259:トライアルデザート-5
「此処は?」
「ボス戦前の準備場所ですね。セーフティーエリアではありませんが、他プレイヤーがモンスターをトレインしてこない限りは、安全な場所です」
「ちなみにモンスターをトレインしてこの広場に入って来たら、広場に居るメンバーで協力して、連れてきた連中ごと始末するのが基本ね」
「なるほど」
『殺伐としているでチュねぇ……』
『試練・砂漠への門』の最深部一歩手前。
そこは最深部で出現するボスに備えるための場所であり、その気になれば百人程度のプレイヤーが一度に入れるような大広間だった。
私たち以外にも十数人のプレイヤーが居て、私たちの姿を認識すると、片手を上げて挨拶をしてくる。
なので、私もそれに応えて、軽く手を上げ、微笑んでおく。
「ボス戦は?」
「あの白い霧がかかっている通路の向こうよ。今は受付状態ではないみたいね」
広間には私たちが通ってきたような通路に繋がる道が複数ある他、白い霧に包まれて向こう側が見えない道が一つある。
あれがザリアの言う通路だろう。
「受付状態?」
「ボスへの通路にプレイヤーが入ってから、一分以内に別のプレイヤーが入ると、最大で10人まで一緒にボスと戦うことが出来るようになっているのよ。それが受付状態。で、霧の状態でそれが確認できるの。受付状態でないなら白、受付状態なら残りの受付時間に合わせて青、黄色、赤って感じにね。ちなみに一度入ったらボスに勝つか死ぬまで出られないわ」
「なるほどね。あ、受付状態だからと、既に中に居るプレイヤーに断りなく入ったらどうなるの?」
「その時は敵扱いで、後顧の憂いをなくすためにも始末しておく。と言うのが基本ね。ボスのステータスと取り巻きがこちら側の人数次第で強化されることもあって、了承なしに入ってくるのは寄生以外の何物でもなく、害悪で確定よ」
「ふうん、なるほどね」
『やっぱり殺伐としているでチュねぇ』
余談だが、ストラスさん曰く。
ボスの取り巻きの数は、侵入したプレイヤーの数が1~6人程度なら人数×2でほぼブレないそうだが、10人に近づくと増える方向でブレ始めて、最大で取り巻きの数が30体ほどにまでなる可能性があるとのこと。
うん、それはそれで気になるし、事前の準備がしっかりとしていれば美味しそうである。
寄生連中のせいでそうなったら、ブチギレ案件以外の何物でもないが。
「ちなみにザリアとストラスさんはそういう事態に遭遇したことは?」
「何度かあるわ。全員爆散させてやったけど」
「私も一度ありますね。丁重にお帰りいただきましたが」
あ、うん、二人の刺々しさからそうではないかと思ったが、やはり経験済みか。
まあ、二人がそう言うのなら、私も二人に倣うとしよう。
そもそも、私、ザリア、ストラスさんの三人なら、取り巻きが数体増えた程度なら普通に処理できる気もするが。
「では、準備が整い次第挑みましょうか」
「分かったわ」
「あ、ザリア。取り巻きの始末が終わるまでは呪法の練習は控えて、で、取り巻きが終わったら補助輪なしで頑張ってみて」
「……。分かったわ」
では、戦闘を開始しよう。
私、ザリア、ストラスさんの順に白い霧を抜けて、道を進む。
「人数が確定したら、その先の広場に入れるようになると共に、ボスと取り巻きが出現するわ」
「タル様、ボスや取り巻きの種類についてはランダムなので、最初の確認は必須です」
「ふむふむ、なるほどね。ザリチュ」
『くぐったタイミングでカウントダウンは始めているでチュよ』
霧の向こうはこれまでと同じ石造りの砦で、通路を進んだ先には実体がないのに通れない霧の壁が張られている。
背後では白かった霧の壁が青く変化して、受付状態になっているが、他のプレイヤーが入ってくる様子はない。
「『3……2……1……0、スタートでチュ』」
ザリチュの正確なカウントが0になった瞬間、私の目の前の霧の壁が消失。
私は霧の向こうに広がった広間に飛び込む。
そこには、私と同程度の身長を持ち、全身を金属鎧で包んだ剣と盾持ちの緑小人が一体。
これまでの道中でも出てきた私の腰ぐらいまでの身長しか持たない緑小人が戦士系2、術士系2、弓持ち2で居た。
ほぼ間違いなく大きいのがボスで、それ以外が取り巻きだろう。
「タル!? 何をして……!?」
「タル様!?」
『何をしているでチュ!? たるうぃ!?』
それらの姿を視認しつつ、私は床を蹴り、翅を動かして、一気に接近していく。
そしてスカートの陰に隠すように展開していた6本の呪詛の剣を周囲に浮かせて、私を中心とした円運動を高速で始めさせる。
「ガボッ!」
「「「ゴブッ!」」」
私の突撃を予想していなかったのか、緑小人たちはばらけようとはしなかった。
いや、私単独で突っ込んでくるなら、全員で一斉に攻撃をして、返り討ちにすればいいと考えたのだろう。
密集したまま、私に向かってそれぞれの得物を構える。
「「「ゴブッ!?」」」
だが見えている攻撃に当たるほど私の身のこなしは重くはない。
そして、新たな装備品によって防御力と言うべき部分が大幅に強化されている今の私にとって、掠った程度の攻撃など効きもしない。
そうやって私は取り巻きの緑小人たちの中心に移動。
彼らの首に呪詛の剣を叩き込んで……
「『
「「「ーーー!?」」」
その瞬間に『恐怖の邪眼・3』を取り巻き一体につき二つの目で発動。
『試練・砂漠への門』の呪詛濃度10、呪詛の剣の呪詛濃度19なので、呪詛の剣の呪詛濃度が計算式に適用。
『
「ガボアッ! ッ!?」
「おっと!」
恐怖の効果は絶大だった。
『
さて、この隙をザリアたちは見逃すだろうか?
いいや、見逃すはずがない。
「こういう事はやるならやるって言いなさい!」
「タル様! 報連相は大事にしてください!」
「「!?」」
私の予測通り、後ろから突っ込んできたザリアとストラスさんの攻撃によって、緑小人たちはあっさり葬られた。
ボスは一瞬、私とザリアたちのどちらを優先するかで迷ったが、私が6本の呪詛の剣をボスに向かって飛ばし始めるのを見た瞬間に、私に向かって突っ込んできた。
当然、その間にザリアとストラスさんは取り巻きを難なく始末していくだろう。
「ガンボアァ!」
「おっと」
取り巻きを見捨てたボスの動きは素早かった。
呪詛の剣を動かすのは間に合わなかったし、そもそも次の邪眼術のチャージもまだ終わっていない。
だが、二度攻撃を避け、一度攻撃が掠ったところで、チャージが完了。
私はボスに向けて再度呪詛の剣を放つ。
「ガバァ!」
ボスは剣が飛んできていない後ろに向かって跳ぶことで、6本の呪詛の剣を避けた。
ボスの判断は間違いではない。
呪詛の剣に触れなければ、私の呪術は効果を発揮しないと言う前提が間違っていなければ、だが。
「『
「ッ!?」
呪詛の剣は霧散し、霧となった呪詛は素早くボスの体を包み込む。
そこへ私の『毒の邪眼・2』が放たれた。
与えた状態異常は毒(285)。
流石はボス、相応の耐性は持っていたらしい。
「さて、これで後は耐久するだけね。と言うわけでザリア、頑張ってね」
「そうね。頑張らせてもらうわ。ちょっとボスが気の毒ではあるけど」
「ガ……ガバッ……ナ……」
「ここまで楽なボス戦とか初めてですね……」
『相手にもならなかったでチュねぇ……』
だが、もうどうしようもない。
後は毒で重症化していない程度に体調不良なボスを、ザリアが呪法の練習をしつつ仕留めるだけだった。
≪称号『砂漠侵入許可証』を獲得しました≫
≪報酬はメッセージに添付してお送りいたします≫
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル19
HP:1,087/1,180
満腹度:82/110
干渉力:118
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・2』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・1』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、ポーションケトル、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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『砂漠侵入許可証』
効果:『試練・砂漠への門』の砦から放たれる攻撃が無効化される。
条件:『試練・砂漠への門』のボスを討伐
汝は力を示した。乾きの世界へと足を踏み入れるといい。
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