267:イントゥサースト-1
「ログインっと」
『今日は呪限無でチュね』
「ええ、今日は呪限無よ。まあ、必要な物を作ってからだけど」
『じゃあ、手早くやってしまうでチュ』
「でっチュねー」
7月22日月曜日。
私は『CNP』にログインした。
今日の予定は『熱樹渇泥の呪界』へ移動し、渇泥の回収と、中の探索をすることだ。
と言うわけで、探索に必要なアイテムを幾つか作った。
△△△△△
熱拍の幼樹呪の口布
レベル:20
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:13
熱拍の幼樹呪の繊維と垂れ肉華シダの蔓の繊維を織って、口と鼻を覆える形の布にしたもの。
灼熱無効化(5)、灼熱に対して極めて高い耐性、灼熱に対して極めて高い抵抗性を有する。
火炎属性攻撃無効化(小)、火炎属性攻撃に対する極めて高い耐性を有する。
乾燥無効化(5)、乾燥に対して極めて強い耐性、乾燥に対して極めて高い抵抗性を有する。
身に着けているものの粘膜、感覚器にも、これらの効果が発揮される。
注意:着用中、氷結属性への耐性が低下する(大)
注意:着用者の異形度が14以下の場合、1時間ごとに(15-着用者の異形度)だけHPが減少する
▽▽▽▽▽
『粘膜と感覚器……口、食道、胃腸、目、耳、鼻。この辺りが対象でチュかね?』
「そうなるかしらね。なんにせよ体内に渇泥が入ってきて、と言うパターンを潰せるのは大きいわ」
『ゲテモノ食いのたるうぃには、元から効く気はしないでチュけどね……』
鑑定したところで着用。
他に必要なアイテムの準備も完了している。
私は万全の状態で『熱樹渇泥の呪界』に入った。
なお、今回はライブ配信はなしである。
「熱拍の幼樹呪の中じゃない?」
『丸三日以上放置していたから、逃げられたでチュね。これは』
「ああそうか、『CNP』内は3倍速だったわね」
『熱樹渇泥の呪界』に入った私が見たのは、いつもの熱拍の幼樹呪の中の空間ではなく、普通の『熱樹渇泥の呪界』の光景だった。
どうやら丸三日間放置していたことで、体内に石板を生じさせていた熱拍の幼樹呪は何処かに行ってしまい、その為に空中に放り出されてしまったようだ。
「まあ、帰りたくなったら、適当に新しい熱拍の幼樹呪を探せばいいだけね」
『でチュねー』
まあ、それならそれで何の問題もない。
私は入り口の痕跡をきちんと消すと、真下に向かって勢いよく降下していく。
そうして渇泥による黒い海が100メートル先くらいにある高さまで移動。
この高さだと、上手く跳ねた渇泥は十数メートル下にまで来ている。
「では、一応試しましょう」
私は毛皮袋から垂れ肉華シダの蔓を取り出すと、渇泥の海に向けて下していく。
「んー……」
今の垂れ肉華シダの蔓は私の装備品扱い。
その為、私の装備している熱拍の幼樹呪装備が持つ耐性の影響下にある。
なので、垂れ肉華シダの蔓が大丈夫なら、私が下りても大丈夫と言う推測を立てる事が出来る。
「大丈夫そうかしらね?」
『ダメージを受けている感じはないでチュね』
私は蔓を20メートルほど垂らし、その上で私自身も10メートル程降下した。
此処までくると垂れ肉華シダの蔓の先端は完全に渇泥に触れ続け、影響を受けているはずである。
が、垂れ肉華シダの蔓に変化は見られない。
『でも、これだと垂れ肉華シダの蔓自身の性能で防いでいる可能性を否定できないでチュね』
「まあ、垂れ肉華シダの蔓は周囲の呪詛濃度によって強化されるものね。実際の強化率は不明だけど、普段より丈夫なのは確か。と言うわけで確かめましょう」
私は垂れ肉華シダの蔓を捨てるつもりで手放す。
この瞬間、垂れ肉華シダの蔓は私の装備品でなくなり、渇泥の影響を自分の力だけで受けるようになる。
結果は……
「一瞬で萎びたわね」
『分かってはいたでチュが、驚異の乾燥能力でチュね』
萎び、枯れ、風化し、渇泥に飲まれて、垂れ肉華シダの蔓は見えなくなった。
私の装備の影響下でなくなった途端にこれならば、逆説、装備を身に着けている限りは大丈夫と言えそうだ。
「ではもう少し降りましょう」
『まずは回収でチュね』
私は20メートル程降下して、先ほどまで垂れ肉華シダの蔓の先端があった高さまでやって来た。
周囲を飛び交う渇泥によって、視界が僅かにだが薄暗くなる。
しかし、私の体や装備品が、先ほどの蔓のように乾燥していくことはない。
大丈夫なようだ。
「では、鑑定」
手のひらを上に向けて暫く待つと、手のひらの上に渇泥が乗ってくる。
黒くて丸い渇泥は、大きさとして親指の先端から一つ目の関節ぐらいまでの大きさを持っている。
なんだか虫のように見えなくもない。
とりあえず鑑定してみよう。
△△△△△
飢渇の泥呪 レベル15
HP:1/1
有効:なし
耐性:毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、脚部干渉力低下、恐怖
▽▽▽▽▽
「やっぱりこれもカースなのね」
『つまり、ざりちゅたちの周囲を舞っているこれらもカースと言う事になるでチュね』
名称は飢渇の泥呪。
まあ、熱樹に対応するであろう熱拍の樹呪が存在している時点で、渇泥もカースではないかと思っていた。
しかし、粒一つが一体のカースで、このHPか。
そうなると……。
「群体型のカース。ある意味では『熱樹渇泥の呪界』そのものと言っても過言ではないかもしれないわね」
『確かにそうとも言えそうでチュねぇ……』
飢渇の泥呪は世界ごと葬り去るような攻撃でなければ、殲滅不可能なカースと言う事も出来るかもしれない。
「とりあえず回収をしましょう。当初の予定通りにね」
『でチュね』
私は毛皮袋からガラスの瓶を取り出すと、蓋を開けて中に飢渇の泥呪を入れ始めた。
「む……予想通りだけど、やっぱりこうなるのね」
『まあ、生きたカースを普通の容器で捕獲しようとしたらこうなるでチュよね』
そして、瓶の半分ほどにまで飢渇の泥呪が貯まったところで、瓶の底が風化して穴が開き、飢渇の泥呪は容器から零れ落ちていった。
「じゃあ、本命で行きましょうか」
『でっチュねー』
そんなわけで私は毛皮袋から、熱拍の幼樹呪の糸で作った袋を取り出した。
乾燥耐性を持つこの袋ならば、問題なく回収出来るはずである。
尤も、問題は回収した飢渇の泥呪をどうやって殺し尽くすかであるが。
私は安全に処理するために、一度渇泥が来ない位置にまで飛び上がった。