274:タルウィセーレ・2-2
本日二話目です
「さて、早速でチュが説明をしてやるでチュ」
「……」
何故ベノムラードの姿なのか。
それは私の中で強敵として記憶されているし、人の言葉を解する存在であり、試練の説明役として適切だからだろう。
中身は前回の偽トカゲと同じだろうが……まあ、あのトカゲの皮を借りるよりは適切だろう。
もう少し威厳を出せとは思うが。
「ルールは簡単。この扉についている、事前に規定した数種類の音の内、どれか一つでも聞かせれば、その音に反応して外れる錠を外す事で、扉を開ける事でチュ」
沈黙状態なのに音に反応して外れる錠なのか。
となると……モールス信号の類か。
そう考えると、私が今居る部屋の四方の壁に刻まれた文字と装飾の意味が変わってくる。
現実のモールス信号の表とはだいぶ違うのだろうが、四方の壁にあるのは対応表と考えていいだろう。
「制限時間は20分。その間なら何度でも挑むことが出来るでチュ。が、この錠が反応する音の中には、入力された時点で試練の失敗が確定する音も存在しているでチュ。注意するでチュよぉ」
制限時間は20分。
追加がなければ、沈黙のスタック値は99なので、990秒……16分半で解除される。
つまり、モールス信号が分からなければ、そのタイミングで口頭による解除が狙える、と。
「興覚めに感じるかもしれないでチュが、最後に一つだけ言っておくでチュ。試練を作るものの心得として、ゲームの外の知識は最低限しか求める気はないでチュ。答えを導き出すのに必要な情報は、ほぼ全てがこの場に揃っているでチュ」
「……」
あ、はい。
独自の表によるモールス信号で確定しますね。
「では、試練開始でチュ」
そうしてベノムラードはその場から消え、代わりに視界の左上隅に沈黙のスタック値表示に並ぶ形でタイマーが表示された。
試練開始のようだ。
「……」
私がまずしたのは南京錠の確認。
南京錠には鍵穴の代わりにボタンが付いていて、試しにボタンを押したところ、ブザー音が響いた。
やはりモールス信号をメインに考えてよさそうだ。
「……」
ならば後は『
だがそれは……少し面白くない気がする。
どうせならばちょっと変わった入力として、開けの反対である『けらひ』とか、ローマ字に変換した上で逆から読んだ『ekarih』とか……ん?
「……。……!?」
待った、『ekarih』、私はその響きを持つ言葉を聞いた覚えがある。
『ekarih』は『エカリフ』であり、呪限無に繋がる門を閉じるときの言葉ではなかろうか?
偶然の一致? いや、これは必然の一致だ。
きっと言葉を逆さまにすることで、意味も逆さまになっているのだ。
となれば……『ekarih』はベノムラードの言っていた試練失敗確定の音の一つではなかろうか?
「……」
この逆さ言葉の技術についてはとても気になる。
もしかしたら『禁忌・
となれば、これを活用することが出来れば、新たな呪法として邪眼を強化することに繋がるかもしれない。
が、その辺の検証は試練を終わらせてからにするとしよう。
今やるべきは、試練をクリアする事である。
「……」
私は周囲の表を確認しつつ、ブザー音によるモールス信号で『orijot』と入力する。
呪限無への門を開くためにいつも使っている言葉であり、『閉じろ』の反対だ。
「……」
≪呪術『沈黙の邪眼・2』を習得しました≫
そうして呆気なく南京錠は外れ、私は試練を終わらせた。
『早かったでチュね』
「内容そのものは至極簡単だったのよ。他に気になる事があったけど、それを確かめるのはこっちに戻ってきてからにするべきだったし」
『そうでチュかぁ』
私は自分のステータスを確認する。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル20
HP:1,190/1,190
満腹度:147/150
干渉力:119
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、ポーションケトル、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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『沈黙の邪眼・2』
レベル:20
干渉力:110
CT:8s-5s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象周囲の呪詛濃度×1.2(小数点以下切り捨て)+1の沈黙を与える
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内に直接静寂を生じさせるのだから。
注意:使用する度に自身周囲の呪詛濃度×1のダメージを受ける(MAX10ダメージ)。
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『強化はされているでチュね』
「確かに強化はされているわね」
習得は無事に済んでいる。
ただ、『毒の邪眼・2』に比べると1から2に上がった時の効果量の強化幅が控え目だ。
呪詛濃度に依存する部分の倍率も控えめで、私の周囲の呪詛濃度による補正もないのだから。
「うーん、ああでも、総合的に見れば十分な強化はされているわね」
『かもしれないでチュねぇ』
だが準備時間の短縮は大きい。
たった2秒だが、この2秒は大きい2秒だ。
生死を分けかねない程に。
この部分の有用性を考えたら、強化幅が控え目なのはむしろ納得がいくかもしれない。
それに……とても大きなヒントも貰えているのだ。
それを考えたら、成果は十分すぎるほどだ。
「じゃあ、少し検証をしたらログアウトね」
『分かったでチュ』
その後、私は前回イベントで『禁忌・虹色の狂眼』を使った時の動画を掲示板で探し出し、それを逆再生。
自分の予測が正しかったことを確認した。