(タルウィテラー)』、『飢渇の邪眼・1(タルウィハング)』、『禁忌・虹色の狂眼(ゲイザリマン)

呪法:

呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』、『呪法(アドン)感染蔓(スプレッド)』、『呪法(アドン)貫通槍(ピアース)


所持アイテム:

呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、ポーションケトル、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.


所有ダンジョン

『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門設置


呪怨台

呪怨台弐式・呪術の枝

▽▽▽▽▽


△△△△△

『淀縛の邪眼・1』

レベル:20

干渉力:110

CT:10s-20s

トリガー:[詠唱キー][動作キー]

効果:対象周囲の呪詛濃度×1-5の干渉力低下を与える。効果範囲を絞れば絞るほどに効果は上昇する。


貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。

全ての守りは破れずとも、相手の守りの内へ直接枷を填め、流れを淀ませるのだから。

注意:使用する度に自身周囲の呪詛濃度×1のダメージを受ける。

▽▽▽▽▽



「いい感じね。目的とするものがちゃんと手に入ったわ」

『細かい検証はまた明日でチュか?』

「そうなるわね。とは言え、場所や時間は考えないとね。新たな呪術、新たな呪法、新たな詠唱、どれも影響範囲が読めないから、やる場所はきちんと考える必要がある。場合によっては邪眼術をネズミたちに教えるのと同じで、『ダマーヴァンド』の移動が出来てからにするべきかもしれないわね」

『でチュかぁ』

 これでただ撃てば全身に、『呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』などを使えば必然的に体の一部にだけ干渉力低下を撃ち込める。

 それにしてもやるべき事が溜まっている。

 口には出していなかったが、手を出せていないカース素材もあるし、異形度を任意の形で上げるアイテムだって作れていない、ポーションケトルなどの改良もそろそろ考えるべきだろう。

 うん、早いところ、気兼ねなく試したいことを試せる環境を作った方がいいのかもしれない。

 そういう事を考えつつ、私はログアウトした。

01/17誤字訂正

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