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257:トライアルデザート-3

「タル自身も配信で言っていたけど、本当にオーバーキルがオーバーキルになった感じね。もう少し相手にタフさが欲しいわ」

「そうね。まあ、分かっていたことだけど。で、タフな相手って具体的には?」

「タル様の呪法込みの邪眼術を当てるにふさわしい相手となると……ボスくらいだと思います」

 『試練・砂漠への門』の探索は順調である。

 私とストラスさんは床に仕掛けられた罠を無視できるし、ザリアは後続の手伝いとして何度か探索したことがあって、罠への対処が出来るからだ。

 で、モンスターを使った検証については……とりあえず私が配信中に自分で検証した範囲の事は改めて示すことが出来た。

 私が思うところの呪法についても、既に説明済みである。


「ボスねぇ……緑小人の長とかそんな感じかしら?」

「そこはタル様の楽しみのために黙秘します」

「同じく」

 なお、『試練・砂漠への門』出現するモンスターは、全て武装した緑小人……人によってはゴブリンとも呼ぶモンスターである。

 緑小人は種類が多いが、身に着けているものと行動によって、その職業が判断出来る。

 大多数は戦士系で、金属製の武具に身を包んで徒党を組んで行動している。

 時々混ざっている術士系なら布系の装備に身を包んで、杖から呪いをそのまま放つタイプの呪術を放って攻撃や支援をする。

 時折単独行動しているのは、罠師や斥候、盗賊とでも称すべき個体で、これらは革装備だ。

 一集団の数は5~10程度だが、連携は拙く、一体一体の能力は同レベル同装備のプレイヤーに比べると、体格が小柄なのもあって少し低め。

 状態異常への耐性は特になし。

 まあ、ザリアとストラスさんなら通路の狭さを利用すれば、一人でも対処できるレベルである。


「それにしても汎用的な工夫の内容はともかく、自分の意思で周囲の呪詛を利用する。と言うのが難しいわね。タルはどうやったの?」

「うーん……私の場合はそもそもとして、称号を獲得できるレベルで周囲の呪詛濃度を弄れるのよね」

「称号ですか。関わりはありそうですね」

「そうね。確かにありそう」

 話を呪法に戻そう。

 今はどうやれば、呪法を習得できるかについてだ。

 まず、どのような呪法を作り出すかについては、組み合わせる呪術がそれぞれに違うので、各自で考えてもらうしかない。

 だが、ストラスさん曰く、私たちの配信を見つつ、呪法習得の為に動いている検証班の面々からは、今のところ習得の知らせは来ていないそうだ。


「で、タルはどうやって、それだけの呪詛を操れるようになったの? たぶん、そこで引っかかっているプレイヤーが多いと思うんだけど」

 そして、ザリアとストラスさんも習得は出来ていない。

 ザリアなどは試しに周囲の呪詛を自分の手元に集めようとしているのだが、上手くいってないようだ。


「どうやってと言われても……あー、そうね。そうだったわ」

「何か心当たりが?」

「ええ、心当たりがあったわ。私の場合、邪眼術が対象周囲の呪詛濃度に影響を受ける=対象周囲の呪詛を操っている。と言う下地があるわ。それに装備品も周囲の呪詛濃度に影響を及ぼすものが多いから、それの影響で干渉がしやすくなっているのかも」

「あー……なるほど……」

 私とザリアたちの差は何かと考えたら、まあ色々とある。

 異形度、習得呪術、習熟度なんかもあるだろうか。

 だがよく考えてみれば、一番影響があるのは装備品かもしれない。

 私の身に着けている装備品の大半は、周囲の呪詛濃度に影響を及ぼすものだ。


「と言うか、私の周囲だと、私の影響で呪詛の霧に干渉しづらくなっているかもしれないわね。何時でも剣を作れるように、最近は周囲の呪詛の霧を常に意識しているから」

「なるほど。でも、その点については、実戦を考えると、味方であるタル様の近くで使えるくらいでないと、敵に通用しない気もするので、問題はないかと」

「そうね。そもそも、先日のイベントのブラクロの時にタルが呪法を習得出来ていないことを考えると、ある程度は相手の干渉下にある呪詛の中で発動出来ないと、習得できないとかもあるかもしれないわ」

「ああ、無いとは言えないわね。今ザリアが言った条件は。でも、うーん……」

 ザリアの指摘は的を射ている可能性がありそうだ。

 習熟度や私の意識の明確化もあるだろうが、周囲の呪詛を操れる者同士の戦いでないと閃けないと言うのは、反例が出てこない限りは否定できないだろう。


「そう言えば、タルはその剣を作り出せるようになるまでに、何時間くらいかかったの?」

「ん? あー……球体、紡錘形、円錐、涙滴型、立方体と作っていって、それらがある程度意識を反らしても形を維持出来るようになってからだから……それなりにかかってはいるかもしれないわね」

「なるほどね。当たり前だけど、一朝一夕では到達できない技法と言う事ね」

 余談だが、今私が作っている呪詛の剣は特に飾りのないシンプルなデザインの長剣となっている。

 これは、呪詛の霧を固めただけなのでデザインの変更は容易だが、その変更したデザインを保ったまま素早く剣を動かすと言うのが出来なかったからである。

 もしかしたら、剣と言うカテゴリーの中でもより適したデザインに出来れば、『呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』の効果も上がるのかもしれないが……それをやるなら、デザインの明確化と固定の為に、模型の剣を木材か何かで作る事から始める事になるだろう。


「そうなるわね。ああ、慣れればこれくらいのことは出来るわよ」

「「……」」

 私は両手の甲を自分の方に向けつつ、両腕をまっすぐ前に伸ばす。

 そして、全ての目を胸の前、腕の間に向けると、そこに呪詛の霧を集めて、平行な辺のない四角形からなる多面体…… 凧形二十四面体、トラペゾヘドロンと呼ばれる形を作り出す。


「二人ともどうかしたの?」

「とりあえずその形は不吉だから消しておきなさい。タル」

「そうですね。止めておいた方がいいと思います」

『消すでチュよたるうぃ。何を招くか分かったものではないでチュ』

「まあ、そこまで言うなら消しておくけど」

 ザリア、ストラスさん、ザリチュが警戒しているのは某神話のアレと被るからだろうか?

 うーん、あの形のまま物質化したりしなければ大丈夫だとは思うのだけど、まあ、止めておくか。

 と言うわけで、跡形もなく霧散させた。


「えーと、此処から先は……」

「ボスまでは私とザリア様で呪法を考えて、試してみましょうか。移動中は周囲の呪詛への干渉を試みてみましょう。先ほどの推測が正しいなら、タル様の近くでならば、何かあるかもしれません」

「そうね。そうしてみましょうか」

 そうして雑談のようなものを挟みつつ、私たちは検証作業を進めながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。

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