261:トライアルデザート-7
「此処が砂漠ね」
『第一回イベントでザリアと戦った場所に近い気がするでチュ』
砦の西側に出ると、そこは既に草木がなく、乾いた岩と砂でのみ構築された夜の砂漠だった。
とは言え、砦近くだと絶え間なく砦から砲弾が飛んできて、着弾の衝撃と爆発によって粉塵が巻き上げられているので、砂漠と言うよりは戦場と言った方が正しい感じだが。
「鑑定っと」
何はともあれ、まずはこのマップの鑑定である。
△△△△△
W2 皆乾かしの砂漠
昼は灼熱、夜は極寒、全てのものを乾かして、己が領域を広げていく砂漠。
砂漠は今も広がろうとしている。
呪詛濃度:5
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪W2 皆乾かしの砂漠を認識しました≫
「ふうん……」
『草原よりも呪限無に近づいているでチュね』
「ええそうね。呪詛濃度は同じだけど、それ以外の部分で呪限無に近づいているように感じるわ」
皆乾かしの砂漠……ね。
恐らくだが、この砂漠の探索を進める事でも呪限無に行けるようになるのではないかと思う。
呪詛濃度は5で草原と変わらないが、気配と言うか、次元と言うか……とにかくこれまでのマップよりも呪限無に近づいている感じがある。
「カースの気配はする?」
『流石にしないでチュ。居たとしても、地平線の向こうよりはるか先なのは確かでチュね』
「そう」
恐らくだが、この砂漠の何処かには、この砂漠の支配者であるカースが居るのではないかと思う。
だから、砂漠は今も広がろうとしているのではないかと思う。
砦が何時まで保つかは分からないが……いずれは倒さないと、サクリベスは砂漠に飲まれ、呪限無に飲まれることになるのではないかと思う。
『調べるでチュか?』
「まさか。私は『熱樹渇泥の呪界』とアジ・ダハーカを優先するわ。ここはザリアたちの担当よ。求められた時に戦力として駆けつけるくらいはする気だけど」
まあ、砂漠の探索はしたくても今の私では手が回らない。
今は砂漠に自由に出入りできるようになっておけば、十分だろう。
『ところでたるうぃ?』
「何かしら?」
『すごい勢いで震えているでチュね』
「震える事で体温を保とうとしているからでしょうね。満腹度がすごい勢いで減っているわ。と言うかね……」
さて、砦からの砲撃が行われるエリアよりも先の部分に私は来た。
私の視界には、背後で巻き上がる粉塵、前方に広がる岩と砂が入り混じった砂漠、砂漠の中に時折現れる高濃度の呪詛の霧を纏った施設……ダンジョンが映っている。
で、私の視界の左上隅にはHPと満腹度を示すバーがあるのだが……
「寒いわ! 桁違いに寒いわ!!」
現在進行形で減っている。
しかも呪詛濃度不足並のスピードである。
おまけに状態異常として、凍結、鈍足と言った状態異常が表示されている。
脚も翅も腕も、全身くまなく重く、とてもではないがマトモに体を動かすことが出来ない。
「腹が減って……」
『たるうぃ! 最低限の目標だけでも……』
満腹度が0になって、空腹の状態異常が発生し、視界がぐらつき、耳が遠くなっていくと共に、HPバーの減少スピードがさらに増す。
これはもう助からないな。
「掴……む……」
私は足元の砂を握りしめ、地面から離した。
それと同時に私のHPバーは底をついた。
「いやぁ、予想以上に氷結属性への耐性低下の効果が酷いわね」
『でっチュねぇ。あ、倒れるまでの時間は砦を出発してから5分も経っていなかったでチュよ』
「つまり、最低でも2倍以上のダメージを受けるのね」
と言うわけで死に戻って私のセーフティーエリアである。
とりあえず砂は無事に確保できたので、鑑定をしておく。
△△△△△
皆乾かしの砂漠の砂
レベル:15
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:3
呪いを含んだ砂。
▽▽▽▽▽
「これで対策アイテムを作ればいいわけね」
私はメッセージ欄に来ていたアイテム……緑小人の戦士長の皮膚を実体化させる。
皮膚は手のひら大で、この量だと作れるのは砂入りの袋ぐらいだろうか。
『そう言えばたるうぃ』
「何かしら?」
『この緑小人の戦士長、ステータスの鑑定とかはしなくてよかったんでチュか?』
「ああ、その事。別にいいわよ。練習用のサンドバッグ程度じゃ、名前やステータスを気にしても仕方がないし」
『扱いが雑でチュねぇ……』
「丁重な扱いを求めるなら、相応の実力は欲しいわね。あの実力じゃあ、これ以上の扱いなんてする気にはなれないわ」
よし完成。
早速、呪怨台で砂漠で自由に活動できるようになることを望みつつ、呪う。
そして出来上がったアイテムを鑑定してみる。
△△△△△
砂漠のお守り
レベル:15
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:4
W2 皆乾かしの砂漠に蔓延する呪いを免れる事が出来るようになるお守り。
注意:制作者であるタル以外が所有していても効果はない。
▽▽▽▽▽
『これでさっきみたいな事にはならずに済むようでチュね』
「そうね。でも日中の砂漠をお守りなしで一度は経験しておきたいところではあるわね」
『熱拍の幼樹呪の外套を試す為にでチュね』
「ええ、砂漠程度の呪いにすら耐えられないのに、『熱樹渇泥の呪界』で使い物になるはずがないから。ここで試すのは必須よ」
さて、これで昼前の活動は終わり。
一度ログアウトして、16時少し前くらいにログイン、熱拍の幼樹呪の外套を試してみるとしよう。
09/27誤字訂正