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273:タルウィセーレ・2-1

本日一話目です

「いい感じね」

 水曜日のログインである。

 昨日、散々荒らす事になってしまった第三階層の植物は流石にまだ元の状態には戻っていない。

 まあ、この分ならば、明後日くらいには元に戻っているだろう。

 続けて、私は喉枯れの縛蔓呪の葉の状態を確認した。

 葉はいい感じに乾燥すると共に、発酵によって色が赤褐色に近づき、匂いもお茶のそれになっている。


「じゃあ鑑定」

 折角なので、この状態で一度鑑定してみよう。



△△△△△

喉枯れの縛蔓呪の茶葉

レベル:20

耐久度:76/100

干渉力:110

浸食率:100/100

異形度:15


喉枯れの縛蔓呪の葉が発酵して変化したもの。

お茶のような香りを漂わせている。

触れたものに沈黙の状態異常を付与する力を持つ。

発酵によって香りが際立つと共に、効果が濃縮されている。

▽▽▽▽▽



「うん、いい感じね」

『茶葉表示に変わっているでチュねぇ』

 私は沸騰させた毒液に茶葉を入れて、暫く煮る。

 そして試しに緑茶と紅茶の間のような色になった液体を飲んでみた。


「……」

 うん、香りから問題ないと分かっていたが、普通に紅茶だ。

 飲んだことで表示された状態異常は沈黙(3)。

 美味しさと言う意味でも静かになるが、状態異常の効果で嫌でも静かになる。

 そういうお茶になっているようだ。


「じゃあ、『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』の強化のための加工をしましょうか」

『どうするでチュ?』

「そんな複雑な事はしないわよ」

 私は先程と同じように、沸騰させた毒液に喉枯れの縛蔓呪の茶葉を入れて、暫く煮る。

 同時に『毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』と『沈黙の邪眼・1(タルウィセーレ)』を『呪法(アドン)貫通槍(ピアース)』による変換を行いつつ、毒液に撃ち込む。


『茶葉が溶けてなくなっているでチュね……おまけに沸騰しているのに、湯気がほとんど上がってこないでチュ』

「毒と沈黙の状態異常によるものでしょうね」

 沈黙の影響もあってか、匂いは殆どしない。

 毒の効果によって茶葉は完全に消えている。

 つまり、それだけ濃い呪いが、この毒液の中で煮詰まっていると言う事だ。


「じゃあ、始めましょう」

 私は呪怨台に容器ごと紅茶を乗せる。

 すると直ぐに呪詛の霧が集まってくるので、転写と蠱毒の呪詛を中心として働くように干渉する。


「私は第一の位階より、第二の位階に踏み入る事を求めている」

 『沈黙の邪眼・1』を使って、紅茶が持つ沈黙の力を高めていく。


「私は、私がこれまでに積み重ねてきた結果生まれてきたもの、沈黙を扱う生ける呪いの力、それらを知る事で歩を進めたいと願っている」

 これまでの作業のおかげで、この紅茶が持つ沈黙の力は私に適したものであると同時に、私が所有するものよりも強力なものになっている事だろう。


「私の沈黙をもたらす橙の眼に変質の時よ来たれ」

 霧が幾何学模様を描く。

 やはりと言うべきか、1のものよりも2のものの方が複雑かつ緻密だ。


「望む力を得るために私は静けさを飲む。我が身を以って与える沈黙を知り、喰らい、己の力とする」

 この幾何学模様は習得する邪眼ごとに異なる模様が現れている。

 となれば、この模様には意味があるのだろう。

 しかし、形だけを真似しても意味はない、それだけは不思議と確信できた。

 きっと、呪法関係の何かになるのだろう。


「どうか私に機会を。音放つものも、音放たぬものも飲み込んで、万象悉く沈黙で満たす。更なる輝きを得た沈黙の邪眼を手にする機会を」

 私は照射し続けた『沈黙の邪眼・1』に『呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』を加えて撃ち込む。

 それに合わせて呪詛の霧も紅茶に飲み込まれていく。

 そうして呪詛の霧が晴れた後には、湯気を立てている一杯の紅茶だけが残されていた。

 どうやら容器ごと変形したようだ。


「鑑定っと」

『さて、どうなっているでチュかね?』

 では、早速鑑定といこう。



△△△△△

呪術『沈黙の邪眼・2』の紅茶

レベル:20

耐久度:100/100

干渉力:110

浸食率:100/100

異形度:17


呪われた毒の紅茶が注がれた杯。

覚悟が出来たならば飲み干すといい。

そうすれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。

だが、試されるのは覚悟だけではなく、君自身の器もである。

さあ、熱いうちに挑むといい。

▽▽▽▽▽



「うん、いい感じね」

『前回……『毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』の時は飲んだ途端に意識を失って、目覚めたら邪眼術の強化が済んでいたでチュね。となると、今回もそうなりそうでチュか?』

「たぶん、そうなるわね。まあ、精神世界で試験を受けて来るだけだから、ある意味では初回習得の時よりも楽ね」

 私は意識を失うことを見越して、マイルームの壁際に移動。

 そこで呪術『沈黙の邪眼・2』の紅茶を飲み始める。

 ああうん、普通に美味しい。

 意識を失うので、茶請けの類を用意できないのが残念なぐらいだ。


「じゃあ、行ってくるわ……」

『頑張るでチュよ……』

 私は意識を失った。

 精神が沈んでいき、『ダマーヴァンド』ではない場所へと移動していく。


「……」

 そうして私の前に広がったのは、様々な文字と装飾が出鱈目に見えるように刻まれた壁で四方を囲まれた部屋。

 表示されている状態異常は沈黙(99)で、喋ることは出来ない。

 部屋の中心には扉が立っていて、持ち手部分には見るからに強固そうな南京錠がかけられている。

 だが普通の南京錠ではないようで、鍵穴の代わりにボタンのようなものが付いている。


「よく来たでチュ。羽虫」

 で、扉の横には体長4メートル近い上に、6本の脚と4つの目を持つ巨大鼠……ベノムラードにそっくりなネズミが立っていた。

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