27:タルウィベーノ+-1
「第二階層と違って遮蔽物があるのが、良くもあれば、悪くもあるわね」
さて、第四階層だが、見通しの良かった第二階層に鉄筋コンクリート製の瓦礫の山や壁が加わったと言うのが第一印象だ。
つまり、身を隠しつつ移動する事が出来るが、敵も身を隠すことが出来る。
なお、第四階層全体のサイズは第二階層と同じ程度であり、壊れた外壁からはビル下の地面までが遮るものなく真っ直ぐに伸びている。
やはり第三階層だけ空間がおかしくなっているらしい。
「穴が開いているわね……」
後、見るべきところとしては……床と天井には時々だが穴が開いていて、上の階層からはネズミの鳴き声と鳥の鳴き声のようなものが聞こえていて、かなり騒がしい。
ネズミと鳥で交戦中なのだろうか。
上へ向かう階段は直ぐには見つからなかったし、乱戦の中に飛び込むのもリスクが高いので、確認に行ったりはしないが。
それと第四階層の天井には数は少ないし、蔓も短いが、垂れ肉華シダの姿が見える。
まあ、蕾状態の物が無ければ無視でいいか。
「敵発見。さて……」
私は上の戦闘を気にしている様子のネズミに向けて『鑑定のルーペ』を使用する。
△△△△△
毒吐きネズミ レベル6
HP:1,501/1,501
▽▽▽▽▽
「よし、毒吐きね」
周りに他のネズミの姿は見えない。
なので私は毒吐きネズミの背後からゆっくりと近づいていき……尻を蹴り上げてやる。
「ヂュウッ!?」
「いった!?」
蹴られた毒吐きネズミが叫び声を上げる。
他のネズミが動き出す様子は感じれない。
想像以上に堅かったのと、足の甲に目があったこともあって、私は地味にダメージを受けた。
とりあえず、今後は一切の殴る蹴るを控える事を誓おう。
「ヂュウウゥゥ……」
「ふふふ……」
まあ、それはそれとしてだ。
私は毒吐きネズミが睨み付けてくる中、少しずつ後退を始め、毒噛みネズミの毒受け袋に手をやっておく。
「ヂュアッ!」
「ほいっと」
毒吐きネズミが毒液を吐き出し、下の前歯の力で射出してくる。
それを私は毒受け袋で正面から受け止め、受け止めた毒液は袋の中へと消え去っていく。
なお、受け止めた反動で私の体は少しだけ後退している。
それと、流石に一発分の毒液では、量が心もとないと思う。
「ヂュアッ! ヂュアッ! ヂュアッ!!」
「どうもどうもー」
なので私は更に連続で毒液を受け止めていく。
他のネズミたちの姿はまだ見えない。
「……」
「あら? 弾切れかしら?」
毒吐きネズミが恨めしそうに私の方を見ている。
口では弾切れと言ったが、実際には私への攻撃の効果の薄さを見て、悩んでいる、あるいは、悔しがっている、と言うところが正解だろう。
弾切れが遠くても、無駄弾を撃っていい理由にはならないし。
「じゃあ、お返し『
「ヂュアッ!?」
いずれにせよ、アチラに攻撃をする気が無いなら、一方的に始末するだけだ。
と言う訳で、100を超える毒を受けてもらい、そのまま死んでもらう。
これで、始末完了であると同時に、この毒吐きネズミの死体が他のネズミを集めてくれる事だろう。
「「「ヂュウ! ヂュウッ! ヂュウッ!!」」」
「流石に早いわね。そして数も多い」
『チュウチュウチュウ!』
毒吐きネズミが倒れると同時に第四階層に居た10匹以上のネズミたちが一目散に集まってくる。
中には私の方を先に視認した為に私に攻撃を仕掛けてくるネズミも居たが、二度三度と攻撃を躱すか、毒受け袋で攻撃を受け止めてやると、死体の方に寄って行く。
毒鼠の三角帽子も死体に反応しているようだし、本当に貪欲である。
「「「ヂュウウウゥゥッッ……」」」
「さて……」
と、仲間の死体を食べ終わったらしい。
全てのネズミの目が私に向けられる。
私は自分の背後に問題がない事を改めて確認。
毒受け袋を構える。
「「「ヂュアッ!!」」」
3匹の推定毒噛みネズミが私に向かって突っ込んで来る。
そして、残りの毒吐きネズミたちが毒液を放ってくる。
なので私は毒受け袋で飛んできた毒液を受け止めて回収すると……
「「「ヂュッ!?」」」
「はい、ご愁傷様ー」
受け止めた反動によって、外壁が壊れた部分からビルの外側に移動。
それから直ぐに翅を動かし、ビルの外壁によって毒吐きネズミたちからの射線が通っていない場所に移る。
勢いが付いていた3匹の毒噛みネズミたちは哀れにもビルの外側に飛び出してしまい、高さ50メートル超からのロープレスバンジーの開始である。
「さて、目標は達成したし、一度逃げますか」
毒噛みネズミたちが地面のシミになったのを確認した私はゆっくりと下降を始める。
『ネズミの塔』の範囲は、ビルの外壁から1メートルと少しあるので、このまま降りていけば第二階層の外壁が壊れた部分から中に戻れるはずである。
「……。上はやっぱり鳥が居るわね。しかもデカいのが来てたみたい」
私はふとビルの上の方を見る。
すると、ちょうど翼を広げた時の体の幅がビルと同じくらいにありそうな巨大な黒い鳥が飛び去って行くところだった。
鳥が向かう先に見えたのは、噴煙のような物を上げている山。
装備を整えれば、何時かは行けるのだろうか。
「到着っと」
そうしてゆっくり下降する事十数秒。
3メートルほど地面に近づいた私は第二階層に戻る。
第二階層の敵は……変わらずか、私に気付いた様子も見られない。
「んー……後で1階層分上昇出来るのかのチャレンジと、垂れ肉華シダの蔓を利用する事でショートカットが作成できないか試してみてもいいかも」
私は第二階層から第一階層へと移動、セーフティーエリアへと戻る。
第三階層は抜けるには不便な場所なので、ショートカットが出来るかは試してみてもいいだろう。
「ま、とりあえず午前中は此処まで。午後は毒吐きネズミの毒液を呪う事から始めましょうか」
『チューチュー!』
なんにせよ、時間がちょうどいい頃合いと言う事で、私は一度ログアウトした。
03/08誤字訂正