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251:ヒートビートタイニー-2

「では、熱拍の幼樹呪の解体ね」

「『何気に『ダマーヴァンド』深部の初公開でチュかね?』」

「かもしれないわね」

 『ダマーヴァンド』に戻ってきた私は、以前用意した解体場に移動した。

 だが直ぐには解体を行わない。

 これから行う解体で必要になるであろう広さを考えると、この解体場のサイズは、横については十分だが、高さが足りないのだ。

 と言うわけで、ダンジョン構造を操作して、解体場の高さを十分な高さにする。

 ああそれと、解体場の床の一部を突起と言う形で上げて、熱拍の幼樹呪が簡単に転がらないようにもしておこう。

 念のためだ。


「じゃあ、出しましょうか」

「『気を付けて出すでチュよ。油断していると潰されかねないでチュからね』」

 私は毛皮袋を腰から外すと、片手を中に入れる。

 そして中に入っているそれを掴むと、重さを感じないまま、慎重に、ゆっくりと外へ出していく。


「……」

 先端が出てくる。

 それから、大きさも重さも無視して、私の手と同じくらいの長さまで出てくる。

 この時点で私は熱拍の幼樹呪の先端を床に付け、毛皮袋を両手で持ち、ゆっくりと後退するように出すことにした。


「『これはまた奇妙な光景でチュねぇ』」

 熱拍の幼樹呪が出てくる。

 まるでところてんか何かのように、毛皮袋から膨らむように出てくる。


「ふう、出せたわね」

『でチュねー』

 そうして無事に熱拍の幼樹呪は毛皮袋の外に出せた。

 うん、分かってはいたが大きい。

 幅おおよそ3メートル、長さ5メートル、両端が尖った六角柱と言うのは、本当に大きい。


「さあ、此処からが本番よ」

「『まずは赤樹脂でチュかね?』」

「そうなるわ」

 私は歯短剣を抜くと、熱拍の幼樹呪の表面に浮かんでいる赤樹脂を剥ぎ取っていく。

 熱拍の幼樹呪自身が死んでいるし、床とも接しているので、『熱樹渇泥の呪界』で剥ぎ取るのと違って、難なく取れていく。

 で、私には空中浮遊と虫の翅の呪いがあるので、上の方にある赤樹脂も特別な道具なく取ることが出来ている。

 床と設置している面を除く五面から剥ぎ取った赤樹脂はまとめると、私の頭数個分に及んだ。

 鑑定結果も以前回収したものと変わらない。

 これだけあれば、売りに出したりしなければ、困る事はないだろう。


「次は樹皮ね」

「『熱拍の幼樹呪から剥ぎ取れるメイン素材でチュかね?』」

「たぶんそうなるわ」

 私は続けて樹皮を剥ぎ取っていく。

 熱拍の幼樹呪が死んでいるおかげか、少し切れ目を入れると、その切り目から一気に全体を剥がせる。

 正直気持ちいい。

 そうして剥ぎ取った樹皮はそのまま使う気はないので、解体場に毒液を溜め込んでおける水槽を設置すると、そこへ取った端から放り込んでいく。

 これでリアル時間の明日の朝には、いい感じにふやけて、繊維を取り出せるようになっているはずだ。


「ふふふ、大量ねー」

「『これだけあれば、だいたいの衣服は作れそうでチュね』」

 取れた繊維の量は……正直数える気にもならないぐらいには多い。

 ザリチュの言う通り、量的には何でも作れるだろう。

 うん、垂れ肉華シダの蔓からとった繊維と組み合わせて糸にし、呪怨台で呪って一体化、その上で布にして、各種装備品を作ったら、一体どこまでスペックが上がるのか。

 今から楽しみで仕方がない。


「さて、問題はここからね」

「『木材。になるんでチュかね』」

「たぶんそうなるわ」

 さて、此処までの作業によって、熱拍の幼樹呪は一面を残して丸裸になった。

 樹皮を剥がされた熱拍の幼樹呪の表面は白く、美しい。

 この状態なら、きっと鑑定結果も木材のそれに変わるだろう。

 と言うわけで鑑定。



△△△△△

熱拍の幼樹呪の木材

レベル:17

耐久度:100/100

干渉力:110

浸食率:100/100

異形度:13


熱拍の幼樹呪の体だった木材。

熱に対して極めて強い性質を持つ。

軽くて丈夫だが、それ故に加工の難易度は高い。

▽▽▽▽▽



「軽くて丈夫、熱にも強いね。では、こうしましょうか。『出血の邪眼・1(タルウィブリド)』」

 私は『呪法(アドン)増幅剣(エンハンス)』を発動しつつ『出血の邪眼・1』を使用。

 両端の尖っている部分を切りつける。

 そして軽く叩くと、爆音と共に熱拍の幼樹呪の両端が切り落とされる。


「ん? これは……」

「『中心部分だけ性質が違う感じでチュかね?』」

 切断面を見た私は、熱拍の幼樹呪の中心部分が周りに比べて明らかに赤い事に気づく。

 年輪が存在せず、他の場所は木材か疑いそうなくらいに白いのに、中心部の10センチほどだけが真っ赤なのだ。

 これは確実に何かがあるだろう。


「先に性質を確認しましょうか」

 幸いにして、先ほど切り落とした両端部分にも少しだけ赤い部分は含まれている。

 なので私は周りの白い部分を削ぎ落して、赤い部分だけを回収すると、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

熱拍の幼樹呪の心材

レベル:20

耐久度:100/100

干渉力:120

浸食率:100/100

異形度:18


熱拍の幼樹呪の体だった木材の中心部分。

高温に反応して脈打ち、脈打ちに反応して熱波を放つ。

金属のように堅くて丈夫、熱にも強いが、加工の難易度も高い。

▽▽▽▽▽



「……。気合を入れつつ、慎重に切り刻むしかないかしらね」

「『まあそうなるでチュね』」

 これが地獄の始まりだった。

 熱拍の幼樹呪の心材を傷つけずに、その後の利用が可能な形で木材を切り取ると言えば簡単だ。

 だが私は一人で、しかもこういう事柄に使えそうな大型ノコギリの類は持ち合わせていなかった。

 ひたすらに『出血の邪眼・1』を『呪法・増幅剣』と組み合わせて撃ち込み、切り刻むほかなかったのである。

 はじけ飛ぶ木片で死にかけた事は勿論のこと、サイズの割に軽いせいで出血の爆発で傾いた樹に押しつぶされかけもした。

 『出血の邪眼・1』の使い過ぎで、満腹度が底を尽きかけもした。

 切り取った木材の移送は重労働で、一つ動かすのにも時間をかける必要があった。

 そして最後には……。


「『がんばれ、がんばれ、でチュ』」

「ふふふふふ……やすり掛け……ひたすらやすり掛け……」

 心材に付いているただの木材を細工用アイテム一式で剥ぎ取り、削っていくと言う地道極まりない作業だった。

 その作業のツラさは苦行と言う他ない。

 救いは、この作業を終えれば、必ず未知なる有用アイテムを得られると言うのが分かっている事か。

 それでもなおツラいが。


「お、終わったわー……ああ、疲れた……もう次からは素直に何処かの業者に持ち込みましょう。これは一人でやる作業じゃないわ……」

「『そう言って新種のモンスターの解体の時は、また一人でやるんでチュね。分かりまチュ』」

「それはまあ、何も見逃したくないし、当然でしょ。じゃ、今日はここまでで。明日は配信無しね。たぶんだけど」

 こうして私は大量の赤樹脂、樹皮、木材、そして長さ4メートルはある心材を手に入れ、配信を停止するとログアウトしたのだった。

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