264:トライアルボルカノ-3
「へぇ、サクリベス四方のセーフティーエリア巡りは終わったの」
「はい、多少の時間はかかりましたけど、それだけでした」
「「「ーーーーー!?」」」
私とクカタチは襲い掛かってくる鉄肌人たちを返り討ちにし、罠に対処しながら奥へと進んでいく。
とは言え、鉄肌人の戦闘能力は私とクカタチにとっては雑談しつつでも問題がない程度、罠についてもだいたいは無力だったので、苦しむことはなかった。
「レベル上げ、ダンジョンの攻略、呪術の習得についてはどうなの?」
と言うわけで、クカタチの近況を聞きつつと言うか、そちらが半ばメインになりつつ私たちは進んでいく。
「レベル上げについては10代後半まで来ましたね。タルさんには追い付いていませんけど」
「そうなの。私は直に20に上がれると思うわ。今日の活動は経験値的には微妙だろうけど」
「苦戦なんてしていませんもんね」
クカタチのレベルについては、16から18と言うところか。
クカタチが『CNP』を始めた時期を考えると、驚きのスピードである。
仮に第一回公式イベント終了から第二回公式イベント終了までに始めたプレイヤーを第二陣と称すなら、クカタチは第二陣のトップの一人と見ていいだろう。
第二陣でクカタチに並び立てるのは……正式にスクナの弟子になったらしいマナブくらいか。
「ダンジョンの攻略は『熱水の溜まる神殿』の後は草原の方で一つ攻略しましたね。偶々一緒になった方々が居て、楽しく攻略出来ましたよ。あ、さっき使ったトランス・ウルフはそこで得た成果ですね」
「PT攻略楽しいわよね。一人で戦うのとは違った立ち回りを求められる。見知った相手となら純粋に楽しい。見知らぬ相手なら、見た事がないものが見られたりで」
「そうですね。ボスモンスターと戦った時に、幾つものバフを掛けてもらった上で攻撃した時に出たダメージには本当に驚きました。すごく楽しかったです。フレンド登録もしちゃいました」
ダンジョン攻略についてはあまり積極的でない感じか。
でも、フレンドが出来るほどに楽しい事があったようだし、いい事か。
「呪術については……5個は手に入れましたね。呪法はまだです」
「まあ、呪法はまだよね」
「何となく思いついてはいますけどね。あ、タルさんには協力してもらわなくても大丈夫です。たぶん、もう少し呪詛濃度操作装備を手に入れれば、私一人で出来ます」
「そう、それはいい事ね」
呪術については自分でどうにかする気のようだ。
ならば、私は求められない限りは黙っていることにしよう。
「そう言えば、『熱水の溜まる神殿』の探索はどう?」
「『熱水の溜まる神殿』ですか? ああそうか、タルさんが呪限無に行ったことで、掲示板で騒がれていますよね。『呪限無の落とし児』の初期ダンジョンには呪限無に通じる穴があるんじゃないかって」
「……。そうそれ」
『知らなかったと言う顔は上手く隠したでチュね』
いつの間にか騒がれるようになっていたのか。
まあ、『ダマーヴァンド』の外に出た様子がないのに、『熱樹渇泥の呪界』に行っているのだから、これくらいはバレて当然か。
「私が調べた限りでは呪限無への穴は見つかりませんでしたね。無いのか、それともよほど上手く隠されているのか……私にはそれすらも分からない感じです」
「そう」
「この件についてタルさんから情報を得る事は……」
「駄目ね。色んな事情があって、多くを話すわけにはいかないわ」
「そうですよねぇ」
恐らくだが『熱水の溜まる神殿』にも『ダマーヴァンド』と同じように呪限無に繋がる穴はある。
クカタチが調べて見つかってないとなると、熱水の排水口やちょっとした壁の亀裂辺りから行けるのだろう。
『ダマーヴァンド』の穴もそうやって隠されていた。
「そうねぇ……ダンジョンの管理をもう少し詳しくやってみるといいかもしれないわ。管理ツールみたいなものを作ってもいいかも。で、そうやって詳しく調べれば、何か見つかるかもしれないわ」
「管理を詳しくですか……」
「で、これ以上は言えないわね。何処で引っかかるか分からないもの」
「なるほど」
クカタチの悩むような声からして、恐らくだがクカタチは呪詛管理ツールも作っていない。
そうなると、不自然な支出があっても気づかないか。
とは言え、これ以上は言えない。
アジ・ダハーカのような存在が早々居るとは思えないが、もしも『熱水の溜まる神殿』にもそういう存在が居るなら、私の言葉が切っ掛けとして活性化する可能性だってあるのだから。
「それにしても敵が弱いですね」
「まあ、こんなものよ」
さて、雑談メインで敵をなぎ倒しつつ進む事暫く。
私たちはボス戦に繋がる広間に辿り着いた。
広間には何人ものプレイヤーが居る。
「おっ、タルに……クカタチか?」
「あの二人で挑むってマジか」
「異形度合計35。大丈夫なのか?」
他のプレイヤーのざわつきに何だか妙な感じがある。
『試練・砂漠への門』ではあわよくば一緒にか、頑張ってくれ、と言う感じだったか。
ここでは不安視するような感じと言うか、一緒に戦いたくはないと言う感じがある。
「あ、タルさん。此処のボスは通路に入ったプレイヤーの異形度の合計が高いほど強くなるらしいですよ。掲示板にそう書かれてました」
「ああなるほど。じゃあ、別々に挑んだ方がいいのかしら?」
「んー、大丈夫じゃないですか? 異形度35なら、異形度5のプレイヤー7人で組むのと一緒と言う事ですし」
「7人分を2人でか……まあ、一度挑んでみて、駄目だったら次はソロで挑めばいいだけね」
「じゃあ、一緒に行きましょう!」
「ええ、一緒に行きましょうか」
なるほど、挑むプレイヤーの異形度の高さに応じた仕掛けがあるのか。
それならば確かに私たちと一緒に挑むのは嫌がりそうだ。
寄生をさせず、協力をする気のない私たちにしてみれば、必要のない警戒をしなくていい分だけ楽でもあるが。
「では」
「はい」
『頑張るでチュよー』
私たちは装備に問題がないことを確認すると、通路が白い霧に覆われていることを確認した上で、踏み込んだ。
09/28誤字訂正