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258:トライアルデザート-4

「うーん、出来ている気がしないわね……」

「そうですね。上手くいっている気がしないわ」

「そうね。私の目から見ても出来ているとは思えないわ」

 ダンジョンを進むこと暫く。

 ザリアとストラスさんは呪法習得を試みながら戦っていたが、結果は芳しくない。

 いや、そもそもとして、周囲の呪詛の霧を動かすことも出来ていないようだ。

 そして、ストラスさん曰く、別の場所に居る他のプレイヤーからも習得成功の報告は来ていないそうだ。


「……。少し周囲の呪詛を弄るわ」

「弄るって……」

 このままでは検証が滞る。

 そう判断した私は自分の周囲の呪詛の性質を弄る事にした。


「今は私の意のままに動くようにしているけれど、これをザリアの思うように動くように念じて変化させるの」

「それだと実戦で……ああ、いえ、今の私はそれ以前の状態だものね。なら、その状態でまずは進めて、感覚を掴む方が先か」

「そういう事。自転車の補助輪のような物ね。補助輪なしで走るのや、その先については、まずはこげるようになってからよ」

「分かったわ。やってみて」

「ええ」

 私の意に応じる状態から、ザリアの意思と行動に合わせて動く形に。

 と、口で言うのは簡単だが、これをしっかりやるとなったら、ザリアの挙動を常に確認して、込めた念による自動で動かすだけでなく、ある程度は私の意思で動かす必要もありそうだ。

 だいたいだが……目四つ分くらいはザリアに割く必要があるか。


「……。何と言うか、感覚がだいぶ変わったわね」

「そうなのですか?」

「ええ。こう、何と言えばいいのかしら。タルが私の体にまとわりついているような感覚? とでも言えばいいのかしら。とにかく感覚がかなり変わったわね」

「なんか、変な事を言われそうな感想ね……」

「でも、私としてはそう評すしかないような感覚よ。でもそうね。これなら上手くいけるかも」

「じゃあ、このまま戦闘に移りましょう」

 私の戦闘能力が落ちていることを伝えた上で、ザリアは見つけた緑小人に向かって駆け出す。

 見つけた緑小人の数は5、戦士系が4、術士が1だった。


「「ギギッ!?」」

「「ゴブッ!?」」

「せいっ」

「ガバッ!?」

 罠も近くにあったが、ザリアはそれを難なく回避して切りかかる。

 で、術士の緑小人を素早く切り殺すと、残りの戦士系の動きを牽制。


「はっ!」

「『毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』」

「一体残すわ!」

「「「!?」」」

 そこへストラスさん、私の攻撃が放たれて2体落ちた。

 更に2体の緑小人が落ちたことで生じた隙を突くことで、ザリアが1体の緑小人を落とす。

 これで残りは1体。


「試すわ……」

 ザリアの剣が血のように赤い呪詛を纏う。

 ザリアの呪術だ。


「咲き誇りなさい!」

「ゴ……ブッ?」

 ザリアの細剣が緑小人の体に突き刺さる。

 そして、突き刺さった瞬間に、私の補助も手伝う形で、細剣が纏っていた血のように赤い呪詛が緑小人の体に流れ込む。

 そうして細剣が纏っていた全ての呪詛が緑小人に流れ込むと、ザリアは細剣を引く。

 すると十分に引いたところで、ザリアの細剣は赤い呪詛を再び纏う。


「ふんっ、せいっ、はっ!」

「ゴブ?」

 これをザリアは三度繰り返した。

 私の記憶が確かなら、ザリアの呪術は事前の攻撃で出血の状態異常を溜め込んで、最後の一撃でそれを開放、大ダメージを与えるものだ。

 そんな呪術が呪いを相手の体にわざわざ流し込むのなら……うん、きっとそうなるだろう。


「ゴブアアアァァ!」

 ザリアの攻撃でダメージを受けないことを好機と見た緑小人がザリアに向かって切りかかろうとした。


「ブラッディフラワリング!」

 対するザリアは最後の一撃を緑小人に向かって放つ。

 攻撃が効かないと思い込んだ緑小人は、それを避ける事もしなかった。

 ザリアの細剣が緑小人に突き刺さる。

 ザリアの細剣が纏う呪詛は、細剣が緑小人の体に刺さると同時に、一気に緑小人の体内に流れ込み、これまでのザリアの攻撃で呪詛が流れ込んだ場所に流れていく。

 そして……


「!?」

 私の予想通りに緑小人は爆発四散した。


「戦闘終了。ザリア、どうだった?」

「何か掴めた感じはあるわね。威力については確実に上がっているわ。でも、習得のメッセージは流れていないわね」

 私たちは緑小人の死体から、風化の呪いを免れた装備品を回収していく。

 分解すれば、素材として使えるらしい。

 で、肝心の呪法習得だが……流石に一度では駄目らしい。

 しかし、進展はあったようだ。


「習得出来なかったのは、習熟度の問題か、タル様の手助けを受けたからか、どちらでしょうね?」

「習熟度の方でしょうね。たぶんだけど、タルの手助けを受けていると、習熟度の伸びが悪いとかあるんじゃないかしら? ああいえ、タルが悪いと言うよりは、私の問題ね。私自身の呪詛を操る能力がまだ足りていないんだと思うわ」

「まあ、それはありそうよね。でも、これを繰り返せば、呪法の習得が出来るんじゃないかしら」

「そうね。たぶん習得出来るわ。ずっと補助輪を付けていたら、他プレイヤーとの連携前提の呪法になりそうな気もするけど」

「その時はその時じゃないかしら。検証だし」

「まあ、そうね」

 これで後は呪法として習得できるかどうかだ。

 私たちは検証を続けつつ、さらにダンジョンの奥へと進んでいく。

 そして気が付けば、ボス戦が行われる場所の手前まで来ていた。

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