268:イントゥサースト-2
『さて、どうやって処理するでチュ?』
「そうねぇ……」
私は袋の中に集まった飢渇の泥呪を見つつ、少し考える。
飢渇の泥呪は私の持つ全ての状態異常に耐性を有している。
が、HPは1なので、微かにでもダメージが通れば倒せるし、場合によっては棒か何かで押し潰すのもありか。
だが、死体を残す事を考えると、邪眼術による撃破を狙いたいところだ。
「手札から考えると……」
毒……ダメージは入るが、水気が生じるので、嫌な予感がする。
灼熱……渇きに関わるカースに対して、火炎属性と言う熱のダメージが通るかが問題。
気絶……確実に1ダメージが入るだろうが、使用後のCTが長い。
出血……HP1だと起爆のダメージは与えられないので却下。
と言うところか。
うーん、いや、どれを使うにしても、相手の数が多すぎるのがまず問題か。
袋の中を見た感じ100は確実に居る。
これをどうにかする方法が必要だ。
「作りましょうか」
『チュ?』
「呪法を作るのよ。効果範囲拡大の呪法を」
『即興で作ろうと思って作れるなら、検証班たちは苦労していないと思うんでチュけどねぇ……』
私は周囲を見る。
今回だけでなく今後も使っていくのであれば、『
ならば、私の周囲にあるもの、良く触れている物から考えていった方が作りやすい。
「……」
今回の呪法で一番気を付けるべきは……範囲の指定か。
無制限に広がっていくのは、どう考えてもよろしくないだろう。
ある程度は呪法自身に任せるにしても、狙いたい相手だけを狙えるようなイメージは持っておいた方が適切だ。
「波、成長、芽生え、種、蔓……そうね。そういう方向で練り上げましょうか」
私は周囲の呪詛を手元に集めていき、涙滴型の呪詛の塊を作り出す。
サイズは親指の爪ほどで、少しだけ潰して平たくし、種らしさを増す。
そこに込めていくのは、この種を植え付けられた存在を起点として、邪眼術によって芽生え、蔓を伸ばし、起点と似通った特徴を持つものに絡みつき、そこで起点に与えられた呪いと同じ呪いを絡みついた相手に与え、それから更に蔓を伸ばしていくと言うイメージ。
それは、あるいは人から人へと移る感染症のようなイメージでもあるかもしれない。
「うん、いい感じね」
多少の時間差、威力の低下は許容しよう。
とにかく重要なのは、私が狙いたい複数の相手に対して、邪眼術がまとめて効果を発揮する事である。
『やるでチュか?』
「ええ、全力を尽くすわ」
私は袋の中から飢渇の泥呪を一つ取り出すと、呪詛の種と飢渇の泥呪を重ねる。
そして重ね合わせたまま飢渇の泥呪を上に向けて軽く投げ、空中に居る飢渇の泥呪に全ての目を向ける。
その状態で『
「芽生えなさい」
まず、『気絶の邪眼・1』の直撃を受けた飢渇の泥呪が13のダメージを受けて死ぬ。
そこから、最初に飢渇の泥呪に仕込まれた呪詛の種がレモン色の光と共に芽生え、実体を持たない13本のレモン色の蔓が袋の中に向かっていく。
で……1秒間隔で袋の中がレモン色に輝いて、10秒ほど経ったところで袋の中から外に向けてレモン色の蔓が何本か出て来る。
が、それらの蔓は巻き付く先がなかったのか、直ぐに消え去り、何故かそれに合わせて私のHPが削れた。
≪呪術『呪法・○○』を習得しました。名称を付けて有効化してください≫
「……。ふう、成功みたいね」
『でチュね』
とりあえず上手くはいったようだ。
呪法の習得メッセージも出たし、袋の中の飢渇の泥呪も……うん、砂になってるな。
どうやら、飢渇の泥呪は死ぬと砂になるらしい。
では、順番に鑑定していこう。
△△△△△
飢渇の泥呪の砂
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:19
飢渇の泥呪だった黒い砂。
触れたものの水分と養分を奪い取り、際限なく肥えていく。
だが、命を失った今は、触れたものを乾燥させることしか出来ない。
注意:触れると乾燥(1)の状態異常が付与されます。
▽▽▽▽▽
『あ、たるうぃ、これは十分な量を回収して欲しいでチュ。たぶんザリチュの強化に使えるでチュ』
「分かったわ。とは言え、本格的な回収は渇泥の中の探索が終わってからね」
『それは分かっているでチュよ』
どうやら飢渇の泥呪の砂はザリチュの強化に使えるらしい。
神話のザリチュが渇きを司る事を考えれば、違和感の類はないか。
では、呪法だ。
「名称は……『
私は名前を付けた上で詳細を確認した。
△△△△△
効果:呪詛を固めた種、条件を満たして発動した邪眼の数に応じて、発動した邪眼術の性能低下と引き換えに効果が広がっていく。
効果詳細:(O=起点、n=発動した邪眼の数、m=Oから数えて何次の感染対象であるか)
・Oには100%の効果が発揮される。
・Oからはn本の蔓が、感染対象からは1本の蔓が生じ、1秒かけてnメートル伸び、蔓に触れたものが次回の感染対象となる。
・蔓が巻き付いた感染対象に、O-7m%(小数点以下切り上げ)の効果が発揮される。
・これをn回繰り返す。
・次回の感染対象が確保できなかったか、次回の感染対象に及ぼす効果が0%以下になると停止する。
・一度蔓を伸ばしたものはn×10秒間、『呪法・感染蔓』の対象にならず、新たに蔓を伸ばす事もない。
条件1:呪詛の種はタルの表皮から10センチメートル以内の空間で作成する事。
条件2:呪詛の種を作成する際に起点、感染対象、両者に共通するイメージを認識している事。
条件3:呪詛の種と邪眼対象の体が重なっている事。
根を張り、蔓を伸ばし、呪いは広がっていく。敵と味方を見極める事で邪眼の輝きは増していく。
注意:次回の感染対象を確保できなかった蔓が発生した場合、蔓の数×20のHPダメージを受けます。
▽▽▽▽▽
「複雑っ!?」
『うわっ、面倒くさいやつでチュよ。これ』
これは……これは……えーと……ちょっと待って……こういう効果だから……。
「オーケイ、だいたい把握したわ」
『本当でチュかぁ?』
「たぶん大丈夫よ」
『呪法・感染蔓』の使い方はこうだ。
まず、邪眼術の効果を広げたい相手に共通するイメージを思い浮かべつつ、手のひらの上で呪詛の種を作成する。
呪詛の種と起点にする相手の体を重ねて、その状態で邪眼術を発動する。
後は発動した邪眼の数が多ければ多いほど、多くの相手に広がっていき、遠くの相手に伝わるようになる。
こういう事だ。
『補足しておくと、効果対象数の最大値はn^2+1で170人。その際、最後の対象に与える効果は9%になるはずでチュ』
「ああなるほど。一度蔓を出したら、『
それにしても複雑である。
普通に使う分には、相手が多ければ多いほどに使う邪眼の数を増やせばいいだけだが、きちんと練って使うとなると、考える事がかなり多そうだ。
しかし、使い方によっては敵味方を識別しつつ、多数の相手に邪眼術を撃ち込める呪法なので、それだけ複雑にならざるを得なかったのだろう。
実質的なクールタイムが存在する事にも、効果対象範囲と数を見極め損ねた時のリスクにも納得がいく。
『と言うか感染対象って完全に病魔とかそっちの類の扱いでチュよね』
「そこはまあ、呪いだし。別にいいんじゃないかしら」
なお、名称についてはスルーさせてもらう。
どう見てもそういう風にしか捉えられなかったし。
「とりあえず取るべきものは取ったわけだし、行くべき場所に行きましょう」
『まあ、そうでチュね』
私は『気絶の邪眼・1』使用のクールタイムが明けたのを確認すると、飢渇の泥呪の海へと降りて行った。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル19
HP:1,060/1,180
満腹度:44/110
干渉力:118
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・2』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・1』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、ポーションケトル、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡、熱拍の幼樹呪の外套、熱拍の幼樹呪の口布etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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