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255:トライアルデザート-1

「では、草原のセーフティーエリアに飛びましょうか」

『久々に『ダマーヴァンド』の外でチュねぇ』

 日曜日。

 ログインした私は『ダマーヴァンド』から草原のセーフティーエリアへと転移した。

 そして、念のために毒噛みネズミの毛皮で異形部分を隠した上で、個人用のセーフティーエリアの外に出た。


「「「……!?」」」

「ん?」

『一瞬、微妙にざわついたでチュね』

 草原のセーフティーエリアに出た瞬間。

 周囲の人々が一瞬ざわついたのが見えた。

 最初はNPCが私の姿を目撃してしまって、発狂してしまったのかと思ったが、見た限りではプレイヤーしか居ない。

 うんまあ、それならば問題はないか。


「さて、ストラスさんを探しましょうか……」

「タル様!」

「探す必要はなかったわね」

『まあ、タルは目立つでチュからね』

 ストラスさんが私の方に向かって地面の上を滑ってくる。

 今は集合時間の五分前なのだが、ストラスさんも既に来ていたらしい。


「タル様、今日はありがとうございます」

「こちらこそ攻略の協力、ありがとうね」

「いえいえ、先日のインタビュー含め、タル様からの情報提供のおかげで検証班はいつも助けられてばかりなんです。なので、コレぐらいはむしろさせてくださいと言うぐらいです。では、まずは『試練・砂漠への門』へと向かいましょう」

「分かったわ」

 では、早速移動開始である。


「さて、タル様は『試練・砂漠への門』についてはどの程度ご存じですか?」

「そうね……掲示板に載っている概要ぐらいは知っているわ」

「つまり詳細を除く、一通りは分かっていると言う事ですね」

 私たちは草原を西に向かって真っすぐに移動していく。

 二人とも空中浮遊の呪いを持っていて、此処が基本的に障害物のない草原と言う事もあり、移動スピードはかなり速い。

 そうして、一時間もすれば周囲の草原がクレーターのある荒れ地に変わって、爆発音が聞こえてくるようになった。

 1キロと少し離れた場所には石造りの砦のような物があるのが見える。


「この爆音は『試練・砂漠への門』がある砦から降り注ぐ砲弾によるものですね。直撃をすれば、マントデア様でもタダではすみません。ですので、砲弾が降ってこない。あるいは降ってくるペースが遅い場所を縫って、砦に近づくことになります」

「ふうん……砦を破壊して、砲撃を止めようとは思わなかったの?」

「突破プレイヤーたちで一度は考えたことがありますね。ですが、幾つかの理由から断念と言うか……取りやめました」

 砦から黒い砲弾が高速で飛んでくる。

 そして地面に着弾、爆発し、周囲に爆炎と衝撃を撒き散らす。

 うーん、爆炎については今の私の耐性ならば直撃しても大丈夫だろうが、衝撃で少なくないダメージを受けるだろうから、受けないように気を付けた方がよさそうだ。


「理由ねぇ。具体的には?」

「一つは単純に破壊困難であったことですね。砲台を破壊するのに必要なダメージ量が、マントデア様とザリア様、他数名の攻略組が十分なバフをかけた上で数分間攻撃し続けてようやく壊れるレベルであり、しかも壊しても数分で元通りになるんです。で、それが数十門。壊す気になりますか?」

「それは流石にならないわねぇ……」

『それはマトモに相手をしたいとは思えないでチュねぇ……』

 ストラスさんの先導で私は砦に近づいていく。

 時には岩陰に隠れ、時にはクレーターの陰に隠れてで、砲弾を避けつつ慎重に近づいていく。


「でもそれ以上にあの砦を破壊できない理由としてあるのは、あの砦が防波堤だからです」

「防波堤?」

「あの砦の先には第二マップである砂漠があります。そして砂漠と言うのは現実に即して言えば……」

「拡大していく、か。それをあの砦が防いでいるのなら、確かに破壊するわけにはいかないわね」

 徐々に砲撃が激しくなっていく。

 まるで私の接近を拒むかのようだ。

 それにしても防波堤か……もしかしなくても、第二マップから第一マップへモンスターがやってこないようにする、と言う意味でも防波堤なのかもしれない。

 それならば、破壊してしまう方が危険であるし、不利益も多そうだ。


「ちなみに他の方角の試練がある場所についても、同様の存在理由を持っていると考えられています。なので、破壊は厳禁である、と言うのが攻略組の総意ですね」

「なるほどね。あ、そう言えば異形度10以上なら、核さえ見つければ攻略したダンジョンを乗っ取れるのだけど、『試練・砂漠への門』ではどうなの?」

「『試練・砂漠への門』の核は未発見ですね。ただ、例え核を見つけても、場所の重要性上、乗っ取れないのではないかと言う予想が立てられていますね」

「ふうん、そうなの……」

 うーん、待ち時間が長い。

 これ、無理やり砲撃を止める事は出来ないのだろうか?

 ちょっと試すか。


「ちっ、面倒ね。正面突破するわ。『灼熱の邪眼・1(タルウィスコド)』」

「タル様!? いや、確かにタル様なら出来そうですけど!?」

『まあ、たるうぃなら飛ばしてくる場所も、飛んでいる砲弾も見えているし、撃てるでチュからね』

 私は飛んでくる砲弾に『灼熱の邪眼・1』を一つの目で撃ち込んだ。

 すると砲弾は空中で爆発、他の砲弾も巻き込みつつ、消えた。

 そして、砲撃の雨に隙間が生じたので、私は砦に向かって真っすぐに進んでいく。


「あ、さっきまでの話でもう一つ気になったことがあるんだけど、いいかしら?」

「何ですか?」

 私は自分に向かってきそうな砲弾だけを空中で爆発させつつ、砦に向かっていく。

 こうやって遠距離攻撃を利用したごり押しをすると、案外砲撃には間隔があって、『灼熱の邪眼・1』のCTでも問題はないようだ。

 なので堂々と、隠れることなく、多少速足で正面から近づいていく。


「サクリベスから見て南西の方角、砂漠、草原、ビル街、火山、四つのエリアが交わる点ってどうなっているのかしら?」

「ああ、その場所ですか。その場所は『試練・砂漠への門』と南の試練、両方を攻略しないと接近できない場所になっています。で、調査したプレイヤーの話によれば、ダンジョンもなかったそうですよ」

「ふうん、そうなの」

「ええ、なので裏鬼門の方角だからと特に何かがあるわけではないようです」

 砦まで後200メートルほどか。

 弾幕が流石に厚くなってきて、『灼熱の邪眼・1』だけでは間に合いそうにないか。

 まあ、問題はない。


「でもタル様なら別の何かが見つかるかもしれないですし、条件を満たしたなら行ってみてもいいかもしれませんね」

「なるほどね」

 と言うわけで、『灼熱の邪眼・1』と『気絶の邪眼・1』を駆使して砲弾を潰しつつ、一気に砦へ接近。

 攻撃が止む砦から50メートルのラインまで一気に接近した。


「タル様到着です。ここが『試練・砂漠への門』です」

「みたいね」

『やったでチュー』

 そうして私は『試練・砂漠への門』へ到達。

 石造りの砦に付けられた木製の門に触れると、私は砦の中へ移動した。

10/13 文章改稿

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