250:ヒートビートタイニー-1
「配信開始っと。まあ、今日は動きが少ない配信になりそうだけど」
「『狙っている相手が相手でチュからねぇ』」
『熱樹渇泥の呪界』に移動した私は、もはや出入り口用と化した熱拍の幼樹呪を後にすると、別の個体を探して空を飛び回る。
で、無事に発見したので、上に着地する。
「鑑定っと」
では、今回のターゲットについて見てみよう。
△△△△△
熱拍の幼樹呪 レベル17
HP:102,527/102,527
有効:なし
耐性:灼熱、気絶、沈黙、小人、脚部干渉力低下、恐怖
▽▽▽▽▽
「HP10万ちょっと。えーと、スタック値500の毒を維持して、ダメージ判定200回。2,000秒ニアリィイコール34分と言うところね」
うんまあ、相変わらずのHP量とサイズだ。
しかも、これで下手に手を出すと熱拍の変異樹呪になると言うのだから、厄介なものである。
熱拍の変異樹呪の素材が欲しくないと言ったら嘘になるが、今は熱拍の幼樹呪の素材が欲しいので、何かしらの対策を講じなければならない。
「『四桁の毒を維持してもいいんでチュよ?』」
「そっちはまあ、可能ならで」
しかしだ。
この手のダメージに反応して変形するタイプのモンスターには、定番とも言える対処法が存在している。
そう、毒によるスリップダメージだ。
試す価値は大いにあるだろう。
「では、『
私は『
深緑色の閃光が放たれる。
結果は……毒(714)。
「……。目標数値を一回で超えてしまったわね」
「『色々と組み合わさった結果とは言え、凄まじいでチュねぇ』」
ちょっと計算。
これを放置しておけば……毒が消えるまでに25万ダメージにはなるか。
完全にオーバーキルだ。
「うーん、これはアレね。ゲーム特有の先に進むほどに数字がインフレしていくやつ。これを見ると、邪眼の強化と呪法の習得の重要性がよく分かるわ」
「『邪眼の強化をした事を言ってもいいんでチュか? 配信中でチュよ』」
「いやぁ、流石にこの数では誤魔化しは効かないわよ。明らかに昨日までとは違うもの。では二発目、『
オーバーキルだが、時間の短縮を狙うのはいいだろう。
と言うわけで、二発目を撃ち込んで、毒のスタック値を1,312まで伸ばす。
「変化は……見られないわね。やっぱり毒でダメージを与えるのが正解そうね」
熱拍の幼樹呪は毒が重症化したのか、微妙にふらついており、上に座っている私の体も前後左右に揺さぶられる。
しかし、熱拍の変異樹呪になる気配は見られない。
やはり毒のダメージで落とすのが正解そうだ。
「『しかし暇でチュね。何かやらないんでチュか?』」
「そうねぇ……」
私は周囲の警戒をしつつ、掲示板を眺め始める。
んー……特に面白い情報は……あるな。
第二マップの情報がチラホラと出てきてる。
西は砂漠、北は雪山、東は海、南は火山、そこに出現するモンスターの内容や採取できるアイテム、発見されているダンジョン。
それから、それぞれの第二マップのギミックと対抗策も出てきてるわね。
「へぇ、それぞれのマップに合わせた対策アイテムの所有ねぇ」
どうやら第二マップに入るための試練。
その試練で出現するボスのドロップ品と、第二マップのアイテムを組み合わせる事で、第二マップに立ち入ったプレイヤーを害する呪いから逃れられるようになるらしい。
これらのアイテムがない場合には、砂漠に対するザリアのように、適応できるようになる呪いを持っていなければ、容赦なく排除されるようだ。
「あ、カースのまとめも出てる」
先日の第二回公式大会の予選で出現したカースについてもまとめられている。
これによると、第二回公式大会では蟹、牛、蠍、花を基本モチーフとしたカースが出現していたらしい。
蟹については私が呼び出してしまった通りで、全身兵器の砦のような蟹だ。
牛については燃える糞尿と爆発する岩を撒き散らしていたらしい。
蠍は詳細不明だが、砂嵐は呼び出す事が可能だそうだ。
花は雪と氷を操っている姿が目撃されているようだ。
うーん、こいつらもいずれ戦うのだろうか。
と言うか、なんとなくだが、第二マップに潜んでいるカースはそのままコイツらな気がする。
「……」
「『どうしたでチュか?』」
「いえ、何でもないわ」
なお、その考えで行くと、第一マップには北の『蜂蜜滴る琥珀の森』の蜂型カース、南の『ダマーヴァンド』の仮称アジ・ダハーカ以外にも、東西に一体ずつ存在してしまうことになる気もするが……まあ、口には出さないでおこう。
第一マップに居るが、実力は明らかに第二マップよりもさらに先の連中だし。
「さて、そろそろ時間かしらね」
私は熱拍の幼樹呪に『鑑定のルーペ』を向ける。
△△△△△
熱拍の幼樹呪 レベル17
HP:1030/102,527
有効:なし
耐性:灼熱、気絶、沈黙、小人、脚部干渉力低下、恐怖
▽▽▽▽▽
「あ、ヤバい。想像以上にギリギリだった」
「『もう次で死ぬじゃないでチュか』」
私は慌てて熱拍の幼樹呪の下に移動すると、腰に提げている毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋の口を広げ、熱拍の幼樹呪の株の先端が口の中に入るようにした。
そして、熱拍の幼樹呪にトドメの毒ダメージが入った瞬間。
「ふう、危ない危ない」
「『無事回収でチュね』」
死体と化した熱拍の幼樹呪は毛皮袋の中にサイズも重さも無視してスルリと入っていった。
「じゃあ、今日はもう帰って、熱拍の幼樹呪の解体を始めましょうか。呪限無脱出シーンは見せられないけど、解体シーンはグロくもないし、見せるわね」
と言うわけで、私は『ダマーヴァンド』に帰った。
そして、この時の私は思ってもいなかったのだ。
あのような地獄が待っているとは。
09/15誤字訂正
10/16誤字訂正