271:セパレートサースト-1
本日よりしばらくの間二話更新をしたいと思います。
12時と18時に更新予定です。
こちらは一話目になります。
「さて、怪しい動きをしている素材はないわね」
『そうでチュね。大丈夫そうでチュ』
『ダマーヴァンド』に戻ってきた私は、熱拍の幼樹呪の外套と熱拍の幼樹呪の口布を外すと、今回の『熱樹渇泥の呪界』の探索で手に入れたアイテムを出していく。
「飢渇の泥呪の砂はザリチュの強化に使えるんだっけ?」
『使えるでチュ。けれど、他にも必要な素材があるでチュし、量も必要でチュ。そういう訳で、今回の砂はたるうぃの好きに使うといいでチュよ』
「分かったわ。それなら乾燥付与の邪眼を狙えないか、加工を考えてみるわ」
まず飢渇の泥呪の砂。
袋いっぱいに詰まった砂は結構な重量を持っている。
色は黒っぽいまま。
乾燥の状態異常がどんな効果を有しているかは分からないが、弱い状態異常であることだけはあり得ないだろう。
「じゃあ、喉枯れの縛蔓呪を解体していきましょうか」
『でチュねー』
では、喉枯れの縛蔓呪の死体を回収していくとしよう。
まず喉枯れの縛蔓呪の体は、棘の生えた蔓、シダの葉のような植物、本体である球根に分けられる。
蔓の長さは30メートルほどで、よく曲がるし、引っ張る力には強いようだ。
棘は長さはまちまちで、長いものは5センチ程あるが、短いものは1センチ程、いずれも鋭く、硬い。
葉はシダのそれに似ているが、鼻を近づけてみると茶のような匂いがする。
球根は私の頭よりも一回り程大きいもので、皮は厚くて岩のような物だ。
と言うわけで、これらを地道に解体していき、鑑定していった。
△△△△△
喉枯れの縛蔓呪の蔓
レベル:21
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:15
喉枯れの縛蔓呪の蔓。
乾燥に極めて強く、物理的な刺激にも強い。
上手く加工すれば、耐性そのままに繊維を取り出す事も可能。
▽▽▽▽▽
△△△△△
喉枯れの縛蔓呪の棘
レベル:21
耐久度:100/100
干渉力:112
浸食率:100/100
異形度:16
喉枯れの縛蔓呪の棘。
乾燥に極めて強く、物理的な刺激にも強い。
刺さった物体の干渉力を低下させる作用を持つ。
▽▽▽▽▽
△△△△△
喉枯れの縛蔓呪の葉
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:15
喉枯れの縛蔓呪の葉。
お茶のような香りを漂わせている。
乾燥に極めて強い。
僅かな光であっても光合成を行うことが出来る。
触れたものに沈黙の状態異常を付与する力を持つ。
▽▽▽▽▽
△△△△△
喉枯れの縛蔓呪の球根
レベル:22
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:15
喉枯れの縛蔓呪の本体である球根。
皮は厚く、岩のように堅いが、蔓か根が生えている場所から剥ぐ事を試みれば、比較的容易に剥げる。
乾燥に極めて強く、物理的な刺激にも極めて強い、その上で金属と比べれば軽量である。
▽▽▽▽▽
「解体完了ね。案外大物だったわ」
『お疲れ様でチュ。30メートルの蔓は流石に長かったでチュねぇ』
私は体を軽く伸ばす。
喉枯れの縛蔓呪の素材の特徴は、やはり乾燥耐性か。
飢渇の泥呪の中で生きているのだから当たり前と言えるが、どの素材も極めて強い乾燥耐性を持っている。
恐らくだが、よほどの高スタック値の乾燥でなければ、無効化出来るレベルではなかろうか。
「んー……とりあえず葉の加工をしましょうか」
『その心は?』
「『
『なるほどでチュ』
では、加工していこう。
まずは適当な量の葉を刻んで、揉み、それを平たい皿に乗せて、放置する。
これで明日のログインの時に様子を見てみるとしよう。
『時間がかかりそうでチュね』
「まあ、発酵作業だからね。時間はかかるわ。たぶん、乾燥耐性も邪魔するでしょうし。でも、これが上手くいけば紅茶モドキが出来るんじゃないかしら」
『それは楽しみでチュ』
まあ、上手くいかなければ緑茶で『沈黙の邪眼・1』の強化を試みるとしよう。
これは私の好みの問題なので、それでも問題はないはずだ。
「じゃあ次ね。こっちの棘を針として加工していきましょう」
『チュ? 『
「そっちもやるけど、まずは裁縫用アイテム一式の強化よ」
続けて私は喉枯れの縛蔓呪の棘の中から、短めの物を選んで細工していく。
丁寧にやすりをかけて形を整え、根元部分に糸を通すための穴を開けて縫い針にしたり、根元部分に毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻を削って作った珠を付けて待ち針にしたりしていく。
そうして出来上がった針を呪怨台でアイテム化して、裁縫用アイテム一式に収めていく。
『裁縫用アイテム一式の針を変える意味ってあるんでチュかね?』
「あると思うわよ。今は大丈夫だけど、この先のカース素材には初期の針じゃ通らない物もあるだろうから。そう考えると干渉力低下の作用もありがたいわね」
これは推測に過ぎないが、干渉力低下作用のある針ならば、多少の格上素材や金属素材、喉枯れの縛蔓呪の球根の皮などが相手でも、問題なく針を通せるのではないかと思う。
ああそれと、針そのものが丈夫であれば、特殊な糸を通す事も可能ではないだろうか。
うん、やはり意味はありそうだ。
「後は蔓を毒液に漬けておきましょうか。繊維が取れれば……」
『たぶん、ざりちゅの強化に使えるでチュね』
「なるほど。強度が落ちないなら、使いましょうか」
蔓については……垂れ肉華シダの蔓がある現状では、乾燥耐性を生かすか、呪詛濃度が低い場所で使う想定でなければ、使い道はないと思っていた。
が、ザリチュに使えるなら回収しておくとしよう。
『一応言っておくでチュけど、垂れ肉華シダの蔓がおかしいだけで、普通に優秀な素材でチュからね? これ。普通に使い道は沢山あるはずでチュからね?』
「……」
あ、うん、はい。
素で比べてたが、確かに垂れ肉華シダの蔓の方がおかしいと言えばおかしかった。
今更だけど、なんで最初期に取れる素材が未だに最前線で現役どころか最先端なのだろうか。
謎である。
優秀なのは良い事だが。
「球根は……使い道は特になさそうね」
『でチュねぇ』
最後に球根だが、皮は特に問題なく剥げた。
が、私がこの手の堅い素材を使うなら、重さから考えて毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻の方がいいだろう。
皮の中身は……毒頭尾の蜻蛉呪の肉と同じ、呪いの塊のようだ。
皮を剥いだ事で復活に向けて活性化しているようだし、焼いておこう。
「さて、ログアウトね」
『紅茶。上手くいっているといいでチュね』
「そうね。上手くいってほしいわ」
こうして球根を焼いた私は、今日の活動を終えたと言う事で、ログアウトした。
10/05誤字訂正