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254:ヒートビートタイニー-4

「再ログインっと」

『昼食はどうだったでチュか? あ、メールが来てるでチュ』

「勿論美味しかったわよ」

 さて午後である。

 メールは……ストラスさんからか、明日の検証でどこの試練を攻略するかを尋ねるメールだ。

 んー……まあ、とりあえずは砂漠に繋がる奴にしておこう。

 で、そうなると集合場所は草原のセーフティエリアになる、と。

 これで集合時間含めて、事前に決めるべき案件は決まったか。


『で、午後はどうするでチュ?』

「んー……まずは午前中に作った装備の検証ね」

 では午後の作業開始。

 まずは新たな呪詛纏いの包帯服と熱拍の幼樹呪の腰布の装備効果がどれほどのものであるかを確かめる。


「と言うわけで『毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』」

 なので私はまず自分に向けて1つの目で『毒の邪眼・2』を放ってみた。


『……。何も起きないでチュね』

「……。弾かれたわね。たぶん」

 が、『毒の邪眼・2』は確かに私に向けて発動したのに、効果が表れなかった。

 どうやら二つの装備品の毒耐性関係の効果のどれかに引っかかったらしい。


「ようし、少し真面目に考えましょうか」

 まず私の周囲の呪詛濃度は19。

 よって『毒の邪眼・2』は目1つにつき29+αの毒を私に与える。

 装備品の防御効果は全ての装備が十全に効果を発揮するとするなら、毒無効(30)、二重の極めて高い耐性、二重の高い抵抗性とやらだ。

 が、私の邪眼はこれらの防御効果を削減する働きを持っている。

 また、『身に着けているものの全身にこれらの効果の一部が発揮される』と言う表記は、どう攻撃されても必ず効果が発揮されると言う意味でもあるが、裏を返せば防具が関われる形で攻撃を受けないと一部しか効果が出ないとも言える。


「んー……まずは何度か撃ち込むべきね」

『まあ、そうなるでチュよね』

 と言うわけで、私は何度か自分に『毒の邪眼・2』を撃ち込んでみた。

 結果、適当に私の体のどこに毒がいってもいいと言う考えで撃ち込んだ場合は、おおよそ50%ぐらいの確率で無効化され、いざ毒が入ると毒(4)前後が付与された。

 えーとつまりだ。


「前から思っていたけど、状態異常付与に対する判定は三段階なのね」

 まず、抵抗性の部分で毒そのものが入るか入らないかが判定される。

 これは普通の攻撃で言えば、命中と回避の部分で、抵抗に成功すれば攻撃そのものを回避したことになる。

 命中が確定したら、次に耐性部分で判定し、受ける量を耐性に応じて割合で増減する。

 これは普通の攻撃でも同じだろう。

 最後に無効部分で判定して、受ける量を固定値で減らす。

 普通の攻撃で言えば、防御力のような物だろうか。


『要するに新防具凄い。で、いいんでチュ?』

「うんまあ、それでも間違いではないわね。全身を狙うタイプの毒で、私の邪眼術のような耐性削減効果がなければ、ほぼ確実に毒を弾いているわけだし」

 とりあえずザリチュの言うことは間違いではない。

 タルと言うプレイヤーを対象に狙った場合には、タルが身に着けている全ての装備品の防御効果が十全に適応されて、毒の効果が大幅に削減されているのだから。


「逆に言えばっと。『毒の邪眼・2(タルウィベーノ)』」

 続けて私は自分の下腹部の辺りに狙いを付けて、その内側に毒を生じさせるイメージで『毒の邪眼・2』を撃ち込んだ。

 すると毒はあっさりと入り、受けた毒のスタック値は20となった。


「ああなるほど。多少の効果は出ているけど、明らかに防げる量が減ったわね」

 その後何度か試してみたが、体の特定部位を狙う形で『毒の邪眼・2』を撃ち込むと、抵抗性を含め、装備品が発揮する耐性の量が減るのが確認できた。

 どうやら、『身に着けているものの全身にこれらの効果の一部が発揮される』のおかげで素通しではないようだが、防具の効果が落ちているようだ。


『これ、悪用出来るでチュかね?』

「悪用出来るわね。毒耐性防具で全身をガチガチに固めても、体の特定部位にのみ毒を通すイメージで邪眼を撃てば、その効果の大半を無視できるってことだから」

『でも、どうしてこうなっているでチュ?』

「それについては、毒の牙による噛みつきからの毒注入とかとの兼ね合いじゃないかしら。毒の牙が命中して、確実に毒が注入されたのに、毒が効果を発揮しない。と言うのはおかしいから」

 うん、今後は耐性関係については、『身に着けているものの全身にこれらの効果の一部が発揮される』と言う類の文言がなければ、信用できないものと思っておこう。

 その文言がないと、防具を身に着けていない部分に攻撃が当たると、あっさり素通しすることになるわけだし。


『ちなみに胃袋の中に毒を放ったらどうなったでチュ?』

「完全に無効化したっぽいわ。たぶん、食べ物の中に毒が含まれている判定になったんでしょうね」

 これについては完全に余談である。

 『毒を食らわば皿まで・3』が効果を発揮しただけだ。


「こうなると、毒耐性も捨てて、熱と乾燥に特化して着用者を守れる装備品が『熱樹渇泥の呪界』では欲しくなるわね」

『ああ、そう言うのがないと、身に着けていない部分から燃えたり、ミイラになったりするんでチュね』

「そういう事よ」

 とりあえずこれで新たな装備品を作る必要があるのは確定した。

 と言うわけで、私は熱拍の幼樹呪の糸だけを使った布を織ると、それで翅を通す為に背中部分が開いたコートを作成。

 そのコートの表部分に熱拍の幼樹呪の赤樹脂を火で柔らかくしてくまなく塗っていく。

 留め金については、毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻を加工したものを使用。

 最後に呪怨台で、熱と乾燥に特化して身を守る事、身に着けていない部分にも効果が出るように願い、呪った。

 そうして出来上がったのがこれである。



△△△△△

熱拍の幼樹呪の外套

レベル:21

耐久度:100/100

干渉力:100

浸食率:100/100

異形度:13


熱拍の幼樹呪の繊維と垂れ肉華シダの蔓の繊維を織って外套にし、熱拍の幼樹呪の赤樹脂を塗ったもの。

灼熱無効化(5)、灼熱に対して極めて高い耐性、灼熱に対して極めて高い抵抗性を有する。

火炎属性攻撃無効化(小)、火炎属性攻撃に対する極めて高い耐性を有する。

乾燥無効化(5)、乾燥に対して極めて強い耐性、乾燥に対して極めて高い抵抗性を有する。

周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。

身に着けているものの全身と装備品に、これらの効果の一部が発揮される。


注意:着用中、氷結属性への耐性が低下する(極大)

注意:着用者の異形度が14以下の場合、1時間ごとに(15-着用者の異形度)だけHP、満腹度が減少する

▽▽▽▽▽



「うんまあ、これなら、大丈夫そうね」

『むしろコレで駄目なら、どうしようもないと思うでチュ』

 何と言うか、私が思っていた以上の代物が出来てしまったかもしれない。

 とりあえずこれを身に着けている間は、他の防具の効果もあるので、熱と乾燥については心配しなくてもよくなりそうだ。

 ただ、普段使いは……止めておこうか。

 防具としての効果は局所的と言う他ないし、その他の攻撃を防ぐ能力もないだろうから。


『これを身に着けた状態で氷結属性の攻撃を食らったら、どうなるんでチュかね?』

「んー……骨が残ればいい方じゃないかしら? 試す気はないけど」

『まあ、それくらいにはなりそうでチュよね。試す必要はないでチュが』

 よし、とりあえずの使いどころは、『熱樹渇泥の呪界』、砂漠、火山と思っておこう。


「じゃ、糸の量産も済んだようだし、今日は早めに休んでおきましょうか」

『分かったでチュ』

 最後に私は量産用アイテム一式の登録を熱拍の幼樹呪の糸から斑豆に戻すと、ログアウトした。

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