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260:トライアルデザート-6

「補助輪ないのツラい!」

「でしょうねぇ」

「見てて明らかに効率が悪くなっていましたからねぇ……」

 ボスとの戦闘が終わってザリアが最初に発した言葉がこれである。

 まあ、傍目に見てても、出来が悪くなっていたので、当然の反応だろう。

 具体的に言えば、私の補助付きの時は剣身が纏っていた呪詛をほぼ全て流し込めていたのに対して、今回は一割から二割程度しか流し込めていなかった。


「一応聞くけど呪法の習得は?」

「出来なかったわ。でも、あんなのでも普段よりは……そうね、知らなければ誤差で済まされそうな程度には強くなっていたわ」

「なるほど。効果はあったのね」

 私はザリアの言葉に頷く。

 どうやら呪法の雛形と言うか萌芽のような物は手にすることが出来たようだ。

 後はザリア自身の修練次第だろう。


「あ、此処からの脱出は?」

「そこに専用の脱出口があるわ。そこに入ると、外の砦の広場に飛ばされる。それで脱出よ」

「分かったわ」

 ザリアが示した先の床には、白い霧に包まれた魔法陣のようなものが刻まれている。

 転移機能の一種だろうか。

 なんにせよ、脱出は何時でも出来るようだ。


「タル様。ザリア様に対して行った呪法習得の補助は私にも出来ますか?」

「んー……」

 さて、試練は突破した。

 呪法の習得についても、ザリアに限っては目途が立った。

 残るは他の普通のプレイヤーでも呪法が習得可能かであるが……。


「ちょっとこの場で試してみましょうか」

「分かりました」

 私はストラスさんを対象として、周囲の呪詛がストラスさんの意思に従うように調整した。

 そしてストラスさんは『琥珀の風』を試した。

 が、結果は芳しくなかった。


「む……これは駄目ね」

「何故駄目なのでしょうか?」

「そうね……。理由としては、私はザリアほどにストラスさんの戦闘スタイルについて詳しくないのが一つ。でもそれ以上のものがある気がするわ」

「それ以上のもの……ああなるほど。私の呪術は『蜂蜜滴る琥珀の森』の蜂型カースに教えられたものですからね。その影響はありそうです」

「後はそうね。この補助は師弟関係の類が必要なのかも。対象となる呪術を強化するのが呪法なのだし、補助する側も対象となる呪術をよく知っている必要はあるでしょう」

「なるほど。あり得そうです」

 ストラスさんの『琥珀の風』はいつも通りの効果だった。

 私の感触的にも手応えはなかった。

 理由は幾つもあるだろうが……個人的には師弟関係の有無、そうでなくとも共同開発ぐらいの関係性は必要なのではないかと思う。


「でもそうね。呪法はあくまでも工夫。習得出来なくても、そこまで問題にはならないと思うわ。呪法だけが工夫なわけでもないし」

「それはさっきのボス戦でよく分かります」

「完全にボスを騙していたものね。タルの呪詛の剣は」

 さて、そろそろ脱出しよう。

 私たちは魔法陣の上に立って、ダンジョンの外に出た。



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「で、此処から先はどうするの?」

 ダンジョンから脱出した私は、一応ザリアにこの先の事を確認しておく。


「まずは一度砂漠に行く事ね。で、それこそ一掴みの砂でもいいから回収すること。そうして回収したアイテムと、今のボス戦で手に入れたアイテムを組み合わせて、アイテムを作成。そうすると砂漠での活動が可能になるアイテムを作れるわ」

「なるほどね」

 掲示板での情報を疑っていたわけではないが、やはり掲示板情報のままでいいらしい。

 えーと、今さっき回収したアイテムは……緑小人の戦士長の皮膚になっている。

 シンプルに皮膚で砂か何かを包み込むだけで問題はなさそうだ。


「でも大丈夫なの? 掲示板情報だと派手に燃え上がったとかあったけど」

「えーと、今は真夜中の少し前ね。この時間帯なら熱は大丈夫よ。耐性によっては軽い凍傷になるくらいには寒いけど」

『寒さ……ヤバいんじゃないでチュか?』

「……」

「まあ、そうでなくとも、10分くらいなら対策なしでも活動できるわ。焼けるように熱い真昼でも、凍えるように寒い真夜中でもね」

 ザリアは私の耐性が氷に弱いと知らないので、今の方が都合がよいと思っているようだ。

 が、今の私の装備的には……砂漠は夜の方が危険かもしれない。


「なるほど。好都合と言えば好都合ね」

「そうね。好都合だと思うわ。だから、今から行ってくればいいんじゃないかしら。で、昼食前にアイテム作成まで済ませておけばいいと思うわ」

「そうねー」

 しかし、好都合ではある。

 今の私がどれだけ寒さに弱いのかは、一度何処かで知っておくべきだろう。


「ストラスさん」

「はい、大丈夫です。タル様。今日はタル様のおかげで呪法の検証が出来ました。この分なら、遠からずタル様以外にも呪法が習得できると思います。あ、こちらは先日の件も含めたお礼です」

 検証班との作業はこれでお終い。

 先日のインタビューの報酬もあるのか、ストラスさんは私に袋を渡してくれた。

 中身は……なるほど、これはありがたい。

 ガラスの瓶や、金属の塊など、『ダマーヴァンド』や『熱樹渇泥の呪界』では手に出来ない物が沢山入っているようだ。

 これは使いどころが多そうだ。


「それと、タル様がお望みであれば、他の方角の試練を攻略される際には検証班は全力でバックアップさせていただきます」

「ありがとう。期待させてもらうわ」

「いえ、本当にタル様にはお世話になっていますから」

「じゃあストラスさん、ザリア、私は一度砂漠に行ってくるわ」

「分かりました。お気をつけて」

「直ぐに戻ってきなさいよ」

 そうして私は二人に別れを告げて、砂漠に向かった。

09/24誤字訂正

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