262:トライアルボルカノ-1
「これは想像以上ね」
『現在の気温は70度。湿度は0%。乾燥を促進させる呪いも混ざっているでチュね』
私は午後の活動を開始した。
そして、予定通りにまずは熱拍の幼樹呪の外套を装備、砂漠のお守りは持たずで、日中の皆乾かしの砂漠に踏み込んだ。
結果は快適……ではなかったが、とりあえず活動するのは問題なく出来そうだった。
「アツゥイ!?」
「おー、派手に燃えてんなぁ……」
「砂を握りしめて帰っておけ。対策なしじゃ此処は無理だぞー」
「オオォン……イエッサアアァァ……」
なお、以前掲示板で見かけた通り、対策なしで砂漠に踏み込むと、全身が乾いていった後に発火、強制的に死に戻りさせられる。
と言うわけで、私から少し離れた場所では、初めて砂漠に踏み入ったと思しきプレイヤーが、他のプレイヤーたちに見守られながら燃え尽きていた。
雰囲気がちょっと楽しそうなのは、全員がこうなると知っていてやっているからだろう。
「しかし、砂漠自身の風や、爆風で巻き上げられた砂が結構な勢いで口の中に入ってくるわね」
『乾燥は大丈夫でチュか?』
「そっちは全く問題なし。外套と他の装備品の効果で完全に防げているみたい」
『じゃあ、『熱樹渇泥の呪界』でも通用しそうでチュね』
「たぶんね。ああでも、後で口に当てる布は作っておきましょう。此処で喋っているだけで入ってくるなら、向こうでは呼吸だけで入ってくることになる。そうなったら呪い関係なしに物理的に窒息しかねないわ」
『そう考えると、確かに必要そうでチュねぇ』
とりあえず砂漠に来た目的である、外套の性能確認は出来た。
追加で必要なアイテムも判明したので、素晴らしい成果だと言えるだろう。
「じゃ、適当にアイテムを拾ったら、次は火山に行きましょうか」
『あ、今日は呪限無に行かないんでチュね』
「行かないわ。地上で動ける範囲を広げておくのも、後の為に必要な事だから」
私は昼前にストラスさんからインタビューと呪法検証の報酬として受け取ったガラス瓶を毛皮袋から取り出すと、そこに皆乾かしの砂漠の砂を詰めていく。
皆乾かしの砂漠の砂には呪いが含まれているそうなので、上手く使えば新たな邪眼術や既存の邪眼術の強化に繋がるかもしれない。
そうして私は砂漠を後にした。
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「さて火山ね」
『トンデモなルートを使うでチュね。たるうぃ』
「だって近いのを知ってたし」
で、『試練・砂漠への門』の砦から、クカタチの拠点である『熱水の溜まる神殿』へと移動。
そこから南方向に移動しつつ地上に昇ると、そこは原形をとどめる程度に破壊された上で、固まった溶岩に半ばまで飲み込まれたビルが幾つも立ち並ぶエリアである。
私の視線の先には噴煙を上げる火山と、その麓に作られた白色のシェルターのような施設が見えていて、あのシェルターが『試練・火山への門』がある施設だろう。
「と言うか、トンデモなのはむしろここからよ」
『それはどういう……気温が100度を超えているでチュね……』
「そういう事ね」
『試練・火山への門』に繋がる道は、ランダムな座標に向けて時折空から降ってくる火山弾と、正規ルートからはみ出せばはみ出すほど上がっていく気温によって阻まれている。
正規ルートの見極めは、等間隔で地面に埋め込まれている小さな赤い宝石を見つけることだ。
「でも凄いわね。熱拍の幼樹呪の外套は。この気温でも私自身含めて、まるで熱さを感じないわ」
『この分だと、たるうぃ自身含めて、気温が300度を超えるくらいまでは、何時間居ようとも安泰でチュかねぇ』
「なるほど。それは朗報ね」
が、熱拍の幼樹呪の外套によって火炎属性と灼熱に対して極めて高い耐性を有する今の私ならば、正規ルートを完全に無視して一直線に移動してしまっても、何の問題もないようだ。
と言うわけで、私は他プレイヤーたちが信じられないようなものを見るような目を向けるのを確認しつつ、施設に真っ直ぐ向かっていく。
『ちなみにたるうぃは『試練・火山への門』についてはどれぐらい調べたんでチュか?』
「場所、概要、正規ルート、正規ルートから外れると何があるかは調べたわね。試練で戦う相手については調べていないわ。そっちの方が面白いだろうから」
『なるほどでチュ』
施設が見えてきた。
シェルターのような施設とは掲示板に書かれていたが、正確にはシェルターと言うよりも観測台と言うべき施設であるように思える。
砦との一番の違いは……外敵を直接的に排除する手段が見られない事か。
もしかしたら火山のモンスターやマップは砂漠のモンスターやマップと違って、積極的にビル街に出ようとしていないのかもしれない。
ビル街のお仕置きモンスターのような例外も居そうだが。
「中は……変わらずね」
『でチュねぇ』
私は施設の中に入る。
どうやら配置の基本は『試練・砂漠への門』と変わらないらしい。
入って正面に火山に繋がる出口、右手に試練を受けるための門、左手に施設を見て回るための道だ。
なので私はセーフティーエリアの転移先を登録すると、そのまま試練を受けるべく移動を始めようとした。
あ、この場所の鑑定結果はこんな感じである。
△△△△△
『試練・火山への門』
ビル街と火山の境界にある観測所。
この地の呪いは敵対者を正確に観測し、本来は敵である火山の力を利用して迎撃する。
例外は観測所の主が敵でないと認めたものだけである。
呪詛濃度:10
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「タルさん!」
さて、そんな私に声をかけてくるプレイヤーが一人。
それは湯気を出している水球……声からしてクカタチだった。
「あらクカタチ。どうかしたの?」
「タルさんも『試練・火山への門』を攻略するんですか?」
「ええそうだけど。その口ぶりからするとクカタチも?」
「はい! 折角やって来たので、攻略しようかと。それでその……足手まといになるかもしれませんが、出来ればご一緒させていただきたいな、と」
「ああ、なるほどね。じゃあ、一緒に行きましょうか。一緒に行動したこともなかったし。クカタチの戦い方を間近でじっくり見る機会はこれまでなかったから、丁度いいわね」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね」
『たるうぃが主に何を考えているかがよく分かる笑顔でチュねぇ……』
と言うわけで、折角だから私はクカタチと一緒に『試練・火山への門』を攻略することにした。
これでクカタチの呪術という未知が、以前の大会の時よりもゆっくりと見られるのであれば、儲けものと言う他ないだろう。