248:タルウィベーノ・2-2
「……っ!?」
「目覚めたか」
私は目を覚ました。
そこは白一色の空間であり、私の前には、腰ぐらいの高さの台が置かれていた。
そして台の上には蘇芳色の六本脚のトカゲが乗っていて、こちらを見ていた。
「単刀直入に言わせてもらおう。『禁忌・
見た目だけならば『
だが、あのトカゲほどの恐怖は感じない。
たぶん、別人ならぬ別トカゲなのだろう。
「返事は?」
「分かりました。毒の邪眼の強化以外では、アイテム作成で『禁忌・
「よい返事だ」
トカゲは口の端を歪めて、笑ったような姿を見せる。
やはり別トカゲだな。
あのトカゲなら、たぶん私が素直に受け入れる方が怒りを買うだろう。
まあ、別トカゲからのではあるが、警告については受け入れておくか。
たぶん、運営からのメッセージだろうから。
「では本題だ。これより貴様には『毒の邪眼・2』を習得するための試練を受けてもらう」
さて、今更な話だが、今の私は低異形度アバターかつ装備品なしの状態。
『恐怖の邪眼・3』習得で飛ばされた精神空間の状態に極めて近い。
が、この姿を保つ強制力はあの時よりも強いらしく、イメージしても異形度が上がるようなことはない。
運営は対策をしたようだ。
「が、貴様のような愚者に対しては、痛みや不快感を与えるような試練は意味がない。喜ばせるだけだからな。空虚感の類にしても経験済みであり、今更だ」
「ついでに言えば、現実に後遺症の類が残るほどに強烈な物はゲームとしての制約上、施すことは出来ない?」
「忌々しいがその通りだ。つまり、貴様に出す試練はこうする他ない」
トカゲが台の端に寄ると、台の上に八本の形の異なる瓶が出現する。
瓶の中にはそれぞれ別の色の液体が入っているようだ。
それと同時に毒(50)が私に付加されて、HPバーが削れ始める。
「これは……論理問題の類かしら?」
「その通りだ。ルールを説明する」
トカゲがルールを説明する。
・八本の瓶の内訳は、一口でも飲めばあっという間に死に至る毒液が一本、一口でも口に含めば瞬時に夢から目覚める薬液が一本、ただの色が付いた水が六本。
・夢から目覚める事で『毒の邪眼・2』が習得できる。
・夢の中で死んだら習得失敗。
・トカゲに「YES」か「NO」で答えられる質問を3回まで出来る。
・当たり前だが、問題文に嘘偽りはないし、トカゲは質問に正しく答える。
「ふうん……」
まあ、マトモな解法でいいなら、100%解ける論理問題だ。
2分の1を3回繰り返せばいい。
いや、瓶の内訳をきちんと読めば分かるが、質問をする必要すら本当はないのかも、その方法だと流石にリスクはあるが。
「さあどうする?」
でもまあ、なんにせよ、今思いついた二つの方法では……面白くない、未知が足りない、つまらない。
私らしく遊ばせてもらおう。
「じゃあ、質問1。瓶の中身の液体が混ざった時、液体の効果は両方とも引き継ぐ?」
「は? あー、YESだ」
「質問2。毒と薬を同時に飲んだ時、薬の効果が先に発揮される?」
「イ、YESだ。まさか貴様……!」
「質問3。薬の効果が発揮されるまでに、毒の効果で少しだけ苦しくはなるのかしら?」
「YES……」
私は八本の瓶の中で一番容量が多い物を手に取ると、その中身を幾らか捨てた上で、他の瓶の中身を少しずつ注いで、ブレンドしていく。
その光景にトカゲは目に見えて焦っているが、もう液体は混ざってしまった。
水を分ける事は不可能なので、もう元に戻すことは出来ない。
「ぐ、正気か!? 毒も薬も同時に飲み干すなど……」
「イエース、アイドゥー。折角、一口分を胃に収めれば即死なんて言う、とんでもない毒を飲める機会があるのよ。だったら飲んでみたいじゃない? 勿論、『毒の邪眼・2』も習得させてもらうけど」
「狂っている……狂っているぞ貴様は……」
「誉め言葉ね。でもまあ、貴方は未把握でしょうけど、運営としてはこの程度は想定の範囲内でしょうね。貴方の答えには、試算に伴う遅延は見られなかったから」
よし、瓶の中身はよく混ざって、ヘドロのような色合いになった。
ねっとりとしていて、見るからに体が悪そうだ。
「ああ、そうだ」
「なんだ? 質問ならもう受け付けんぞ……」
では飲む前に一言。
「トカゲ、私が最も畏怖する相手として、その姿を選んだのでしょうけど、貴方では中身が足りていないわ。だから、次は別の姿を取る事をお勧めしておくわね」
「ぐっ……」
私は瓶の中身を一気に飲み干した。
ああいつもの、毒液の味だ。
飲むに堪えない最悪の味。
おまけに今回は無限の虚無に落ち込むような……そう、正しく死に向かうような感覚まである。
これが死の味なのだろうか。
ああ、本当ならば骨の髄まで味わい尽くしたいのだけど、死が相手では今の私ではまだ荷が重い。
≪呪術『毒の邪眼・2』を習得しました≫
≪タルのレベルが19に上がった≫
「む……」
『起きたでチュか……』
そうして私は薬の効果によって元の空間に引き戻された。
毒の影響は既にない。
『習得は……出来たようでチュね』
「ええ。習得は出来たわ。面白い経験もね」
『うわっ、碌でもない予感しかしないでチュ……』
私は自分のステータスを確認する。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・タル レベル19
HP:1,000/1,180
満腹度:82/110
干渉力:118
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・2』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・1』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の名手』、『灼熱使い』、『沈黙使い』、『出血使い』、『脚縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの支配者』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『蛮勇の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を知る者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを指揮する者』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』
呪術・邪眼術:
『
呪法:
『
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、『鼠の奇帽』ザリチュ、緑透輝石の足環、赤魔宝石の腕輪、目玉琥珀の腕輪、呪い樹の炭珠の足環、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトル、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
▽▽▽▽▽
△△△△△
『毒の邪眼・2』
レベル:20
干渉力:110
CT:10s-5s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象周囲の呪詛濃度×1.5(小数点以下切り捨て)+1の毒を与える
使用者周囲の呪詛濃度が高いほど、効果に上方修正がかかる。
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りの内に直接毒を生じさせるのだから。
注意:使用する度に自身周囲の呪詛濃度×1のダメージを受ける(MAX10ダメージ)。
注意:レベル不足の為、使用する度に推奨レベル-現在レベルのダメージを受けます。
▽▽▽▽▽
『チュ? 案外、控え目……いや待つでチュ、何か書かれていてはいけない一文があるでチュ』
「ふうん、『禁忌・
『無茶!? 無茶ってなんでチュか!?』
「なんのことかしらね~」
さて、『毒の邪眼・2』の効果量は……『熱樹渇泥の呪界』で使うなら、目1つで31、目12で372か。
その辺の普通のマップで使うなら目1つで8、目12で96。
これに私周囲の呪詛濃度による上方修正がかかるとなるとなると……おっと、呪詛濃度5のマップでも、一回で重症化まで持っていけるのか。
これは予想以上に強化されたかもしれない。
「あ、こっちの鑑定もしておきましょうか。見た目変わったし」
『そのうちしっぺ返しが来ても知らないでチュよ……』
私は蘇芳色に変わった毒鼠の杯を鑑定してみる。
△△△△△
邪眼妖精の毒杯
レベル:19
耐久度:100/100
干渉力:118
浸食率:100/100
異形度:19
邪眼妖精タルが毒の邪眼を手にするために用いた蘇芳色の杯。
周囲の呪詛を利用して呪いのこもった毒液を生成する。
覚悟を持って口を付ければ、新たに開かれた狂気の道が見える……かもしれない。
この杯の底は、もしかしたら呪限無の深淵に通じているのかもしれない。
注意:生成から10秒以内の毒液を飲むと1%の確率でランダムな呪いを恒常的に得て、異形度が1上昇します。
▽▽▽▽▽
「……」
『……』
カースですか?
「とりあえずダンジョンの核に戻して、噴水の中へ戻しましょうか。10秒以内がアウトなら、噴水のある広間に足を踏み入れなければ問題ないでしょう」
『そうでチュねー……』
私はダンジョンの核を私から邪眼妖精の毒杯に変更。
噴水にセットする。
そして、念のためにではあるが、噴水の構造を変化させて、毒液が噴水の外に出るまで10秒以上かかるようにしておいた。
これでまあ、毒ネズミたちやプレイヤーの異形度を上げてしまうようなことはないだろう。
検証についてはまた機会を見てで。
「ログアウトするでっチュよー」
『そーでっチュねー』
若干の現実逃避をしつつ、私はログアウトした。
この問題の解答は本当に幾つもあります。
論理問題に見えますが、本作が自由度の高いVRゲームであることをお忘れなくです。
09/12誤字訂正
09/13誤字訂正