266:トライアルボルカノ-5
「掲示板に書き込んでおきましたー」
「じゃあ、火山に行って、適当にアイテムを拾ってきましょうか」
「ですね」
さてダンジョンの外に出たところで、先ほどの出来事をクカタチが掲示板に書き込んだ。
内容的に検証班が反応して、検証協力を求める事はほぼ間違いないだろう。
が、そうなるまでに時間がかかるのも間違いないので、私とクカタチは火山に向かった。
「此処が火山ね」
「どの山も噴煙を上げてますね」
『腐った卵の臭いが微かにするでチュね』
観測所の南に出ると、そこは噴煙を上げ続けている火山の麓だった。
周囲には溶岩の池もあれば、熱水の川が流れている場所もある。
溶岩が冷えて固まったと思しき黒い岩があれば、普通の白くなった岩もある。
植物の姿も案外あって、背の低い木もあれば、丈の短い草も生えている。
そして、空気をよく嗅いでみれば、ザリチュの言う通り、微かにだが硫黄の臭いが漂っていた。
うん、正に火山と言う感じだ。
「一応鑑定っと」
「あ、私もしておこうっと」
では鑑定をしておこう。
△△△△△
S2 皆飲み込みの火山
延々と噴煙を上げ、赤き溶岩を垂れ流しつつも、力を蓄え、一挙に全てを飲み込もうとする火山。
火山は今も力を蓄えている。
呪詛濃度:5
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪S2 皆飲み込みの火山を認識しました≫
「うん、問題なし」
「このフレーバーテキスト。放置しておくと、その内侵攻されそうですね」
「されるでしょうね。まあ、その前に誰かがこの地のカースを見つけて、皆で討伐することになると思うわ」
「へ? カースって……」
「おっと、口が滑ったわ。クカタチ、他の人たちには黙っておいて」
「あー、はい。分かりました」
私は適当に火山の石を拾う。
ほのかな温かさを感じる。
△△△△△
皆飲み込みの火山の石
レベル:15
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:3
呪いを含んだ石。
▽▽▽▽▽
『クカタチ相手でよかったでチュね。相手によっては大騒ぎになったでチュよ』
「そうねー……」
さて、呪いの影響で、火山も対策なしでは10分ほどしか活動できないエリアである。
が、私もクカタチも暑さ対策については十分なので、10分と言わず、幾らでも活動できる。
しかし、暑さ対策だけではきっと何処かで詰まるようになっているに違いない。
と言うわけで、私とクカタチは火山の石を拾うと、観測所に帰って、対策アイテムを作った。
私が作ったのはこれである。
△△△△△
火山のお守り
レベル:15
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:4
S2 皆飲み込みの火山に蔓延する呪いを免れる事が出来るようになるお守り。
注意:制作者であるタル以外が所有していても効果はない。
▽▽▽▽▽
「これで火山対策もよし、と」
『あ、クカタチからメールでチュ。検証班から協力依頼が来たそうでチュよ。報酬も勿論あるでチュよ』
「よし、それじゃあ合流しましょう」
これで私は砂漠と火山に自由に出入りできるようになった。
サクリベス南西のエリアにも問題なく入れる事だろう。
「あら、ストラスさん。大丈夫なの? 転移費用って高異形度じゃないと高いって聞いたんだけど」
「その点についてはご安心を。第二マップで稼げるようになれば、低異形度でも日に一度くらいなら転移しても大丈夫な程度には稼げますから」
「なるほどね」
さて、個人用セーフティーエリアから出た私はクカタチ、それに検証班の面々と合流した。
その中には、私が居ると聞いたのか、ストラスさんも混じっていた。
「それにしても、流石はタルさんですね。まさかたった一日で検証案件を二つも持ってきて、二つとも検証することになるとは……」
「私だって今回は想定外だったわ」
で、検証だが……まあ、色んな組み合わせで『試練・火山への門』のボスを攻略し、どうすれば反射をしてくるかを調べる事になる。
まあ、そんなわけで、戦闘そのものは単調な作業である。
と言うわけで、過程は飛ばして、検証結果を述べてしまうのであれば……。
「異形度6以上のプレイヤーが居る」
「PT合計異形度が31以上」
「ワンアクションで重症化するような状態異常のみの攻撃を使用」
「何と言うか……」
「これはまた見事に……」
「タル様だけを狙い撃ちにしたような条件ですね……」
「……」
高異形度の状態異常特化型を狙い撃ちにするような反射能力だった。
ぶっちゃけ現状だと私以外にはほぼ引っかかる事のない反射能力と言える。
「ま、まあ、メンバーの都合で出来なかっただけで、ダメージでも反射が来るかもしれないしな」
「そうね。それに反射といっても、多く見積もって3割ちょっとが限界。私の邪眼術ならその半分ほど。そこまで脅威じゃないわ」
「おまけに反射能力持ちだからと、素材に影響が出るわけではないからなぁ……どちらかと言えば警告か? これは」
「あり得そう。この先どっかで反射持ちが出て来るから、注意しろよって事ですね」
まあ、反射能力と言ってもそこまで大したものではない。
だからこそ私は鉄肌人の戦士長との戦いを生き残れたわけだし。
プレイヤーが利用できない事も考えると、クカタチの言う通り、やはり警告の一種なのだろう。
そしてだ。
「これ、他の試練でも同じような話はたぶんあるよな」
「あると思います。火山が異形度で反応して強化なのを考えると、砂漠は人数、雪山は装備品の数、海は呪術の数。これで何かはあるかと」
「うーん、検証班の血が滾るな」
「おう、どうにかして条件を達成できるような面子を揃えないとな」
他にも同様の何かはあるに決まっている。
「「「……」」」
「雪山は現状行く気なし。海も後回しよ。と言う訳で検証頑張ってね」
「はい、検証が出来次第、掲示板に結果を流させていただきますね。タル様も呪限無探索頑張ってください。あ、こちらは検証協力のお礼です」
「ありがとう」
ストラスさん以外の面々から協力してほしいなと言う感じの視線を感じるが、私はそれを無視してストラスさんからお礼を受け取る。
お礼の中身は……バクチクの実は分かるが、他は分からない。
なんだろうか?
「今回はバクチクの実を始めとした各種属性攻撃アイテム、それに呪い避けの煙玉ですね。何かの参考になればと思いまして」
「なるほどね。大切に使わせてもらうわ」
こうして検証のお礼として様々なアイテムを入手した私は、『ダマーヴァンド』に戻るとログアウトした。